54話「魔族領へ入る覚悟!」
シーンジロ王国を出て、大陸交易路を回っていくと強固な城塞王国が境界を敷いていた。
そこは多種族支援があって成り立つ『ソコマンデ共和国』だ。
貿易のために回っている馬車群も溜まってきている模様。なんせここから先は魔族領地だからだ。
「すみませんね。身辺調査と検閲に数日かかりますが、よろしいでしょうか?」
「はい」
商人たちも承諾し、兵士たちに誘導されて駐車されていく。
それでオレたち護衛任務は終わり。ソコマンデ共和国のギルドに報告して報酬をもらって一段落。
食堂で飯食って、宿屋で鋭気を養って、翌日──……。
「さて行くぞ」
アッセーは王国内を横切って、魔族領へ続く境界門を目指そうとする。
「ええ、よろしくてよ」
「はい」
「はいなのです」
「はい……」
なんとローラル、ユミ、アルロー、マトキが頷く。
結局ついていくと言って聞かんから、不本意ながらパーティーとしてやっていくしかなかった。
リーダーとして率いるしかないアッセーとしては複雑な心境だ。
「つか、なんで悪役令嬢として序盤だけの出番だったローラルが復帰してくるのだ……」
「なんの事か分かりかねますが、冒険者として貴方と一蓮托生でございますわ」
ローラルは踊り子のような露出の高い服に着替えてて、くるりと回って見せつけている。
割と胸が大きいので揺れる。
……彼女が言ってたように、シーンジロ王国のギルドで登録を済ませて同行してきたのだ。
ついでにマトキも。
「前にも言っておいたが、今回の目的は魔族と同盟を組む事。その為に魔族領へ入って魔王城を目指す事になる」
「女神さま直々の指令なのです」
アルローはエルフだからともかく、ローラルとユミとマトキは困惑している。
最初に説明した時と変わらない。
「同盟って、いつ聞いても戸惑いますわね」
「そのまま魔王を倒せそうです」
「人類の平和の為に戦う事はしないんですか……」
三人は純粋なヒトなので、魔族は明確な敵。
「だから言ったのに……。シーンジロ王国でゆっくりしてもいいってたのに」
「でも私は我慢できません」
「せっかく聖女として、ナッセさま……さんに力を貸したいのです」
「ユミとマトキの気持ちも分かりますわ。アッ……ナッセさまがエルフ一人だけとは心許ないですわ」
「そこ失礼なのですっ!」
アルローがムキーッとローラルに食ってかかるのを、アッセーは「待て」と抱えた。
「オレは純粋なヒトじゃねぇ。妖精王だ。それゆえ魔族は敵意を見せないだろうが、あんたたちが一緒だと勘違いで戦闘になる可能性もある。真面目な話、この国で留まって欲しいのだがな」
真剣な顔で訴えると、さすがにローラル、ユミ、マトキも押し黙る。
「魔王を倒さない理由は、ヒトが解決すべきであって妖精王の役目ではないからだ。女神さまも龍人ゲキリンさんも立場を忘れるなと厳しく釘を刺してきた」
境界門の前で、厳しめに言い放つ。
見損なったとそっぽ向かれるのだって覚悟はしている。
魔族とヒトは互いに闘争関係にあり、それによってバランスが取れている。どちらかが絶滅して、世界の支配者が決まれば天敵のいない種族が繁栄の為に世界を食い潰して、結局破滅を招く。
魔王はヒトの代表である勇者が倒すべき存在。
そうやって幾千年も幾万年も、その繰り返しによって調和がとれてきた。
「人類だけの平和な世にしたい気持ちは分かる。オレだって元はヒトだからな」
「だったら……!」
「ヒトが繁栄し続けて、どうなったのかも知ってる」
「それはなんですか……?」
ローラルは閉口したが、ユミも怖気付きながら聞く。
「ヒトは互いに争うようになる。確かに魔族を殲滅させれば平和に喜び、繁栄を極めるが、結局ひと時の至福でしかない。魔族の代わりに別勢力のヒトが領土や資源を奪い合うのだ。それがどれだけ醜いか、転生前の世界で知ってる」
ローラル、ユミ、マトキは息を呑み込む。
「ヒト同士で騙し合い殺し合いし、憎しみあって泥沼な社会になる。永遠とヒト同士で骨肉の争いを繰り返していくんだぞ」
「そんな……!」
「魔族がいなかったら、次の敵は人間同士……!?」
魔族と対立して想像もしてなかったローラル、ユミ、マトキは絶句する。
妙にリアリティがあって、どこか血生臭い想像さえしてしまう。
「転生前の世界とは……過酷ですわね……」
正確に言うと、転生前の世界というよりネガ濃度の高い並行世界での話だがな。
あそこはファンタジー世界とは程遠く、魔法もスキルも存在せず、人類だけで経済社会を支える仕事を繰り返す世界だ。
各国は互いに境界を敷いていて、侵略戦争している所もある。
「オレについていくとは、そういう事だ。覚悟がなければ置いていく」
我ながら厳しく突き放す事を言うなぁ。
だが、それでパーティー空中分解したとしても構わない。それがそれぞれの為になるなら、喜んで敵でも悪魔にでもなってやるさ。
「半端な覚悟で、追いかけてきたわけではございません!」
「そう。私はナッセが好き。振り向いてくれるまで頑張る!」
「聖女として、新しい使命も考えておかなくてはなりませんね!」
「お前らな……」
呆れて肩を落とすが、実は少し安心した。
「そんな覚悟も、魔族領で霧散したって知らねーのです」
アルローは腕を組みながらプイとそっぽを向く。
そうだな、とアッセーは笑みをこぼす。
「じゃあ、行くぞ!! 魔王城へ!」
「「「「はい!!」」」」




