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34話「フカオックイ王国の貴族様交流会」

 アッセーたちが『雲旅団(クラウド)』と一緒にダンジョン探索している間……、フカオックイ王国の貴族と王族は優雅な生活を送っていた。

 そして今日はたまたま豪勢な交流会を開いていた。


 太ったハゲおっさんは卑しい笑みでワインを啜っている。そのそばで執事がいる。


「最近の冒険者はたるんどるなぁ」

「ドクセー公爵様……」


 アッセーたちがダンジョンへ入場する際に契約を交わしたドクセー公爵だった。


「何十年前は最下層までたどり着いた冒険者がいたというじゃねぇか!? その時、連れてってもらえた貴族様が今の王族。そして魔人に願いを叶えてもらった当人は楽園へ行けたそうじゃないか!」

「ふむ。フカオックイ王国を治めるオクユカ国王様は当時の事を知ってらっしゃるそうですな」

「ああ。だが、魔人はなんでも願いを叶えるとだけしか言わんかった」


 そんな折、貴族たちがザワザワしてきた。

 オクユカ王様が複数の妃を引き連れて、ドクセー貴族のテーブルまで訪れていた。

 当人は高齢で白髪多くて仙人かと思うほどヒゲを長く伸ばしている。杖を支えに歩いているが、周囲の妃は全て若々しい。


「詳細は述べられぬ。だが、願いを叶えてもらった当人のおかげで、私は今日まで平穏に過ごす事ができた」

「ふん。いい身分だな。国王様よ。楽園へ行けなくともよかったかね」

「……そういうのには興味がないのでな」


 オクユカ国王は首を振る。


「だってー、こんな若い女の子とウハウハできるんだもんねー」


 急にはっちゃけはじめた国王。

 周囲の若い妃に絡んで「キスしちゃうぞー」と軽いセクハラしてきゃいきゃいし始めた。

 そんな国王にドクセー貴族は舌打ちする。


「最下層にたどり着けたジコギさんとは友達だったのよー。そしてブスの女魔道士ヒネクちゃんもハゲ戦士オッピロも僧侶イーモンも病死とかで死んぢゃったけどねー」

「ジコギとやらは楽園へ行けたって、本当か?」

「行けたと思うよ? 行かないと分からないところだがね。はっはっは」


 なんとも煮え切らないような答えだ。


「で、願いは永遠の命か?」

「そうじゃないのよー。ジコギさんは『オクユカさんがずっと元気でいるように』と願ってくれたのよー。だから、こんな高齢でもピンピンなのさー」


 九〇過ぎている高齢の国王は妃の一人と軽やかに踊ってみせる。

 まるで若々しい動きで、他の貴族も驚嘆を漏らすほど。

 体力もあまりあるほどハツラツで息も切らさず、踊り終えて喝采を浴びた。


 すると、天井裏から暗殺者が瞬時に飛び降りてくる。


「ふんっ!」


 見抜いてたオクユカ国王は腰から剣を引き抜き、暗殺者を斬って捨てた。

 両断されて転がる暗殺者に、貴族の連中はドン引き。


「な、なんという剣の腕前……。高齢の振るうものとは思えん……」


 ドクセーは驚きを隠せなかった。

 ドヨドヨとする貴族たちにオクユカ国王は「こちらで片付けるから、引き続き楽しみ給え」と指を鳴らす。

 執事たちがやってきて暗殺者の死体を運び出し、血まみれになった絨毯を掃除して、何もなかった事にした。

 去っていく国王と周囲の妃。


「ますます願いを叶えてもらいたくなってきたぜ……」


 ドクセー公爵はニヤリと笑む。


「では、どのような願いを?」

「不老不死の願いだ。若いまま永遠に生きれるのだ。楽園があれば、そっちへも行きたいかな」



 全員の妃とも別れて、オクユカ国王は静かな足取りで一人部屋へ入っていった。

 暗く静かな部屋だ。明かりも付けず国王は笑ったままソファーへ腰掛ける。すると急に笑い出していく。


「くくく、ははは、はーっはっはっはっはっはっは!!」


 大きく口を開けて狂ったように笑い続けていき、更に両目がゴムのように伸びてグニョングニョン伸縮を繰り返していく。

 カタツムリに寄生しているロイコクロリディウムのように……。


「はあーっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!!」


 体までもがいびつに膨らみ、両目を伸縮させながらグニョグニョ不気味に踊っていく。

 さっきまで優男の体格だったのに、今は複数の体を繋ぎ合わせたかのような左右非対称の体格になっていた。

 背中には無数の顔が浮かんでいて、苦しそうに蠢いていた。


「はははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!」


 愉悦に笑い続ける恍惚タイムが終わると、元の国王の姿へ縮んでいく。

 再びソファーへ腰掛けて満足げに息をつく。ふう────……。


「いい加減、最下層へたどり着く人はいないものか? そろそろオクユカみたいな欲深い人と、ジゴキみたいな若く強い人を食いたいわぁ~」


 左右に避けるほど口角がつり上がっていって、狂気の笑みを体現させていた。

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