66話「大魔姫ミトンへ挑む! 魔嫁ズの奮闘!」
なんと魔姫ルビナスに続いて、大魔姫ミトンという嫁候補が追加できた。
しかも城下町に置いてけぼりした魔嫁ズたちまで押しかけてくるという迷惑な事態となった。
そして意味不明に婚約バトルが始まろうとしていたぞ。
「まずはアラクネのエリルの……粘糸!!」
なんと高速で糸を吹いて、瞬時に大魔姫ミトンを絡め取った。
ネバネバしていて引きちぎるのも困難。本来なら動けない獲物をかぶりついて汁を吸うのだろうが、今回はオーガ族のエアリルが大金棒を振るってミトンを横殴り。
しかしミトンも踏ん張って、後方から大地が爆ぜた。吹っ飛ばないどころか粘糸を破裂させて跳ね除けた。
「この大魔姫が、貴様らごときに……」
「ガルオオオオッ!!」
なんと分身したかのように動き回るウェアウルフのカミカが襲い掛かり、鋭い爪を煌めかした。
「タイガーいや、ウルフランページ・クロウストーム!!」
ミトンを完膚なきまで切り裂く爪攻撃が幾重にも炸裂。
体勢を崩したミトンの背後へラミアのロローマが回り込んで、首筋に噛み付いて神経毒を流す。
「ソロデ・マヒハ・ゼンメーツ!」
「そして喰らえ! ロマンサーガツー・ショクシュツエーヨ!!」
神経毒で動けなくした上に、アルラウネのバーナッツが無数の触手を絡ませて絞め殺す勢いでギュッ!
「毒など効くか! そして触手など通用せんわっ!」
それでも大魔姫だからか平然と触手を破裂させて粉々に四散させた。
しかし全てはハナっから時間稼ぎ。最後にサキュバスのジョレリアが杖をかざしていて詠唱が終わりを迎えていた。
地響きが唸りを上げるほどの凄まじい魔法力が杖へ収束されている。
「超絶粉砕大波動!!」
なんとジョレリアの背後から巨大な大魔神のようなエネルギー体が具現化されて、怒りのフックを放つ。
大きな拳が大魔姫ミトンへ直撃。
大地を大きく穿ち、周囲に衝撃波が吹き荒れて森林を薙ぎ倒し、恐るべき破壊が撒き散らされた。
熊狼猪の乱暴三人組は「ぎょえええええ!!」と煽られて吹っ飛んでいった。
扇状に大地が抉られていて、地形が変わっているではないか。
「やったか!!」
「最強魔法の一つである『超絶粉砕大波動』を、この目で見られるとは!」
「ガオガオガオオーン!」
「間違いなく炸裂した!! 大魔姫といえども無事では済まさないはずだ!」
勝ちを確信して笑んでいた魔嫁ズは、次第に驚愕に満ちていく。
「それがどうしたというのだ?」
なんと立ち込めていた煙幕から大魔姫ミトンが堂々と姿を現したのだ。白ローブが破け、競泳水着がビキニ風に破けたが、体は無傷そのもの。
しかも魔姫ルビナスも近くにいて巻き込まれたはずなのに、金属化してて平然としている。
「フッ、並みの相手ならば跡形もなく吹き飛ぶだろうがな……。あいにく大魔姫には通じん」
「くっ!!」
「ガルオオオッ!! ならば、もう一度だワン!!」
ウェアウルフのカミカが分身するかのように複数で爪攻撃をしかけ、オーガ族のエアリルは大金棒を振るって、叩き潰さんとする。
しかし大魔姫ミトンはカッと見開く。
「今度は貴様らが受けるがいい!!」
「ぐっ!」
「なにい!!」
「バカな……!!」
「うっ!」
「大魔姫奥義・天地崩壊衝────ッ!!!!」
大魔姫ミトンが手刀で薙ぎ払うだけで、幻か現か、獰猛な巨大な火の鳥が現れて羽ばたいたぞ。
それは凄まじく、地盤を粉々に吹き飛ばす衝撃波で魔嫁ズを上空へ吹き飛ばした。
それぞれ薄布やらなにやらが破けて「ぐわあああああーっ!!」と悲鳴を叫びながら宙を舞う。
魔姫ルビナスも巻き込んだつもりが、踏ん張ってこらえられたようだ。
「フッ! 貴様らが束になってかかろうとも大魔姫には敵うはずがないのだ」
魔嫁ズは無残にも大地に横たわり、動けない。
改めて、とアッセーへ視線を移すが、とっくにいなくなっていた。
「ああっ!! 逃げおったー!!」
「おのれの技で衝撃波を巻き起こしたせいで、姿をくらませおったわ!! どうしてくれる!」
「そこ黙れ! このまま行き遅れ大魔姫になるわけにはいかんっ!!」
しかし、どこに逃げたのか分からない。
空へ飛んで見渡すが、もどかしくて「くっ……! やつら、気配を完全にゼロにしてやがる……! これじゃ見つかりっこないぜ……」と拳を握って唸るしかできない。
アッセーはユミとアルローを抱えて森林を駆け抜けていた。マトキとローラルが追従している。遅れてチャーアーがひいひい追いかける。
「置いていくくらい速めにしてんだがなぁ……」
意外とマトキとローラルは必死に食らいつくように走っているのだ。
時速一〇〇キロ以上出してんのに大したものだとアッセーは内心感心した。本気を出せばもっと速くできるが大人気ないかなと思っている。
「運動不足にならないようにランニングしてましたからね」
マトキはシュタタタと荒れた獣道をものともしない。
ローラルは悩んだままながらも普通に追いついているから、元から速かったのか謎だ。
とある切り立った崖のふもとの洞窟の前で、マトキとローラルが四つん這いでゼェハェ息を切らしている。
アッセーは平然と突っ立って見張りを続けていた。
ユミとアルローは洞窟の中でワラを敷いて寝床を用意している。
「よく頑張ったな」
チャーアーがフラフラしながら近づいてきて、アッセーの前でへたばった。
汗ビッショリで力尽きている。
それを抱えて、洞窟へ入ってワラの上に乗せた。
それを見てアルローは不機嫌だ。
「ダークエルフを待つ必要ないのです」
「女の子一人、置いていけるわけないだろ。どっか魔族の町に置いて魔王に迎えてもらわねばな」
「婚約するかと思ったので安心しました」
「ないない」
ユミは安堵する。
「もう距離は離れているし、見つかる事はないと思うが見張りはする。おまえたちは洞窟で休んどけ」
洞窟を出て、突っ立つ。
目を閉じて一キロほどの『察知』を扇状に広げる。森林内で動物やモンスターの営みが窺えるが、魔姫や魔嫁ズは来ていない。
ちなみに察知は永久に持続できない。
例えるなら、両腕を左右に伸ばしたままじっとしているようなもので、数分もすると疲れて下がってしまうくらいだ。
だから時々張って警戒する。
「女神さまとしては根本的な解決にならんから、どうしたものか……」
アッセーの遺伝子をばら撒いて子孫を残して欲しいのが女神の要望。
魔族ハーレムやれば解決できるが、個人的にしたくない。
そんな折、洞窟の奥にキラッと反射光が見えた。




