81話「圧倒的な天使を圧倒するアッセー!」
サイツオイ竜王国で仲違いして追放されたはずのアッセーが舞い戻ってきて、倒されたドラギトをかばうように尖兵天使マーエルの一太刀を受け止めていた。
マーエルにとっては信じられない光景だった。
全力全開にした天使の全力を受け止められた事もあるが、女神さまから避けろと言われていた危険人物がドラギトと結託していた事にも驚くしかない。
しかし、これは好都合。マーエルにとってアッセーは獲物でしかなかった。
「とはいえ、この私の尻尾を掴む為に芝居を打っていたとはねぇ……。やられましたよ……」
「ああ。その後で転移の魔法陣でドラギトの元へ飛ぶ作戦だったが、面白いほど決まったな」
アッセーとモットツオ王様は作戦ゴニョゴニョ立てて、敢えて城を破壊するほどのケンカを演じた。
遠くからでも分かるような決裂なら、アッセーを警戒して出てこない犯人も引っかかるだろうとの事だ。
これほどケンカしてしまえば、二度とアッセーは戻らないと確信もさせた。
そしてその裏で、ドラギト部隊に転移の魔法陣を作れる龍人とアッセー側にカナーリ姫をそれぞれ分けた。
「婚約を諦めないという演技で、転移魔法陣が作れる姫様がオレを追っかけるフリしてたのさ」
「なっ!? そこは演技じゃなーい!!」
「演技って事にして欲しいのに……」
願望のつもりで作戦告白したら、カナーリ姫が抗議を上げてきてジト目で引く。
それに構わず憤慨して両拳をブンブン振るカナーリ姫。
「竜騎士ドラギト部隊でパトロールして犯人が見つかればよし。後は時間稼ぎしてもらって召喚魔法陣を生成して転移してこれたってわけ」
作戦を聞いたマーエルは怪訝に見下ろす。
「どちらにせよ、こんなガキを避けろと女神さまが命令してたとは信じられませんねぇ」
「女神さまって……、まさかエーニスック女神さま??」
「ほう? ご存知なんですか?」
アッセーとしては黒幕が、あの女神さまだとは思いよらなかった。
その後ろでドラギトを保護する龍人たち。そしてアッセーに続いて現れたローラル、アルロー、ユミ、マトキ、ハーズ、カナーリ姫が、巨大な天使におののく。
「つーか女神さまの目的は……?」
「エーニスック女神さまは、貴様ら亜人や魔族どもが目障りなのですよ! なぜなら人類が世界を支配するのに邪魔だからだ!! 故に我らが天使軍勢『ジャスティスメシア』がこれから粛清する予定なのだあぁ!!」
「えー……」
嬉々と自分の組織とその目的を語るマーエルに、アッセーはジト目で呆れる。
「あの女神さまが、そんな極端な思想持ってたんかい」
「貴様! 我が偉大なる女神さまを極端な思想とは、侮蔑にも程がある! 邪悪の極みなり! 正義の剣で裁いてくれるわッ!!」
正義を振りかざしながら悪魔のような笑みで巨大な剣で斬りかかる。
アッセーは太陽の剣で構え、激しいマーエルの剣戟を捌ききっていく。周囲の地形が崩されるほど衝撃波が荒れ狂い、大気が震え、残った森林が悲鳴を上げる。
「悪魔のクソガキは死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ーねえぇぇぇぇッ!!」
弱い者いじめするように、嬉々と自分の優位を確信して猛攻を絶やさない。
天から見下ろすかのような巨躯による巨大な天聖剣による圧倒的な剣戟なら、妖精王アッセーすらも凌駕すると思い上がっていた。
ここまで捌けるなら、徐々に痛みつけて苦悶に悲鳴を上げて命乞いするようになってきたらしめたものと思っていた。
しかしやけに粘るなと違和感もあった。
どれだけ攻め立てても、一向に崩せる気配がない。
「ほう! よろしい! いたぶり甲斐があるというもの! フォー・セイントスラッシュ!!」
四本の腕による横薙ぎ一閃が同時に繰り出される。
四つの巨大な剣閃が超高速でアッセーへ殺到する。マーエルは回避しないと確信して笑んでいた。
なぜならアッセーの後ろには仲間がいるのだ。
竜王国でケンカした時のように、庇いながらでは全力を出さないと知ってのことだ。
「避けられるものなら避けていいんですよ。ハハッ」
「正義の天使さまのくせにゲスだなぁ」
ガンガンガンガン、アッセーはなんなく四つの斬撃を相殺してしまう。
その激突の余波で地面が震え、粉雪が舞う。
しかしアッセーは澄まし顔で依然と余裕そうだ。
「なに……? ならば、今度はこれだあああっ!!」
なんとマーエルの両翼から無数の羽毛のような骨が飛び散って、それぞれ天聖剣に形成されてアッセーたちを包囲する。
数百本もの天聖剣が切っ先を向けて反射光で煌く。
仲間を巻き込んだ全方位攻撃なら太刀打ちできまいと確信。
「あのさぁ……、仮にも正義だって言うなら卑劣な事すんなよな」
「うるさいですねぇ! さぁ邪悪な仲間もろとも細切れに散りなさい! エンジェル・ジェノサイドーッ!!」
「ちぇ……結局そうなるんかい」
マッハで殺到する数百本もの天聖剣の嵐を前に、アッセーは太陽の剣を下段に構えた。
幾重もの天聖剣は容赦なく穿ち続け、飛沫が連鎖するように噴き上げていく。
なおもマーエルの背中から飛び散った骨が天聖剣を象って、完膚なきまで連射を絶やさない。
「ははははははははっ!! 悲鳴を上げて苦しむ姿を見られぬのが残念だが、これでは一溜りもあるまいッ! 仲良く地獄へ落ちるのだな悪魔のクソガキッ!!」
「あ、そう」
淡とした声に、マーエルは疑心に駆られた。
未だに包囲網からの容赦ない射撃は続いているのに、その一言はおかしい。
連鎖する衝撃波に囲まれながら「なんのこれしき!」とか「まだまだッ!」とか苦し紛れな声が出るのが自然なはず。
しかし噴き上げる飛沫のせいで様子が見えない。
「そんな強がりを──」
「ワンパターン過ぎて退屈だぞ。もうやめてもらっていいか?」
呆れかえるような一言に、マーエルはこめかみから冷や汗が垂れる。
更に膨れ上がる疑心。
余裕で言い放ってくるアッセーは一体何をやっているんだ、と焦りが募っていく。
剣しか脳がないクソガキがバリアでも張っているのかと思ったが、それでも防ぎ切れる物量じゃない事は確かだ。
そもそも一撃一撃がドラギトでさえ防げない威力だ。
「なら、これを破って見ろおッ!!」




