4話「アッセーは公開処刑だっ!!」
アルンデス王国の処刑場で人々が集まってきていた。ザワザワ……。
アッセーは十字の石柱に張り付けられて、封印の魔枷で手足を縛られて項垂れている。
「処刑って、こんな風にやるんだな……。初めてだぞ。さて、どうなるんかな?」
それをベランダのような高所から、リヘーンとローラルが悪辣と笑みながら見下ろしていた。
そして王座にいる王様と王妃は険しい顔をしている。
婚約者のアッセーが上の階級であるローラルを乱暴した狼藉を許さないとばかりに……。
「これより、貴族の身でありながらも婚約していたローラル令嬢へ行った悪行の数々により処刑する事とする!」
アルンデス王様は厳粛と宣言。
リヘーンとローラルはニヤニヤ笑んでいる。そして向こうから兄様のリッテは苦い顔をしていた。
よく、あんなバレバレな証拠を王様は信じたもんだな。老眼かな?
「これより処刑を始める! 放てーい!!」
三人の黒いフードをかぶった処刑人が火炎魔法を放った。
アッセーを業火が覆う。轟々燃え盛って人々は「おおっ……」と驚きやらなにやら音響する。
……しかし火炎が収まっても、アッセーは全裸で無事な姿で吊るされたままだ。
「なっ!?」
これには王様も驚かざるを得ない。
戸惑う処刑人は何度も火炎魔法をぶち込んでいったが、アッセーはケロッとしている。
だんだん高位魔法にしていっても全く効かない。
「なんなの!? アイツ!?」
「バカな……信じられん! なにか無効できるスキルを!?」
「うぬぬ……! 封印の魔枷ではめられてさえ、パッシブスキルは発揮できるのか!?」
焦るリヘーンとローラル。唸る王様。
アッセーは「ふう」と吊るされたまま余裕の息つき。まるで「この程度か?」みたいな感じ。
「確かに、あらゆるパッシブスキルの存在は知ってるが……」
この異世界では多彩なスキルがあって、人それぞれで違う。
生まれつき備わったスキルもあれば、後天的に取得するスキルもある。
中でも状態異常や属性を無効化できる耐性スキルはかなりのレアだ。そいつを持ってるヤツは冒険者としても重宝される。
「調べたところ、特に封印の魔枷に不備はありません。ちゃんと機能しています。本当はパッシブスキルも封じられるはずですが……」
「ふむ。ならば今度は雷系でやれいっ!」
「「「ははっ!」」」
処刑人は改めて落雷を落とす魔法でアッセーを穿った。普通なら両断及び黒焦げになるほど容赦がない。
「なんかほぐれた……」
アッセーは恍惚と顔が緩んだ。
どよめく人々。戸惑う王様とリヘーンとローラル。
氷だろうが、風だろうが、水だろうが、毒だろうが、幻術だろうが、全く効かない。
「ばっ! バカな……!!?」
「ヤツは多くの完全耐性スキルを持ってるスーパーレアな人間だというのかっ!?」
「なによ! 殺せないなんて、信じられない! さっさと殺してよっ!」
絶句する王様。驚き戸惑うリヘーン。苛立つローラル。
耐性系スキルもなにも、普通にレベル差が開きすぎてノーダメージってだけだし。
まさか武力三〇万の人間がここにいるとは思わんよな……。
「おい! リヘーン! ヤツを相手にローラル令嬢を助けたのなら、代わりにやれっ!」
「えっ!?」
王様に促されて、リヘーンは身を竦ませる。
「は、はい!! ただちに!」
今度はリヘーンが剣を手に飛び降りてきた。
勇ましい王子様って感じでキリッとしてて、人々は歓喜に沸く。
三男とはいえ、人気者らしく大衆ウケしているようだ。
「じゃあ始めっか」
なんと封印の魔枷をバキッと破って、アッセーは地面に降り立った。
王様も処刑人も目を丸くして「なに……? 破った……?」と驚くしかない。
封印する力も弱すぎて意味ないし。
「貴様……、逃がさんぞ!」
「慌てんなよ。これなら斬りやすいだろ?」
「ほう? 殊勝だな」
「ただ、その前に着替えいいか? 大衆を前に全裸は困るし」
「それは必要な……」
全裸のアッセーはフッと姿を消し、数秒で再び現れた。今度は簡易な服を着込んでいた。
ただ、単に超高速で城の中の余った服を探して装着して戻っただけ。
そして右手の『刻印』が浮かび、光のナイフが現れる。
「星光の短剣!」
これがオレの能力。武器がなくても、あらかじめプログラムして作った『刻印』で魔法力を使い自前の武器を具現化できる。
ナイフだけじゃなく、剣や大剣などにも切り替える事もできる。
盾とか他にもあるけど、別の機会にまた。
リヘーンは見た事もない術に怪訝な顔を見せる。
「……そんな魔法を? しかしナイフ一本で私の剣を? はははっ! それが限界だろうな」
「これで十分かなと思って」
「見栄を張るなっ!!」
リヘーンは大地が爆ぜるほど地を蹴って、瞬時にアッセーへ斬りかかる。
両手持ちで振り下ろされた鋭い斬撃をナイフで受け止め、周囲に煙幕が流れる。
「ぬ! ならっ……!」
目にも止まらぬほどの剣戟を繰り出し幾重にも軌跡を描いたが、アッセーは片手のナイフだけで捌いていく。
まるで子どもに稽古をつけるかのようだ。
「竜王斬ッ!!」
リヘーンは斬撃を広げた横薙ぎの必殺技を放つが、アッセーはナイフで断ち切る。
斬撃が裂かれ、その余波が衝撃波となって地面を走り震える。
汗を垂らし、驚愕に広がっていくリヘーン。今のが大技っぽい?
「ク……クククッ!! どうやら聖剣で処刑をお望みらしいな」
「叶うといいな」
余裕綽々で突っ立っているアッセー。実は一歩も動いていない。
悔しさを滲ませたリヘーンは手を掲げて「聖剣よ来い!」と叫ぶと、ビュンビュン空を飛び交ってから下りてくる聖剣を掴んだ。
「このアルンデス王族三男リヘーンは、先代の勇者よりいくつかの聖剣から一本を継承された! これがその聖剣バルムーガ!! ドラゴンを殺したと言われる由緒正しき聖剣だっ!!」
「へぇ~。じゃあ長男や次男はもっとすげぇんだな……」
「そんなに差はない。勝って負けての繰り返しだ」
「なんだ同じかよ……」
肩を落としたアッセーが気に食わないのか、リヘーンは全身からオーラを噴き上げて高速で切りつけた。
ナイフで受け止め、凄まじい衝撃波で足元の地面が抉れた。
マッハの剣戟の嵐にアッセーも「へぇ~、やるな!」とナイフで捌き続ける。
「死ね! 竜王斬ッ!!」
さっきとは威力が段違いだろう。大差ないけど……。
十字に刀身が交差し、爆ぜた衝撃波が地面と大気を揺らす。吹き荒れる凄まじい烈風。流れる煙幕。
人々は「うわああああああ!!」と悲鳴を上げる。
「バカな……!!」
リヘーンは後ろへ下がって愕然する。なんと聖剣の刀身が欠けていた。