33話「悪徳貴族と腕輪の秘密?」
アッセーたちは『雲旅団』メンバーに加わって、世界最大のダンジョンを数時間ほど潜っていた。
広大だからなのか、多くの冒険者が入っていったってのに見なくなってきた。
複雑怪奇な遺跡の迷宮って感じだ。
「この辺りでよかろう。ロクック。こいつらの腕輪も外した方がいいぞ」
なんと無口だったクリランが、こちらの腕輪を指さした。
「そうだな」
「え? 安全を保証するとかなんかじゃねぇ?」
「建前はね」
ノダークはとっくに外した自分の腕輪を取り出して見せる。
「確かに『エスケープ』と唱えれば、一瞬にして出入り口前に転移できるわ。でも、本当の効力は最下層魔人の『なんでも叶えてくれる願い』を横取りする為」
「横取りをする為……?」
「そうよ。貴族様としては、魔人の『なんでも叶えてくれる願い』を、下賎な冒険者どもには与えたくないわ」
「そうだ。そして本当の転移は、最下層の魔人へたどり着いた瞬間に貴族様と位置を入れ替える事にある」
アッセー、アルロー、ユミは驚く。
「え? 外へ出されるん??」
「いや……、そんな事になれば他の冒険者に広まって反乱が起こる。故に、例えば溶岩の池とか、どこか生存不可能な場所へ転移されるようにしてある」
「そうよ。そうして行方不明となり、貴族様が願いを独占できるってわけ」
ロクックとノダークの話で、怪しんでた部分が埋まった。
世界最大のダンジョンの出入り口を貴族が受け持ち、冒険者に契約を強いて、最下層にたどり着いた冒険者と位置を入れ替えて亡き者にする。
そして貴族は魔人になんでも願いを叶えてもらう手はずになっている。
「えげつねェな……」
「そうね」
オレの呟きにノダークが頷く。
「というわけだ。外してやれ」
「ああ」
クリランが親切にも助けてくれそうで、ロクックも協力的だ。
しかしアッセーは掌を差し出して「待った」をかけた。
ロクック、ノダーク、ギンボウ、クリランは怪訝な目をよこす。
「何だ?」
「ちょっと調べてみる」
アッセーは腕輪を凝視する。
妖精王として体が若干作り替えられているので、魔眼と同じような力が目にある。
故に世界の裏側から内部を見れる事ができる。
この方法は転生前の異世界で幻獣界の図書館で知り、そして今ここで初めて試す事になる。
「むっ!」
目に力を入れると、まるでミクロの世界へ突入するように、景色はもちろん腕輪もグーンと拡大して視えた。
すると周囲がパーツとしてバラバラに分解されて、更にそのパーツがバラバラに細分化されて、見た事もない記号の羅列の群れに解れていく。
物質はプログラムによってパーツを繋ぎ合わせて具現化を可能としており、それは各自で異なる質感や効力を発揮できるようになっている。
こうしてオレたちの世界はプログラムの上で暮らせている。 記号も更に細かい記号に分解されていって、更に更に深い奥まで次元を潜り込んでいった。
まるでミクロ世界での物質の原子とか分子とか素粒子みたいに……。
これなら厳重なロックされたまま、内容を見たりできる。
「やはりな……、厳重なロックがかけられている。よく外せたな」
「私は魔法陣にも精通しているからね。それに外す際に爆破する機能がないのは無用心とは思うけどね」
「……外すだけなら、貴族様はなんでもねぇみたいだな。爆破機能足さなかったのはダンジョンに影響を与えるのと冒険者に知られるのを防ぐ為か?」
ノダークは見開く。
「持ってるだけでも発信機にもなるし、エスケープの呪文も発動できる。幸いな事だが、盗聴機能はねぇみたいだな。参加人数の多さとダンジョンの広さと距離的にリソースを割くからか?」
「ほう、驚いた。ノダーク以上に詳しいヤツがいるとは」
クリランも驚く。
「問題は厳重にロックされているのが、転移機能だ」
「ほう」
「なんだと!?」
ロクックは感心し、ギンボウは激情をあらわにする。
「エスケープによる冒険者の脱出用の転移。そして本命の貴族と位置を入れ替える転移の二つ。確かにロクックとノダークの言う通り、最下層の魔人前にたどり着いた瞬間に貴族と位置を入れ替え、冒険者は硫酸の池へドポンってなる」
「な……なに……!? そこまで分かるのか……!?」
「この転移魔法陣だけは他人にいじくられたくない為、厳重にロックしてあって、万が一解けば問答無用で硫酸の池へドポンだな」
ノダークは「難解だから、いずれ解明したいと思ってたけど助かったわ……」と仰け反る。
「こちらは裏側からいじくれるからロックされたまま内容を変えられる。ちょい内容書き換える」
「どんな風にだ?」
「装着者を硫酸の池へ転移する部分を消す。そして最下層の魔人へたどり着いた時に、オレたちの前に貴族が転移してくる形になる」
「ほう」
「それは面白そうね」
ノダークは笑む。
「それにさ、魔人の方も色々ありそうなんで、敢えてこの仕様にした」
「魔人を知ってるの?」
「本で読んだ事がある。魔人は体を持たない魔族とも言われ、生き物の体を乗っ取って活動する。大抵は人間を乗っ取るから『魔人』って名付けられたそう」
「意外と博識だな」
ロクックも冷笑を浮かべる。
「その魔人が最下層で待ち構えてて、なんでも願いを叶えてくれるって怪しいだろ?」
「そういえば、なのです」
「確かに……、最下層に行った人は一人たりとも戻ってこないと噂があったな」
アッセーに相槌を打つアルロー。
そして顎に指を添えてクリランは噂の話を出す。
「本当に『なんでも願いを叶えてくれる』のか、確かめたいから逆に強欲な貴族を生け贄にすっぞ」
ロクックは「それは面白い提案だ」と楽しそうに笑う。
ノダークはやれやれと首を振る。
「なんでぇ、こりゃ有能掘り当てたじゃねぇか!?」
「ふむ。女子二人はともかく、アッセーには我々のメンバーへ正式な入団を勧めてもよかろう」
ギンボウは上機嫌。クリランも感心して、勧誘を考えるほどだ。
「でだ、最下層までたどり着いて真相を明かそう。入団の話はそれからでも遅くねぇだろ?」
「それもそうだな」
「いいじゃない」
「へっ! 面白くなってきたぜ」
「ふむ」
アッセーはそう提案し、ロクック、ノダーク、ギンボウ、クリランは笑みながら頷く。
魔人や貴族の真意を明かす事の方が面白いと賛同してくれたようだ。
……なので、全員分の腕輪の転移内容をコッソリ変えておいた。貴族も、まさか変えられたとは思っていまい。
「さぁ、最下層まで潜っていくぞー!!」




