52話「邪神を召喚せし法王! 永久の闇に沈む!」
大神殿へカチコミしたリッテとローラルを相手に、エッタバドはハーレム女数人を無情にも生贄に捧げて儀式召喚を行ってしまう。
そして邪悪な魔法陣より現れた巨大なシルエットが恐ろしい威圧を放って現れてきた。
「ナオオオーッ!! スゴイぞー!! カッコいいぞー!! これこそ女神エーニスックの真の姿──、邪神ルーシタン!! 反聖職者ども、神に恐れおののくがいい!」
リッテとローラル及び、穏健派教徒たちも戦慄を帯びて汗を垂らす。
これほどとてつもない邪悪で重々しい威圧は人の手に負えるものではない。
とはいえ、バックの邪神を女神と偽るなんて罰当たりでは……?
「この邪神ルーシタンの攻撃力(武力)は六六万六〇〇〇!!」
勝利を確信したエッタバドは高らかに自慢してる。なんかドドドドドドと臨場感出してる。
ビビったアルローとユミはアッセーの両脇に抱きつく。
「あのさ……、ここまだ聖女のバリア張ってんだろ?」
「「「え?」」」
アッセーの言葉に誰もが振り向いた。
エッタバドは怪訝な目で「あ? 命乞いは聞かんぞ」と凄む。
「その内部で悪魔みてーなの召喚したら……」
すると四方八方から電撃のようなものが迸って、邪神ルーシタンに凄まじい閃光が爆ぜた。
「グアアアアアアアアア!!」
猛毒に浸かっているようなものでバチバチと光がまとわりつき、ルーシタンは苦しみもがくあまり暴れ回って周囲を破砕していく。
教徒たちは「うわああああ!!」と逃げ惑う。
大神殿が壊れて天井が開けて、上空から妖精王アッセーが聖剣を振り下ろしながら落下。
その煌く軌跡はまるで流星かと、マトキは感激して瞳が潤んでいく。
「聖剣でスターライト・フォール!!」
邪神の大きな顔面に聖剣を打ち込み、そのまま地面へ前のめりに叩き伏せた。
頭を埋めた邪神は「ゲボバッ」と吐血し、ほどなく木っ端微塵に爆破四散した。
「うわああああああああ!!!」
なすすべもなく倒された邪神ルーシタンに、エッタバドは愕然と悲鳴を上げた。
まるでライフがゼロになった勢いだ。
「お……俺様の……『邪神ルーシタン』がぁぁぁぁぁ…………!! や……やられ……た……やられたやられたやられ…………た!」
「……さて、こんな邪神を召喚できてタダで済むはずがないと思うけどさ」
ため息をつくアッセー。
エッタバドの足元に黒く混濁した穴に広がっていく。怨霊のようなのが呻きながら漏れ出てきて、ゾッとするような悪寒が走る。
無数の黒い腕がエッタバドの体に絡みついていく。
「ヒ……! ヒイイイ!!」
なんと黒く染まった巨大な邪神が混濁した穴から抜け出て、エッタバドを引きずり込もうとしている。
恐らく、あれが邪神の本体……。
《契約を持ちかけて、我を聖女の罠にかけし愚か者は、永劫の苦痛を味わう地獄へ連れ込むのだああああああ……!!》
「ヒィイイアア!! やめろっ!! やめてくれえええ!!」
アルンデス王様の邪悪な魔法と同様に、恐るべきリスクがあった。
悪魔を従えた契約者はただでは済まない。願いを叶えた後に魂ごと喰われて地獄へ落ちるという。
それと同じような事が起きたのだ。
《許さん……許さんぞ…………!! 貴様だけは……!》
つーか、邪神的に騙されたから激おこなんだろうか? 単に聖女のバリアを失念した法王がポカやらかしただけどな……。
「あ! アッセーだろ!? 例の妖精王の浄化で助ける事ができるだろおっ!?」
「ん?」
なぜかエッタバドは、アルンデス王国でアッセーが妖精王の力で王様の邪悪な魔法を無効化してしまったのを知っている。
恐らく一緒にいた教皇が一部始終を見てたので、それが聖職者ネットで伝わったのかもしれない。
むろん法王の身であるエッタバドの耳に及んで当然だろう。
「なにボーッと突っ立ってる場合かああっ!! さっさと俺様を助けんかーっ!!」
「え? なんで?」
「早くしろーっ!! 間に合わなくなるっ!! 地獄へ落ちてしまうううっ!!」
下半身が穴に飲み込まれ、エッタバドは必死に手を伸ばして命令してくる。
どこまでも傲慢で感謝も謝罪も知らぬ男だ。
なので何もせず眺めるだけ。
「てめぇ……っ!! 早く助けろっ!! この俺様を怒らせたいのかあっ!!」
「あのさぁ……、ナウォキさん。それ人にモノを頼む態度かよ。異世界転生しても結局懲りてねぇようだし地獄で反省してろよ」
「あ、あああああ!? ナッセか!? 貴様ナッセかあっ!? いいから早く助けんかああああっ!!!」
アッセーはにっこり微笑んでバイバイ手を振る。
「この人でなしいぃぃぃぃ…………!!!!」
「お前にだけは言われたくねぇ」
絶叫しながら上半身が穴に引きずり込まれるエッタバドに、呆れ顔を見せた。
それでもエッタバドは這い上がろうと血眼でもがき続ける。
「おい! 我が敬愛する信心深き教徒たちよッ! 俺様を助けろおおッ!!」
しかしその教徒たちでさえ冷めた目で見てるだけで、助ける人は誰もいない。
《ふははは……! そう言うのならば、コイツ一人の代わりに、我と永劫の地獄へ共にしたいと誰か名乗りをあげるがよいッ!!》
「そうかッ!! おい聞いたかッ!? 俺様を助けたいと思う者は名乗りをあげろおおおおッ!!」
それでも誰も名乗りをあげず、冷めた目で黙ってるばかり……。
「どうしたあッ!? 今こそ女神さまへの信仰の是非を問うとき!! 己の自己犠牲愛をここで示すがよいッ!!」
「あのなぁ……エッタバドさま……」
強硬派の教徒が一人一歩出る。なんか憤っているようだ。
「おお! 俺様を助けてくれるかッ!? 女神さまも喜ぶぞー!」
「さすがに女神さまへの信仰を盾に、私たちを蔑ろにするのは許せないよなぁ……」
「いつも自分ばっかり贅沢三昧してて不条理だ!」
「そうだそうだ!!」
「お前なんて地獄へ落ちろー!!」
敵味方関係なく教徒たちは鬱憤晴らすかのように法王へ非難の嵐を浴びせ始めた。
そんな剣幕にエッタバドは愕然とする。
「こ……この法王さまを見捨てるなど悪魔の所業っ!! その許されざる重罪で、貴様らは永劫の地獄へ落ちたいのかああっ!!」
「その地獄へ落ちるんだろ? おまえが」
「そんなの嫌だッ!! 嫌だああッ!!! 嫌だあああああぁぁぁッッ!!!!」
誰にも助けてもらえないエッタバドは泣き叫びながら、ズブズブと奈落へ沈みきってしまう。
やがて穴は収縮して消えてしまう。
地獄へ落ちたエッタバドがどうなったのか誰も与り知れない。少なくとも二度と転生できねぇ。
「もう元凶は消えた。これでこの国も平和になるといいな」
そんなカッコ良いアッセーに、マトキはキューンと心を打たれて、瞳にハートマークが浮かぶ。
彼女にとって、初めての一目惚れだった。
「白銀の妖精王さま、婚約してくださいっ!」
「え?」
マトキが抱きついてきて、アッセーの顔がぷにっと大きな胸へ埋まる。
「「「「ええええええええええええええええええっ!!?」」」」
ユミもアルローもリッテもローラルも穏健派教徒も強硬派教徒も大きく口を開けて驚きまくったぞ。




