7話「異世界で冒険者やりまーす!」
ガタンゴトン、大きな道を馬車が縦に並んで走っている。
その内の一つ馬車の中でアッセーはあくびをする。
「勢いよく飛んでったけど、考えてみれば誰も飛べねぇんだよな……」
元々は悪役令嬢と婚約して、しかし王族にハメられて婚約破棄された上に処刑されかけた貴族。
なんやかんやあって解決して王族から謝罪を受けて無事終わった。王子さまも反省し、悪役令嬢も改心したし、なんの蟠りもなく解消したのは最高だ。
そしてアルンデス王国の冒険者ギルドへ登録を済ませて、さっそく依頼を受けて馬車に乗ってる。
「飛ぶ?」
「ああ、いや気にしないで」
同じ乗っている冒険者に聞かれて、手をパタパタ振る。
怪訝そうに見られたが、なんかの意味に解釈したのか追求は来なかった。
「しっかし、この大陸をぐるっと回る交易路かぁ」
「初めてか?」
「ああ」
「……貴族の出か?」
「本を読んで知ったが、こうやって実際に回るのは初めてだぞ」
「やはりね」
他の冒険者が次々と話に乗ってくれる。
ここんところ、ずっと馬車移動だからな。退屈でしょうがない。
商人たちが走らせる馬車には貴重な荷物が積まれている。オレたちはその護衛の依頼を受けている。
「あなた、新しく登録した冒険者ね。なぜ貴族が国の騎士などにならず、冒険者をやらざるを得なくなったかは聞かないでおくわ」
なんか女僧侶が勘違いしてるみたい。
とはいえ、国の騎士だなんて退屈そうだからごめん被りたいなぁ。
「まだ最下のDランク冒険者か」
「ああ。よろしくな」
「ふん、貴族だか王族だか知らねぇが遊びじゃねぇんだ」
「まぁまぁ、いいじゃないですか」
確かに色んな冒険者がいる。
アルンデス王国のギルドでオレは冒険者登録して、最下ランクからスタートだ。
護衛の依頼は受けれるけど、他のランクが高い冒険者と一緒という条件下だ。
「オレは戦士マルク。Bランク冒険者。二十三年もやってるベテランだ」
腕を組んだままふんぞり返っている軽装鎧を着たオッサン。
「私はCランク僧侶のウルーナよ。よろしくね」
白い僧侶服で水色ロングの美女がにっこり。
自己紹介もしないヒネくれた盗賊風の優男が寝そべって何も話さない。フン、しか言わない。
「オレは新米の冒険者ナッセだ、です。よろしくお願いします」
アッセーまんまだと色々面倒なので偽名で登録した。
冒険者ギルドは色々ワケありが多いから、好きな名前で登録できるんだ。まぁ、複数偽名で登録はできないらしいけどな。
「今は暫定的なリーダーとして引き受けているから、有事には指示する。従ってくれ」
「ああ。分かった。よろしくマルクさん」
「ナッセ、剣は一度も使ってない新しいヤツだな。訓練はした事あるのか?」
「十年以上はしたかな?」
「……モンスターと戦った事ないな?」
「ああ(ここのモンスターは初めて)」
きっと『家内で訓練して普通に強いが、実戦経験のないヤツ』という貴族への先入観抱いてるかもしれない。
「今は戦うな。俺たちが戦っているのを見て血に慣れろ」
「分かった。そうする」
マルクさんはベテランだけあって、初心者に優しい。
冒険者になるって過酷らしいから、わざわざ登録する貴族はほとんどいない。王国の将軍とか隊長とか最初っから騎士団に組み込まれる。
「ふん、ちびっても知らねぇぞ」
「おい! シャキア」
「登録したはいいが、血に慣れずビビって逃げ出す没落貴族多いじゃねぇか」
「それは言い過ぎよ」
「ふん」
寝そべっている盗賊風男……シャキアは本当にヒネてる。
「長年見てきたんだな……」
「かれこれ七年もやってりゃ、腰抜けども多くてしょうがねぇ」
ヒネた性格も、それ故かな?
「敵襲だ────っ!!」
大声が響くとなんか笛が鳴って、馬車がブレーキして止まる。
冒険者たちは素早く外へ飛び出す。マルクがアッセーに「待機してろ」と飛び出す。
外を見ると、数十人の盗賊が群がっているのが視界に入る。
「怖いか? だが、よくある事だからな」
シャキアはそう言うと、外へ出て向かっていった。
戦士マルクは盾を器用に使って盗賊の武器を逸らして、剣で斬り捨てている。
僧侶ウルーナは風の攻撃魔法を詠唱して発動している。盗賊シャキアはナイフを逆手に素早く敵の首をはねている。
確かに慣れたもんだ。血飛沫が地面に彩っていく。
他の馬車からも知らない冒険者が出陣している。それなりに強い。
アッセーからすれば、子どもがチャンバラしてるようにしか見えない。
「あ、やば」
腕のいい盗賊もいるから苦戦してる。
中指と親指でデコピンする構えして、圧縮もせず薄い魔力膜で空気の弾丸を作って弾く。突然、盗賊は吹っ飛ばされて横たわる。
「なんだっ!?」
「チャンスだ! トドメを!」
「……いや、事切れてる」
驚く冒険者だったが、誰かが支援したのと勘違いしてか戦闘を継続。
「割と腕がいい盗賊いんな。そこ、そこ、それ」
目星をつけた何人かを空気弾でこっそり狙撃していく。
凄腕の盗賊から次々と倒れていくから、敵さん次第に劣勢になっていく。正体不明の攻撃に戸惑いが走ってるせいもある。
何人か冒険者がこちらをチラッと見てくる事はあるが、疑われてない。たぶん。
「あそこから撃ってきたようだが?」
「……その車両に魔道士いたか?」
「ともかく、狙撃してくれるのは助かる」
もう強敵いないから、冒険者の方が押してきて次々と討伐していく。
逃げていく盗賊を逃すまいと、弓矢や魔法で狙い撃ちしていって殲滅した。
「お疲れさまでした」
白々しくもアッセーは、帰ってきたマルクたちを迎えていた。
「なんか魔法使った?」
「いや。なんかあったんですか?」
「……誰か知らんが、風の魔法で狙撃して助けてくれた。混戦中、正確に狙撃できるのは相当腕がいい。発射元がこの馬車に見えたがな」
やば気づいてた。でも、まさかオレがしてるとは思うまい。
「風の魔法は自在に操れるから、狙撃手が誰か分からないように撃てるからね。でもありがたいわ」
ウルーナはにっこり。
ごめん、それ魔法じゃないんだ。ちょい魔力膜で覆っただけの弾丸だし。
「確実に仕留めている。風の魔法は殺傷力が低めだというのに、かなりのやり手だ」
「え?」
「ビックリしたか? 冒険者の中にはああいう凄いヤツもいるんだ」
ちょい軽く撃ってただけなのに。
勘の鋭いシャキアですら気づいていないのはいいが、殺すつもりはなかったんだ……。
「恐らくA級ランクの冒険者が紛れ込んでいるな」
マルクさんまで勘違いしちゃった。