8話「追放モノのパーティー入るぞ!」
大陸を回る交易路でアルンデス王国から出て、ヤンバイ王国に入った。
無事馬車は首都入りしたので、オレたち冒険者も開放された。
「結局、Aランク冒険者が誰だか分からないまんまだったな」
「そうね」
「ふん、我々の仕事を視察している隠れ冒険者かもな」
アッセーは苦笑い。
三日間の馬車で、ただ空気弾撃つだけだったが誰も気づかないままだ。
「なぁ? 風の魔法のアレ、Aランクって分かるんですか?」
何も知らない新米のアッセーが相手だからか、マルクたちは素直に頷いた。
「普通は魔法って詠唱から入って撃つんだ。誰が撃ったか丸分かりだからな」
「私の見てたでしょ? 無詠唱で殺傷力のある風魔法は撃てない」
「ふん。相当な魔道士だろうよ。でなきゃそんな真似できねぇ。長年冒険者をやってきたが、あんな凄いのは初めて見たぞ」
「それは凄いなぁ……」
白々しく言ったが、誰も疑っていない。
一緒にギルド行って報酬を受け取ろうか、という話も出たが断った。
別にパーティーを組んではいないので解散したら、それきり。一人になったアッセーは適当に散策する。
ヤンバイ王国……。
結構な大国。貧富の差が広がっている。貴族とか豊かだが、路上生活者もちらほら見かける。
ボロい空家も少なくない。
駆け寄ってくる貧乏のスリが体当たりしてくるが、ひょいと身を逸らす。素早く懐へ手を出してくるのも見切った。
「そうするしかないんか」
舌打ちして通り過ぎるスリ。
検挙してたらキリがないほど、スリや盗人が多い印象。
強盗に絡まれたりもあったが威圧込めて睨んだら気絶した。
「物騒な国だな」
ギルドへ入り、依頼を受け取ろうとする。
「あら? 新米の冒険者なのに、結構倒してきてるね」
「分かるんだ……」
冒険者カードを提示すると、何人か倒した経緯が読み取られた。
「不正されないように、所持者の周囲を記録してるんですよ。これも神や精霊の支援です」
受付嬢が愛想笑いで解説しながらカードをカウンターの魔法陣にピッピしている。
アッセーは頭を掻いた。
「ええええええええええっ!!?」
「な、なんだぞっ!?」
受付嬢が声を張り上げて驚くもんだから、周囲の冒険者まで竦んだぞ。
なんかギルドマスターの部屋まで通された。
「先ほどの馬車の件はお前か!」
かれこれ何十年もやってる大男。ギルドマスターはぶてぶてしくアッセーを見下ろす。
そばで受付嬢がおろおろする。
正体不明の風魔法のウワサがここにも飛び交っていたが、誰なのかも分からずじまいだったのが判明したのだ。
「ビックリしたぞ。最下Dランクから最高Aランクへ飛び級などと生きてて初めてだぞ」
「わりぃ。やっぱ精霊の目はごまかせねぇか」
「……アッセーか?」
「あ、違う……違います」
「正直に言え」
「あ、はい。すみません……。アッセーです……」
小さくなるアッセー。
やはり冒険者カードは侮れない。確かに不正はできないな。
「なぜ隠す? 無罪放免になったんだろう?」
「面倒になるのも困るんで……」
「気持ちは分からんでもないがな」
ギルドマスターは背もたれに寄りかかる。
「わりぃけど、普通に依頼こなした事にしてD級のままにしてくれねぇ?」
「隠しAランクにはしてもらうが、いいか?」
「え?」
受付嬢が前に出る。
「中にはエリート冒険者が公式で隠れAランクで低級冒険者として紛れ込んで、他の冒険者を視察したりとかもあります」
「あのヒネた男の言ってた事は本当だったんだな。視察してるヤツ」
「馬車にはいなかったがな」
突然の飛び級は、他の冒険者も不審がるので隠しにしてもらった。
カードには特殊な透かしでAランクが見えるようになってて、受付嬢などギルド員や一定以上の冒険者にしか分からない。
ちなみに本名のフルネームも同様に記されている。表向きはナッセとだけ。
「ついでといっちゃなんだが、依頼を受けてもらえないか?」
「ああ……いいけど」
なんかギルドマスターに頼まれた。
再び、冒険者が集っている広場へ戻った。
依頼板に張り出されている依頼紙を眺めたり、うろついたりして初心者丸出しの行動を繰り返していると、該当する冒険者が近づいてきた。
「おまえ新米か?」
「あ、ああ……。アルンデス王国出身の……Dランクのナッセです。剣士やってます」
「ほう」
赤髪の剣士を筆頭にしたパーティーが絡んできたぞ。
「我らが『獄炎』、仲間に入れてやるよ。依頼がやりやすいぜ?」
「いいのか? 助かる」
──というのも依頼の内である。
次々と新米が不審死するパーティーの視察だ。ガチで追放のアレかな?
「俺はリーダーの烈火剣士セラディス」
赤髪を逆立てた剣士。体格が大きく、ヤンキーっぽい。
「ふふっ、可愛い坊やね。あたし魅惑の魔道士ザレよ。よろしくね」
黒い三角帽とローブ。紫のショートヘア。胸の谷間が見える色っぽい美女。
「僧侶テレンスです」
メガネをかけた真面目そうな男僧侶。背が高い。
「おい! お前!」
「は、はいい!! わたしは……運び屋のユミです……」
大きなリュックを背負う、内気そうな黒髪の少女。ビクビクしている。
他の三人と比べて少々汚れている。
あんまり境遇がよくなさそうだ……。よくある追放モノなら、追放寸前か?
「気にするな。役立たずだが、他に運び屋いねぇからな。ちょうどアタッカーが一人欲しかったんだ。ナッセよろしくな」
握手を求められて、すんなり応じた。