87話「女神さま、おしおきのチョップされる!」
生き残った天使軍団は全て捕縛されてトホホしながら連行されていった。
マーエルも流石に観念して、大人しく連行された。
上機嫌とモットツオ王様はかんらかんら笑う。
「さすがは世界天上十傑で最強のアッセーだ!」
「それは言いすぎじゃね……」
「何を言うか! あれがタイヨーっていうんだろう? 異世界の光珠の再現って言うじゃないか!?」
「本物の太陽はもっとスケールが大きいけどな」
「ともかく」
王様はコホンと咳払いする。
そばでカナーリ姫がモジモジして頬を赤らめていた。アッセーはジト目……。
「婚約破棄で」
「「何も言っとらんわああああいっ!!」」
モットツオ王様とカナーリ姫が揃って叫ぶ。
「もったいないのお、それほどの男を独身のままにしておくのは」
「だってオレは独身のままが好きだからなー」
「考え直せー!!」
カナーリ姫は両拳をブンブン振って抗議する。すると!
「ユミがいますっ!」
「アルローがいるのですっ!」
「この聖女がいながらも、それは捨て置けませんね!」
「婚約済みのローラル令嬢を無視とはいただけませんわ!」
「あなたの独身は許さない! このハーズが頑張って婚約する!」
なんとユミ、アルロー、マトキ、ローラル、ハーズが揃って抗議してきたぞ。
アッセーとしてはいい迷惑なので「たはは」と苦笑うしかなかった。その後は豪勢な宴会を開き、平和を祝っていった。
そして寝静まったその夜…………。
アッセーの意識は遠く深いところへ沈んでいく。
そして一転として明るい天上世界へ誘われて、見知ったプライベート空間へ降り立った。
海底の白い砂が見えるほど透き通った海で、周囲には虹色の珊瑚礁みたいな神殿が所々建つ。
《とりあえず天使族の駆除お疲れ様》
なんと上機嫌な女神エーニスックさまが労ってきたぞ。
その後ろで美女の天使が控えめに佇んでいる。
《え? ええ?? 天使の部下いたんか??》
《改心したフェミニエルよ。さっきまでは引きこもりで醜いプライドと欲望によって顔が歪んでたので、叩き直して整形に成功したところよ》
《ええええええええッ!!? お、おどろぇた!! そんな変わんのかー!?》
あの鬼のようなブスだったのが、信じられない美人に変わったのだ。
骨格レベルで変わってるから、もはや別人だ。
《はい。アッセーさま、迷惑をおかけしてすみませんでした。二度とあのような黒歴史を繰り返さぬよう女神さまの下で修行をする所存です》
深々と頭を下げてきた。
《もう死んじゃってるから、そっちで悪さする事もないわ。それに天使もろもろ弟子として引き取ってるからねー》
女神さまが振り返る先で、縦横並んで正拳突きを繰り返す天使軍団が見えた。
なんか《セイヤッ! セイヤッ!》と気合い発して汗を流しているぞ。
元々はアッセーが奥義で蹴散らした際に死んだ天使の連中だろう。
《そっちで生き残った天使も死後に引き取るからねー》
《……なんにせよ、丸く収まったな》
《あとは、あんたがハーレム婚約をするだけどね》
女神さまはジト目でアッセーことナッセを見つめる。
たじろいでいると、後ろで神々しく眩い光柱が発生して全てを震撼させていく。
思わず驚いた女神さまが振り返る。
広範囲に吹き荒れた花吹雪、そして圧倒的な威圧が場を席巻。光柱から姿を現すは二人。
《ああ……あ…………!!》
あの女神さまが恐れおののいている。
成人男性と思わしき長身の青年。銀髪ロングで綺麗に整った中性的な顔立ち。色白の肌。耳が尖っている。瞳には六方の星型が灯っている。
全身を幾重の白い羽を巻きつけるようにして衣服代わりに覆っている。
背中から白い羽が放射状に開いている。まるで花のようだ。
かたやもう一人は姫カットの美女。冷淡そうな表情。色白の肌。耳が尖っている。瞳には星々と三日月が灯っている。
青年と同じく全身を幾重の黒い羽で巻きつけてドレス状に形状を整えている。
背中から黒い羽が放射状に開いている。
そして白と黒の花畑が足元から咲き乱れていって広範囲に広がっていく。緩やかな花吹雪が辺り一面を覆うかのように吹き荒れていく。
それはアッセーを器とするナッセも見覚えがあった。
《千年後の……オレと妻!?》
そう、転生前の世界でのできごとだ。
肉体を得たマリシャスに対抗する為に、秘術『タイムマジック・インテグレーション』によって千年後までの自分を統合して、妖精王として成長しきった自分と妻の姿。
それによって元凶であるマリシャスを完封したのだが、まさにそれの再現だ。
明らかに、ただ単に変身する自分とは段違いの人外……。
《すんげぇ黒く美しき令嬢ぉぉぉぉ!! 抱かせろおおおおおお!!!》
変態イルカが飛沫を立てながら黒髪妖精王へと飛びかかるが、見えない壁でバイーンと弾かれてしまう。
慌てて女神さまは変態イルカの頭を押さえて、一緒に平伏する。
《さ……さきほどは大変……失礼いたしました! あ……貴方たちはッ……!?》
《オレは千年前から来た妖精王ナッセ》
《同じく私は妖精王ヤマミ》
《み、未来の……妖精王さまッ!!? こっ……過去で……、何用でございましょうかッ……?》
あの女神さまが上擦っているぞ。
すると黒髪の女性が冷淡な視線を向ける。
《それは自分でよく分かってるんじゃなくて?》
《な、なんの事でしょう……?》
明らかに格上だと女神さまはガタガタ震えていく。
それに構わずヤマミがツカツカ歩み寄ってきて、女神さまはおののいて少しずつ後しざりしていく。
《勝手にハーレムを押し付けて、ムリヤリ交際させるんじゃないわよっ!》
ヤマミのチョップが頭上にスパコーンと炸裂し、女神さまはコミカルな顔で涙目を零す。




