72話「サイツオイ竜王国だぞ!!」
翌日、商団馬車に乗ってガタンゴトン揺られながらサイツオイ竜王国を目指している。
馬車の中でドラゴン娘ハーズは次第にアッセーへ懐いているのか、無言ながらも側につきっきりだ。
同じ内気なユミがアッセーの腕に抱きつくと、ハーズは頭を傾けてくる。
「混ぜるのです!」
アルローが割って入ろうとすると、ハーズは牙を見せて「むー」と軽く唸ってくる。
苦笑いするアッセー。
マトキは「あらあら」と微笑む。
「シャギオオオオオッ!!」
度々の襲撃を迎撃している最中、今回の白いドラゴンの件で変化が起きた。
今度の白いドラゴンは一回り大きく、黒い筋が全身に走っている。両翼を広げて威嚇するように吠えている。
アッセーたちも、いつもの通り馬車から飛び出そうとする。
「さぁ……行」
高速で何かが飛び出したと思ったら、なんとハーズが竜を象るウロコのオーラを纏って白いドラゴンへ飛びかかった。
同じく迎撃しようと馬車から出た冒険者は呆気に取られた。
アッセーは「ハーズ!?」と馬車から降り立つ。
「「グアアアアアアアアアアッ!!」」
まるで小さなドラゴンが、白いドラゴンと獰猛に吠え合っている。
いきり立ったハーズは獰猛に飛びかかり、オーラの爪で振り下ろす。白いドラゴンの爪も同時に振るって来て激突。
衝撃波が爆ぜて、雪飛沫が四方八方に吹き荒れた。
「グオオオオオ!!」
ハーズは暴走気味で白いドラゴンと激戦を繰り広げ、氷塊や木々の破片が飛び交う。
白いドラゴンは怯みつつも「ガァアッ!」と巨躯任せに押しのけようとする。
凍えるような吹雪を吐かれて、ハーズは苦悶しながら吹っ飛ぶ。それをアッセーが真正面で受け止めた。
「ハーズちゃん! 大丈夫か!?」
「ヴヴ……!」
暴れて跳ね除けようとするも、アッセーだと分かると大人しくなっていく。
限界だったらしく全身を覆うウロコのオーラが皮膚へ吸い込まれて、ぐったり気絶してしまう。
「シャギイイイイッ!!」
白いドラゴンはアッセーへ飛びかかるが、光の剣の一閃が煌めいて両断された。
爆散する最中、踵を返したアッセーはハーズを姫抱っこしながら馬車へ戻っていった。
「珍しいですわね……」
「ああ」
駆けつけたローラルに頷く。
次第に懐いているせいか、初めて自分以外の為に戦ってくれたのだろう。
まだ幼いというのに健気である。ただドラゴン娘なので猛獣なのは変わりがないが。
「なんだか嫌な予感がするのです……」
アルローはプルプル震えている。
「私もですね……」
「ユミまで!?」
「あらあら」
マトキは微笑んでいる。
商団馬車が走る事三時間、ようやくサイツオイ竜王国が雪原に建っているのが見えてきた。
強固な城壁で囲んだ無骨な王国だ。
出入り口の門では、龍人が門番をやっていた。
「ゲキリンさんみたいなのがたくさんいるなぁ」
「なのです」
「怖いですね」
町は城壁のようなレンガ積みの家が並んでいる。
冷えているというのに防寒具を着ない龍人が平然と歩いているのが見える。半袖の龍人すらいる。
丈夫な皮膚で多少の低温もへっちゃらってトコか。
「まずギルドへ向かおう」
商団馬車から降りて、アッセーたちはハーズを連れてギルドへ向かった。
ハーズは相変わらず無口だが、アッセーと手を繋いで歩いている。
ギルドにも龍人がたくさんいる。おっかなさそうな感じだが、至って穏やかだ。
「依頼通り、ドラゴン娘ハーズを連行してきた」
「ご苦労様です。アッセー様」
受付の龍人は丁重にお辞儀してくれる。
「ハーズちゃん、もう大丈夫だぞ。同じ仲間が迎えてくれるってよ」
「いやだ! いっしょにいたい!」
なぜかハーズはアッセーを包むマントを掴んで離さない。
困った受付龍人は「里親が待ってますよ」と連れて行こうとするが「ヴヴー!」と唸られて、怯む始末。
「あの? 仲間のドラゴンさんがたくさんいるから、仲良くできるよ?」
「いやだ!」
ブンブン首を振る。幼子らしいワガママだ。
「しょうがないですねぇ。すみませんが里親まで連れてってくれません?」
「しょうがねぇな……」
「すみません。アッセー様。イロを付けますので」
「ああ。里親の場所を教えてくれ」
「では」
場所を教えてもらい、向かうと立派な教会が聳えていた。
扉を開くと、重厚な装飾やステンドグラスが広がっていて、目移りしてしまう。
「何用ですかな?」
なんと独特な神官服の龍人がにっこり微笑んできた。
説明すると、ギルドからの連絡も来てて「ああ、アッセー殿ですな」と中へ入らせてくれた。
客室へ招かれてソファーへ並んで座っていく。
「ふむ。ヒトのハーズですな。確かに里親として引き取るつもりでしたが……」
アッセーにしがみついて離れる気がないハーズに、ため息をついた。
「このロリコンにたらしこまれて、懐いてしまったのです!」
アルローはプンプンとご機嫌斜めだ。
ユミもジト目でむくれている。
「里親として育てるつもりでしたが、やはりアッセー殿が引き取ったほうがいいでしょうな」
「え……? ちょっ……」
「無理に引き剥がして、暴走されてはたまったものではないでしょうし」
確かに想像できる……。
ドラゴン娘だから余計、癇癪を起こすと手に負えない。
「オレが懐かせたコツ教えるからさ!」
「そういう問題じゃないですよ。暴走を繰り返されたら、最悪な事態になります」
「最悪な事態……??」
深刻な顔で神官龍人は頷く。
「ここに来るまでドラゴンが襲いかかってきたでしょう?」
「あ、ああ……。それが何か……?」
「あれこそ、暴走を幾度なく繰り返したせいで理性を徐々に消失していって、ただの猛獣に成り下がったドラゴンなのですよ」
アッセーは衝撃を受けた。
ローラル、アルロー、ユミ、マトキも同様に衝撃の事実に驚くしかない。
「魔獣の種を摂取したヒトのみならず、多くの生物が暴走に身を任せるようになって野生化したのです! 全部!!」
念を押すように神官龍人は言い放った。




