40話「最下層の魔人は願いを叶えてくれる!?」
最下層では生き物の中のような空間だった。そして城のように巨大な心臓がドクンドクン脈打っていた。
しかも目玉が開けてきて、こちらをギョロリと睨んでくる。
カイガンは憤る。
「てめーなんて瞬殺してやらあッ!! 煌穿眼ッ!!」
すると心臓を囲むように半透明の障壁が覆って、光線を弾いてしまう。
すかさず周囲の細胞壁から触手が飛び出し、カイガンを握り潰した。余りにも速すぎて反応できない雲旅団は動けずにいた。
しかしカイガンは殺されても、蘇る魔眼がある。
「くそっ! この転生眼がなかったら死んでたぞ! マジで!」
スウッと後方で現れるカイガン。額の魔眼のトゲトゲ紋様の内一つが消えた。全部で八本だったのが七本になってる。
トゲトゲがある分だけ甦れるというチート魔眼だ。
「あのやろー!!」
カイガンが再び両手を心臓魔人へ向けると、再び高速の触手が巻きついて握り潰す。
再びスウッと別のところに現れるカイガン。
「待って! 線虫魔人が数え切れないほど迫ってきてるわ!」
気付けば、包囲するように夥しい大量の線虫魔人がウネウネ迫ってきていた。
ギンボウがハンマーを振り下ろし、衝撃波が広がるほどクレーターに抉った。しかし線虫魔人は何事もなかったように集まってくる。
「ギンボウ! こいつらは魔人本体だ! 物理攻撃は通じない!」
「おいおいおいおい!! どうすんだよ!? ロックしろよ!」
「忘れたのか? “6と9で織り成す呪縛”がロックできるのは十五ヶ所までという制約だ」
「くっ!」
ノダークも爪を連射するが、やはりすり抜けてしまう。
カイガンが煌穿眼を放つと、爆発して線虫魔人が吹っ飛ぶ。
「なら全身に『百目眼』全開だあああっ!!」
なんとカイガンの全身に無数の紫の目が開いてくる。それは全て『煌穿眼』に切り替えて、四方八方に乱射して爆発の連鎖を重ねて退けていく。
初めて見る戦闘スタイルだが、これなら大丈夫。
アッセーは心臓魔人を睨む。
「あれがなんでも願いを叶えてくれる魔人か? やはりこれ自体罠だったのか?」
アッセーは聖剣を引き抜く。
今まで気にしてなかったんだが、この聖剣は手に馴染む。刀身は不思議な金属で魔力を吸収して力に替えているようだった。
装備者の意志に従って形状を自在に変えられるようだった。
ナイフのようにも縮められるし、大剣のように大きく伸ばす事もできる。柄を伸ばして槍にもできる。
「すっげぇな。まるでいつもの通りの戦い方と変わんねぇ……」
「おい……トコロテン抜刀斎??」
「よし! そうと決まればブチ抜くか! 聖剣でスパーク!!」
光魔法とともに渾身の力を込めて横薙ぎ一閃。
遠距離系で放ったそれは障壁を易々裂いて、心臓魔人を爆散させて肉片を散らした。
唖然とするロクック、ノダーク、ギンボウ、クリランとカイガン。
「ふう。終わったでござる」
テンスケのフリをする事に気づいて何気なく取り繕った。
うっかり素を出してしまったかな、と内心ドギマギしつつ……。
「おまえ、本当にトコロテン抜刀斎か?」
「今のが昇龍秘剣流奥義・昇天龍剣閃にござる」
「奥義って翔天殺じゃなかったっけ? 超神速で走りながら抜刀術するやつの」
そっちかよ、と内心ツッコミを入れるアッセー。
テンスケ本来の剣術なんて知らねぇからな。本人に聞かないとどうしようもない。
「あ、新たに編み出したでござる……」
「そういえばスパークって言ってたような……?」
「き……聞き間違いでござるよ。ともかく、最下層の魔人は倒したはずでござるが……」
心臓魔人が跡形もなく消えたってのに、細胞壁は相変わらず脈打っている。
《最下層へようこそ! まさか魔人カーディオをも倒すなぞ信じられん》
気付けば、一人の王様がいた。仙人のようにヒゲを長く伸ばしている白髪の老人。
それを見てロクックは「お、オクユカ国王……!?」と驚いていた。
ノダーク、ギンボウ、クリランは疑心暗鬼で睨む。
魔人は人間を乗っ取る事ができる。それは目の前の王様も同じ。
《ふひっ!》
落ち着いていた老人風が、急に不気味に笑い顔に歪んでいく。
しま模様の両目がグニョグニョ伸縮を繰り返し始め、体がボコボコと非左右対称に膨れ上がってくる。
《よくここまでたどり着けたんだ。よかろうなんでも願いを叶えてやろう。なんでも言ってみせよ》
巨大化した魔人にロクック、ノダーク、ギンボウ、クリランは仰け反る。
ビビったカイガンは右手の煌穿眼で光線を放つが、魔人は指で弾いてしまう。心臓魔人より更に強い。
《そう慌てるな! 願いを叶えてやるだけだ》
カイガンは震えていく。
「ちょっと待って。えっと……オクユカ魔人様?」
《そうじゃったのう。我が名は魔人ランプーマだ。オクユカ国王など表面上でしかない》
「ランプーマさん。先に願いを叶えて欲しいやつがいるんだ」
《ほう?》
例の腕輪を取り出して稼働させる。するとアッセーたちの前にフッとドクセー公爵が現れた。
目の前の巨大な魔人に驚いて腰を抜かす。
「こいつが最下層の魔人。そして願いを叶えてくれるそうだ」
「あ!? おまえらっ!? な、なんでっ!?」
ドクセー公爵が振り向いて、いるはずのない契約した冒険者に面食らう。
普通なら最下層にたどり着くと契約した人と位置を入れ替えるはずが、アッセーによってプログラムを作り替えられてしまったのだ。
今は任意でドクセー公爵を召喚できるって仕様だ。
「貴様が酸の海に転移させて始末しようとしてたのは分かっている」
「うっ!」
殺気立つロクックに、ドクセー公爵は尻餅をついたまま後退る。
「さっさと魔人に願いを叶えてもらえ」
「い、いいのか……?」
「気が変わらない内に叶えてもらうんだね」
ノダークは腕を組んで憮然と言い放つ。
アッセーたちは何もしないと言ってるようで、ドクセー公爵は息を飲む。
落ち着いて立ち上がる。
そして魔人ランプーマへ振り向く。
《主も願いを叶えたいかね? ただし一人一個ずつだ》
「……ならば、ワシを不老不死にしてみせよ!」
《よろしい!》
魔人ランプーマは赤く目を輝かせて、ドクセー公爵は光に包まれた。




