31話「大陸最大のダンジョン!!」
タマリン王国を出て、馬車に揺られること二日。
大陸を一周する為に交易路を回って、各国を渡っていた。
ここまでで半分ぐらいは進んだかと思ってたんだが、五分の一も進んでないってすごい広すぎ。
「つーか、ユミが最近おかしいぞ」
ネコのように「ねぇ~」と甘ったるい声で、こちらにスリスリしている。
アルローはジト目で「知らないのです。ヒトは……ユミは発情期なのです」と素っ気ない。
「嫌なんですか……?」
ユミはあざとく、上目遣いでしおらしく聞いてくる。
「周囲が誤解するんだが……」
「いいじゃないですか。私、もう一緒になりたいです。身も心も……」
赤らめながら、アッセーの正面へ抱きついて胸にスリスリする。
他の冒険者も見て見ぬふりで、誰も我関せずと素っ気ない。しょうがないので妖精王化して、小さな鈴を生成して鳴らす。
ユミの背中からドロドロした紫のなにかが弾け散った。
「はっ!?」
正気に戻ったか、ユミはそそくさと離れて赤面する。
「やだ……私………なにをして……??」
もじもじするユミに、アルローは安堵のため息。
「ふうっ。ユミの性欲は浄化されたのです……」
「ああ。まさか性欲も浄化するとは思わなかったなぞ」
「欲望も邪念の一種なのです。これでユミも一時的に賢者モードなのです。よかったのです」
素っ気なかったアルローも元の調子に戻ってくれた。
周りの冒険者も巻き込まれてか、賢者モードになってて引き締まった顔をしていた。スンッ!
まぁ、特に害になるわけでもないし、時間が経てば元に戻る。
「私は……一体……?」
「推測するけどさ、今まで恋愛した事ないんだろ? そのまま十五になっちまったんで耐性が付いてねぇ。だから恋に依存して、欲情の沼に沈みかけたと思う」
「そんな事が……」
「あるのですっ! ヒトは欲望が強く、依存しやすいのです!」
羞恥で罪悪感を感じているユミの頭を優しく撫でた。
「これから色々なものを学んでいけばいいさ」
「いろいろなものを……?」
「きっと、他に好きな人ができて、何度も恋愛と失恋をして本当に好きな人を見つけて結婚。家族を持って余生を過ごしていく」
「いや! アッセーがいい!」
他の人は嫌だと言わんばかりに、アッセーの腕に抱きつく。胸がぷにっと。
「今は焦らなくていいさ。ゆっくりやっていこう」
「……うん」
拒絶もせず、あくまで優しく頭を撫でる。
気分を落ち着かせてから離していくのが一番いい。まだまだ幼いからな。
ん? このアッセーと同い年だっけ??
「さて……、今度の国はフカオックイ王国か……」
「世界最大のダンジョンを囲む大きな国なのです!」
「世界一のダンジョン……?」
アッセーは本で読んだ事があった。
フカオックイ王国は、鉱山のようにダンジョン周囲を施設や設備で囲み、頑丈な城壁で更に囲んだ広大な国だ。
世界一のダンジョンだけあって、採れる貴重な資材によって国が潤っている。
一番冒険者が集まってくる国だ。
そして比例するように、行方不明者や死傷者もまた多い。
「さて、例の『深淵の魔境』とどっちが高難易度かな?」
「え? なんなのです?? 聞いた事ないのです」
「いや、こっちの話」
「それ聞きたいのですっ!」
アルローは興味津々で、ユミも目をキラキラさせている。
ため息をついてアッセーは、自分が元いた異世界であった『深淵の魔境』を話した。
浄化システムで吸収した大災厄のエネルギーを、塔の魔女が七つのダンジョンに作り替えて各地に散らばらせた。
それをクリアする事で浄化できるという。
もちろん、各ダンジョンのラスボスを倒せば秘宝が手に入る。
……しかし大災厄の円環王のエネルギーは途方もなく、時間経過で難易度が増していくという厄介なダンジョンでもあった。
「そ、そんなヤバいダンジョンがあったのです!?」
「ふわぁ……世界は広いです」
「まぁ、大災厄の円環王はもう倒したしなぁ。従って二度とあんなダンジョンは出てこないぞ」
そういや大災厄の円環王が健在だったら、この世界にも足を運べてたんだろうか?
異世界列強なんてのを作って『真紅熾天使・五十聖神王』なんて多過ぎる幹部を受け持ってたっけな。
一度も幹部とは会った事ないが、部下である悪魔の教皇は確かに手強かったな。
「遠い異世界、行ってみたいのです……」
「私も……」
アッセーは後頭部をかいて困った顔をする。
「オレは転生させられたし、元の異世界がどこにあるのか分からんしなぁ……」
するとアルローが飛びついてくる。
「だったら、この世界最大のダンジョンで最下層にいる魔人に願いを叶えてもらうのですっ!」
「「ええっ!?」」
アッセーとユミは驚く。
フカオックイ王国の城壁を超えて、入国した。
結構経済は潤っているのか、綺麗に整った建物にインフラ設備が充実していた。
アッセー、アルロー、ユミは呆気に取られる。
これまで訪れたのより豊かな国だったからだ。店も多く、種族も多い。
「……しかし裏がありそうだなぞ」
「なのです」
ユミは「え?」と振り向く。
その後もしばらくは散策して、楽しめた。
泊まった宿屋は高かったが、最上級の設備が備わっていて満足感がハンパなかった。
その翌日にダンジョンへ入ろうと思った矢先に、問題が出てきたぞ。うーん。




