80話「悪魔のような邪悪な天使!」
竜騎士ドラギトが自身を覆う象る竜のオーラが撃ちだした雷球ブレスが、尖兵天使マーエルに被弾し爆発球が大きく膨らんでいった。
大気と大地が震え、烈風が吹き荒れて森林が薙ぎ散らされ、雪煙が爆ぜ飛ぶ。
大規模に立ち込める煙幕が晴れていくと、蓮のツボミかと思わせられる塊がそこにあった。
「む……?」
ツボミが咲くように、真っ二つに割れてゆっくりと地面へ広がっていく。中から無傷のマーエルが不敵の笑みを見せていた。
まるで蓮の上に立つ天使のようだ。
「この『聖骨』は絶対防壁にもなりうるんですよ。残念でしたねぇ」
「ならッ……!」
なんと大地を震わせて、竜騎士ドラギトを中心に凄まじい稲光が激しく迸っていく。
半透明の竜のオーラの中に、骨格が鎧のように具現化されていく。
まるで竜のオーラで包みながらも竜の骨で作られた鎧を着たドラギトのようにも思わせられる。
「更に質が上がりましたか……! これまで以上にとてつもない威圧を感じますよ」
「ドラゴン化・第二形態だ……!」
オーラに加えて骨格の具現化。その足が力強く踏みしめられ、大地が爆発。
雪原が飛沫を立てて、マーエルの後ろへ回り込むドラギト。余裕だったマーエルから笑みが消え、天聖剣で槍を受け止めた。
凄まじい衝撃波で飛沫が高く噴き上がる。
吹っ飛ぶように後退するマーエルは数度雪原を跳ねて、滑りながら着地。
ニッと笑う。
「グオオオオオオ!!!」
まるで本物の竜のようにドラギトは獰猛に吠えて、大気を震わせ、烈風を起こす。
手に持つ槍にも、オーラで覆った上に骨格がバキバキ形成されていて、より強固に拵えられた竜の槍になっていた。
「この天聖剣に張り合うつもりですかねぇ」
そうは言っても大気がビリビリ震えている。
竜騎士ドラギトはギッと睨み据え、大地を爆発させて地を蹴る。
猛る竜のように竜の槍を振り回すと、周囲が飛沫を立てて高く舞い上がる。それを数回、マーエルへ叩きつけていく。
そんな絶大な攻撃力なのに、マーエルは相変わらず天聖剣で捌いていく。
「年季が違うって事を思い知らせましょうか!」
雷が迸って、ドラギトが縦横無尽に駆け抜けながらマーエルへ猛攻をしかけていく。
それだけで周囲の地形が破壊し尽くされるほどの規模だ。
さすがのマーエルも掠り傷を徐々に負っていく。鋭い突きが煌めいたところでマーエルは二本の天聖剣を交差して防ぐ。
後方に衝撃波が走って飛沫が舞い上がって破片が流される。
「終わりだッ!!」
竜骨含める龍のオーラが口を開けて、稲光迸る雷球を撃ち出す。
軌道上で飛沫が噴き、被弾したマーエルを爆発球が呑み込む。さっき以上に膨らんで破壊を撒き散らしていく。
遠くから見ても輝く爆発球が見て取れるほどで、積雪すら蒸発し、森林が燃え尽き、山をも削る。
はるか遠くにも大地の揺れが及び、人類領の人々にも畏れが伝染した。
魔法陣を完成させた龍人は「やった!」と勝ちを確信した。
「私が……何年、天使をやってると思ってるんです?」
なんと爆発球が爆ぜて、衝撃波が周囲へ吹き荒れていく。
そして羽毛を連ねた鎧を纏う巨大化した筋肉隆々のマーエルが現れた。全長十メートルほどだ。ハゲ頭には葉冠のように羽毛のような骨が重なって隆起している。
二本だった腕が四本になっていて、四本の天聖剣を握っていた。
「な……に…………!?」
「君がそうであるように、私にも更に上があるんですよ。さぁ、この完成された天使の力を目に焼き付けて裁かれなさい!」
龍人たちは恐怖でおののく。
竜騎士ドラギトですらも、圧倒的な威圧に戦慄するしかない。
……武力五〇万クラスとは、もはや天上たる底知れぬ力!
「ダブルエックス・ホーリースラッシュ!!」
四本の腕で繰り出される二つの交差した斬撃が大きく膨らみながら、ちっぽけな竜騎士ドラギトを押し潰す。
眩い閃光とともに甚大な破壊が土砂と破片を巻き上げて、天地を揺らした。
煙幕が晴れると、竜のオーラも消えててボロボロにされた血まみれのドラギトが仰向けで倒れていた。
「ガ……ハッ!」
堪らず吐血。
雲から神秘的な光の帯が下りてくる最中で、悠々と下りてくるマーエル。
まさに天使と言うしかない恐ろしい光景。
「天界に唾すると、このような目に遭うと地獄で後悔しなさい。さぁこの天聖剣で潔く……死ね!!!」
慎ましい表情から、狂気に表情を変貌するマーエルが剣を振り下ろした。
凄まじい激突音がして、眩い閃光が爆ぜた。
「そこまで!」
悪魔のような笑みを浮かべたままマーエルは、自分の一太刀が受け止められた事に疑問を抱いた。
こんな誰も受けきれない巨大な天聖剣を?
なんとドラギトより小柄の銀髪ロング舞う少年が、太陽を模した剣で天聖剣をしっかり止めていた。
「は……?? え……? きさま……アッセー…………!?」
彼の足元に花畑が沸騰するように咲き乱れる。
そして背中には四枚の妖精の羽、舞い上がる銀髪ロング、目の虹彩に星のマークが灯っている。
まさしく竜王国から追放されたはずのアッセーそのものだ。
女神から接触を避けろと言われた危険人物が目の前にいるのだ。マーエルは驚愕するしかない。
「まさかコテコテな作戦に引っかかるなんて思ってなかったぞ」
「貴様! 追放されたのではないのかッ!?」
「あんたの尻尾を掴む為に芝居打ってたんだよ。まさかマジに受け取って出てくるなんてな」
マーエルはドラギトを睨むが、当人は笑んでいた。
「最初っから謀ってたな……!」
「これで貴様は終わりだ! 悪魔め!」
しかし妖精王アッセーを前に、マーエルはクックックと肩を震わせて醜悪な笑みに表情を歪ませていく。
バキバキと悪意に反応するように背中から白い翼が禍々しく大きくなっていった。
「女神さまの命令に背きますが、それ以上に貴様を討ち取れれば計画としては大きく前進しましょう。どうせ、遅かれ早かれ貴様とやり合うんですからねぇ!」
未だ驕ったマーエルは嬉々としていた。




