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71話「魔獣の種による症状! ドラゴンの暴走!」

 多重結婚式が終わってから、アルンデス王国ギルドから頼まれた極秘の依頼。

 魔族領の続きを冒険するなら引き受けてもらいたいと頼んできた。


「手に負えなくなってきたから、済まないが魔族領のサイツオイ竜王国へ連行してくれないか? 暴走する発作を抑えられるのはアッセーさんぐらいだ。頼む……」

「ああ、いいぞ。経験あるからな」


 というわけで二つ返事で引き受けた。

 ギルド職員のそばにローブで包んだ人間の子ども。連行対象。俯いてて目に光が宿ってない。一見すればネグレクトされた小汚い娘のようにしかみえない。まだ七歳頃で転生前の社会なら小学生ぐらい幼い。

 しかし実態はほぼ逆。


「両親が才能のない娘を嘆いて『魔獣の種(ビースト・シード)』を食べさせた結果、暴走するようになって手離すしかなかった。少年院や教会へ預けるには危険すぎるのでやむを得ず……」

「あのさぁ……、両親も両親でひどいよな」

「まぁ……そうだが……」


 アッセーは知っていた。似た症例を体験した事もあるからだ。

 転生前でマイシっていうドラゴンの力を宿した同級生がやさぐれてて、一度は死闘をした事があった。

 本当に恐ろしい力で死ぬかと思ったくらいだ。


 ドラゴンは元々高い攻撃力を秘めていて、幼子でも武力数万に跳ね上がるほどだ。

 それ故に周囲の人間が被害を被る例も少なくない。

 軽く遊んでるつもりが、大怪我させてしまったりなど割と多い。

 だから周囲の人間から恐怖したり嫌悪されたりなどされて、精神的に参って暴走する一因になる。マイシもそうだった。ずっとぼっちだった。




 こうして依頼を引き受けて数日になる。魔族領へ入って順調といったところであった。


「ヴヴ──ッ!」


 馬車の中でローブで身を包んでいた子どもが唸りを上げてくる。開いた口から牙が窺える。

 側にいるアッセーは「大丈夫大丈夫」と背中をさする。

 徐々に唸り声が収まっていく。

 馬車を操縦している魔族も緊張してか、汗を垂らしていた。


「今はもう嫌なやついねーからな? ハーズちゃん」

「ヴ……」


 ハーズと呼ばれた娘は落ち着いてきたようだった。


「嫌な事を思い出してたのかしらね」

「蒸し返して発作が起きてたりするのかもな……」


 ローラルの言う通り、そんな気がする。嫌な事を何度も思い出したりして感情が昂ぶる。

 虐待やイジメを受けた子どもにはよくある事かもしれない。

 ただ、今回はドラゴンの力を宿した七歳の子どもだ。


「鈴で大人しくさせちゃえばいいのです」

「そうはいかないだろ……。オレ以外浄化の鈴を生成できる人いないし」

「そ、そうだったのです……」


 確かにアルローが言うように鈴で鎮めればカンタンだが、依頼が終わった後はどうする?

 子どもを受け入れた先で暴走されたら溜まったもんではない。


「それに……」


 マイシと触れ合って分かっている事がある。




 晩飯の為に商団馬車は停車して、焚き火を起こしてみんなで腹を満たしている頃……。

 雪原の真っ只中で除雪して、テントを建てて、魔法で焚き火、割と重労働だ。

 幸い雪も降らなく空に雲がない。

 それでいて彼方の地平線で、無数の『光珠』による天の川が窺えるのは好天候の証。


「さ、始めるか」

「ん……」


 晩飯を済ませたアッセーは立ち上がり、ハーズに手を差し出す。

 ローラル、アルロー、ユミ、マトキは首を傾げる。他の冒険者も怪訝そうに眉を潜める。

 それに構わずテントと焚き火から、程よく距離を離した位置でアッセーはハーズに向かい合う。


「いいぞー。思いっきり暴れてこい」

「ヴヴヴ……」


 ハーズ自身でも抑え込めてた荒い気性を、アッセーは快く言ってくれて開放していく。

 全身を包んでいたローブを脱ぎ捨てた。キャミソールの簡易な服で未発達の肢体がさらけだされた。するとボコボコとウロコ状の分厚いオーラが皮膚から浮かび出していく。

 濃密度のオーラが液状化して硬質化している。そのウロコが連なっていって、右腕を半透明の竜の大きな腕が覆う。

 しかもボコボコと無数のオーラのウロコは全身にも広がっていく。

 頭を半透明の竜の頭が覆い角が形成されていく。尻からはウロコが集まっていって尻尾を象っていく。


「おー! まるで小さなドラゴンだ」

「グオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」


 ハーズの頭を覆う半透明の竜が吠えて、大気を震わせて雪原が振動する。烈風が巻き起こって雪飛沫が流れる。

 他の冒険者も魔族の商人もビリビリ威圧に押されてビビる。


「さぁ来い! 思いっきり遊んでやるぞー!!」


 ハーズは怒りの形相で牙をひん剥き、目の縦スジがギョロリとする。

 四つん這いで屈んで、手足を覆うドラゴンの手足が雪原を溶かしていく。


「グオッ!!」


 獰猛にハーズがアッセーへ高速で飛びかかり、竜の大きな爪を振り下ろす。それをアッセーは光のナイフで受け止める。

 足元から積雪が爆ぜるように粉々に吹き飛ぶ。

 ハーズは左右交互に爪を乱雑に繰り出して、アッセーはそれを捌いていく。

 激突するたびに周囲が震え、烈風が吹き荒れ、轟音が劈く。


「あれで七歳の女の子かよ……?」

「あのアッセーと渡り合うとかヤベーな!」

「ドラゴンってマジで恐ろしいな」

「ああ!」


 他の冒険者が戦慄する最中で、アッセーとハーズはあちこち駆け回って激突を繰り返していた。

 巧みにアッセーがテントへ向かわないように誘導しているので、被害はない。


「ガカッ!!」


 ハーズの龍の頭が口を開けて、火炎弾を高速で撃ちだしてきた。

 アッセーは光のナイフで左右に裂いて、後方で大爆発。それでも火炎弾が連射される。

 ことごとく斬り裂いて後方で爆発が連鎖していく。


「フゥ────……!」


 白い息を吐いて、ハーズは全身を覆っていたオーラの連なったウロコが収縮されて皮膚へ吸い込まれていく。

 ストレスを解消したな、とアッセーは察した。


「スッキリしたか?」

「うん」


 ハーズは頷く。そして再びローブで全身を包む。

 ドラゴンは気性が激しいので、ずっと抑え込めるものではない。ストレスが溜まって暴走しやすくなる。

 誰も傷つけまいとハーズ自身でも抑え込んでて制御しきれずに暴れてしまう。

 でも、今はアッセーが許してくれるから安心して暴れる事ができてスッキリできていた。


「さすが幼女の扱いに長けたロリコンなのです……」

「うっせぇ!」


 アルローの余計な一言に、アッセーはしかめっ面だ。

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