35話「雲旅団の実力!」
世界最大のダンジョン一階層は巨大な遺跡のようなもので、天井が高いのが特徴。
立派な柱と壁、そして広い床。
「警戒を怠るなよ」
リーダーであるロクックはザッと足を止めた。
目の前にはリビングアーマーがぞろぞろと立ちはだかっている。全身鎧だけで動き出すアンデットモンスター。
ギンボウは楽しそうに笑んで、ハンマーを手に駆け出す。
「我がままに破壊!!」
激しいオーラを纏ったギンボウが獰猛にハンマーを振るって、リビングアーマーを次々と粉砕していった。
攻撃力に全振りしているかのように、圧倒的な破壊で蹂躙していく。
恐怖を感じないリビングアーマーは剣を振るうが、ギンボウの鋼鉄とも言える肉体を前にかすり傷すら負わない。
「この『雲旅団』で一番パワーがある増強系能力者だ」
「うーん。この間の『水龍祭』に出てきた双璧聖騎士ほどじゃないかな」
「双璧聖騎士……?」
「あいつらマジで強かったぞ。徹底的に鍛えこまれててな……」
怪訝な顔で振り向いてくるロクック。
「あなた、もしかして『水龍祭』を見ていたの?? あれ国ぐるみによる不正の温床になってるわよ?」
「だよね」
ノダークも知ってたな。不正大国。今はもう解消したけど。
「アッセーはそこで優し……むぐっ」
ユミの口を塞ぐ。
クリランは「ゆうし? そういえば優勝したのはカンダタってやつだな」と呟く。
偽名で参加してよかった。
「あ、ああ。優勝する所を見たんだ。王様のサプライズも出てたぞ~」
「なのです」
「不正しまくりのアウェーでよく優勝できたわね」
「本当にな。あいつらズルばっかしてさ」
「まるで自分が経験したみたいな言い方になってるぞ」
「ま、まさか~」
アッセーは苦笑いするしかない。
自分ウソをつくの苦手なので、下手にベラベラ言えねぇ。
「おい! もう片付いたぞ!! なに勝手に盛り上がってんだよ!!」
「ギンボウご苦労。それだけ頼りになっているんだ」
疎外感に憤慨したギンボウを、ロクックがフォローした。
とはいえ、冒険者としてはかなり強い部類に入る。S級。武力は二万~三万か?
進んでいると、今度はコウモリの群れが急襲してくる。
「私の出番ね! 射殺す装飾爪!!」
今度はノダークがオーラを纏い、両手の爪が何百発も乱射されてコウモリが肉片に散らされていく。
まるでこちらの世界でいう機関銃みてーだ。
てっきり、ノダークに似た某漫画のキャラのように記憶を読み取る能力かと思ったけど違ったか。じゃあクリランはどうだろ?
「こいつ放射系能力者だ。足の爪も歯も撃てるぜ。注意しろよな」
「ギンボウっ!!」
怒ったノダークが「射殺す装飾牙」と、前歯の一つがオーラをまとって抜け出してギンボウの尻へ回り込んで撃ち抜く。
頑丈なギンボウだから「いてっ」で飛び退くだけで済ましている。
放射系だからか、爪も前歯もニョキッと再生してきた。なにその理屈。
しかし割と仲いいな。
仲良しクラブって感じなのは分かる。多分幼馴染で集まってるかも。
進んでいくと、スライムみたいなのが集団で床や壁でうにょうにょ這っている場所に来てしまう。
こちらを獲物と定めたか、集まってくる。
するとクリランが前に出る。
「コイツらは任せろ。俺は自然災害!!」
なんとクリランの全身が火炎に包まれた。スライムへ駆け出すと次々と蒸発させていく。
逃げ出していくスライムを見ると、今度は竜巻を身に纏い素早く追いついて引き裂いていった。
「クリランは変質系能力者で各属性を身に纏って戦えるのよ。しかも切り替えもできる」
「へぇーすごいなぁ」
数時間を経て、地下二階層へ続く部屋に入るとボスが待っていた。
人間の剣士ではあるが、片目だけ木の枝のようなものが生えていて、先っぽの目玉がグリグリ動いていた。
まるで寄生虫みたいだ。
「あれが本物の魔人……」
「アッセー初めて見るか?」
「ああ」
ロクックはオーラを纏い、掌から「6」という数字がばら撒かれた。
それは襲いかかってきた魔神剣士にまとわりついて、なんと「6」と「9」が先っぽを噛み合わせて拘束していく。
ガチガチガチと全身の動きを止めて、微動だにできなくなる。
「6と9で織り成す呪縛!!」
「あれがリーダーの特異系能力。攻撃力こそ皆無だが、6と9で挟み込まれた部分はロックされる。ああなったら誰も抜け出せないわ」
「特異系能力……?」
なんか転生前の世界で聞いたような単語だったぞ。どこぞの学院で流行してたやつ。
あれは実際にある概念ではなく、某漫画の設定を取って付けたものだがな。
「まず増強系(脳筋)、放射系(短気)、変質系(ウソつきor虚栄)、具象系(神経質or職人気質)、操縦系(独占or束縛)、変態系(なりきりorケモナー)、魔眼系(邪気眼)、特異系(ネジが飛んでるサイコ野郎)の八つがあって、その中でも魔眼系と特異系能力はかなーりレアなのよ。特殊能力が多く、後天的に目覚めるらしいわ」
「えー、そうなんすか……」
「なんか呆れてない??」
「魔眼系は聞かなくても分かるが、変態系って??」
「動物とか何かに変身する能力者ね」
それ転生前であった概念、クラス蛮族だわ。
マジでそういう系統の概念があるならともかく、オレと同じ転生者がそう教え込んだ可能性もあるな。
あと、なんか系統増えてるし……。元は六つだろ?
「まさかな……」
動けない魔人に、ロクックはスタスタと歩いて剣で首を斬り飛ばす。
あっけない決着。
すると、枝の目玉が剣士の片目から抜け出してロクックへ襲いかかってきた。死の間際の執念か。
すかさずロクックは剣を振るうが、すり抜ける。
「いけね! 魔人は肉体を持たないんだった!! やべぇっ!」
「ロック」
あくまで冷静にロクックは呟き、新たに放たれた6と9が魔人をも拘束。宙で止まってしまう。
肉体があろうとなかろうと関係なく止めてしまうのか。
アッセーは慌てて飛び出してたので、止まらずに魔人へ拳を突き出して粉砕する。見事に粉々に四散して虚空へ溶け消えていく。
「「「え?」」」
ロクック、ノダーク、ギンボウ、クリランは目を丸くした。
「いけね! つい!」
肉体を持たない魔人は精神生命体。つまり幽霊みたいなもの。
いかなる物理現象も通用しない。
それを素手で砕いたアッセー。実は妖精王なので魔人の天敵でもある。いかんバレる。
「一撃粉砕する拳!」
オーラを纏いガッツポーズのような姿勢で、キリッと取り繕うアッセー。
「いかなるものも粉砕する無敵の拳。それがオレの増強系能力……」
「「「そうだったのかっ!?」」」
ロクック、ノダーク、ギンボウ、クリラン信じちゃった……。




