74話「ドラゴン娘、成長早すぎる件!」
「てっきりドラゴンは卵を産んで増えるものと思ってたなぁ……」
午前の授業を終えて、ハーズと一緒に食堂で昼飯を食べていた。
ローラル、アルロー、ユミ、マトキも同席しているが、どことなく諦念してる気がする。
「そんな知識、どこで得たのです?」
「転生前の世界でね」
「鳥じゃあるめーしなのです」
「たはは……」
アルローも割と博識で、龍人神官トウビの生物学と同等に知っているようだった。
「魔獣の種かぁ……」
「実際は野生化したドラゴンの一部でも、魔獣の種になるのです」
「あー……」
それでやけに野生ドラゴンが多いと思った。
ドラゴンになれると思って摂取した人が、うっかり暴走の発作を許して野生化したのかなと想像する。
ワイバーンとか緑のドラゴンとかうじゃうじゃしてたし。
「そうなんですの? 私も食べてしまったらドラゴンになるのかしら?」
「食べても全然ならない時もあるのです。個人差があるのです」
気になったローラルに、アルローがそう返す。
そういや聞いた話だけど、マイシの村で全員に魔獣の種を摂取させたが、ドラゴンの力を得たのは二人だけだったっけな。
マイシと妹のナガレ……。
「割と確率低いんだな」
「そうなのです! ほいほいドラゴンが増えられたら世界滅ぶのです!」
「そりゃそうか……」
龍人は上位生命体のドラゴンとは別なので、体の一部を他の生物に食わせても『魔獣の種』のように変化しない。
エルフも同様に『妖精の種』として出せない。
「オレの体の一部でも『妖精の種』になる?」
「まだ幼少期なのでムリなのです。ヒトだって第二次性徴を迎えないと繁殖できないのです。それと同じなのです」
「へぇ~」
ロリなアルローでさえ、第二次性徴を知ってるなんてエルフの教養すげーな。
「それは残念ですわね……」
「うん」
なぜかローラルとユミがガックリ項垂れている。
あわよくば『妖精の種』を摂取して、オレの眷属になろうとしてたんかな?
午後の授業は、数と計算や簡単な漢字の勉強だった。
生物学とは打って変わってポピュラーな勉学だ。しかし驚くべき事が起きた。
「わたしドラゴン種のハーズは、妖精王アッセーと同じ上位生命体。友達はエルフのアルローとヒトのユミとローラル姉さんとマトキ姉さん」
こちらを次々指さして、それぞれ認識していた。
アルローは友達とされて膨れっ面してたが、ハーズの勉強に付き合ってるので我慢してくれた。
「あの、私はアッセーの恋人です」
「ユミはアッセーの恋人? 恋人とは互いに愛する関係。アッセーはその意識がない。まだ一方的。わたしも同じ、頑張る」
「むう」
ユミは不満そうにこちらを凝視してる。
ハーズまで恋人目指してるのが判明して、内心めんどくせぇと思ってしまった。
「と……ともかく、人間関係まで把握しているのは偉いな」
「えらい。えへへ」
前よりも笑顔に磨きがかかってる。にっこりしてきた。
晩になる頃はユミと同じくらい成長していた。さっきまでカタコトだったのに普通に流暢に会話できるレベルになってて、驚かされた。
本当に七歳かってくらい賢い。
足し算引き算はもちろん、掛け算割り算もあっさり。中学レベルの教養も身についてしまった。
おそらく高校レベルも明日で会得してしまうかもしれない。
「そこまで成長するのは恐ろしいな……」
同じドラゴンのマイシだってヤンキーっぽいのに、割と頭が回るしなぁ。
オレも言葉巧みに丸め込まれて、四首領ヤミザキの屋敷へ一緒にカチコミさせられたもん。
「だが、これはチャンスでもある」
「それはなんなのです?」
「そのままドラゴンとして高い知性を発揮し、理性を備えれば、自他との関係を理解して感情と折り合いがつけるかも知れない。そうすれば、ここに預けられる!」
「置いていくなら暴走するよ……」
聞いていたハーズがジト目で膨れっ面していた。
「それはやめてくれ! オレが悪かった!」
「むーん」
頭を撫でろ、と近づけてくるので撫でるしかない。
アルローは「責任取るしかないのです」とジト目だ。
夕方頃、とは言っても塔山へ光珠が隠れそうな時刻だが、ハーズと国の外で稽古をつけていた。
「グオオオオオ!!」
竜を象るウロコのオーラを纏って、アッセーの光の剣と格闘を繰り返していた。
前の時のように乱雑に飛びかかっていたのに、今は「いかに攻撃すればいいか?」と考えるようになってるのが窺えた。
武の心も獲得し始めているので、手強いという手応えが伝わる。
「ガッ!」
そう吠えたハーズが竜の頭を象るオーラから火炎弾を撃ちだし、アッセーは剣で裂いて後方で爆発させる。
しかし瞬時に横へ回り込んでいたハーズが爪を振るってきた。
咄嗟に横へ剣を振るって激突。衝撃波が爆ぜて、周囲に雪飛沫が吹き荒ぶ。
「うおっ!」
しかもフェイントまで織り交ぜてきて、攻防の応酬に緩急が付き始めた。
マジで即戦力になるレベルだぞ。
そこらの下手な冒険者が束になっても勝てんぞ。これ。
「ここまで!」
アッセーがそう宣言すると、ピタッとハーズは動きを止めた。シュワシュワオーラのウロコが収まっていく。
今度はユミが木刀を手に、歩んできていた。
「今度はユミと稽古する。ハーズちゃん見てていいからね」
「うん」
ユミと木刀で打ち合う。
王子や聖騎士の時のように突っ立ったまま捌くのではなく、構えて正しい剣技を繰り出してユミと斬り合っている。
見て覚えさせる為に、敢えてそうしている。
「はあっ!」
「いいぞ!」
ユミは素早く走り抜けながら斬りかかってくる。
ヒット&アウェイみたいな感じで、翻弄しての戦い方が固まっているようだ。
……さすがにハーズほどパワーもスピードもないが良い傾向だ。
塔山へ光珠が隠れて、真っ暗闇になったら国へ帰って、暖かい晩飯でほっこりする。
そうして一週間が経った…………。




