29話「優勝をぶち壊す王様の兵器をぶち壊す!」
カンダタことアッセーの優勝が決まり、初のよそものの快挙で歓声が沸いた。
「「「わあああああああああああああああああああっ!!!」」」
タマリン王様は顔を真っ赤にして震えていた。
後ろで控える将軍も呆気に取られている。
「ど、どうしても……アレを……使うんですか!?」
「当たり前だっ! ここまでコケにされて黙ってられるかっ! やつの優勝をぶち壊してくれる!」
そんな王様を、タマリン王妃は扇で口元を隠しながら冷めた感じで見ていた。
カンダタの立つ闘技場に、仏頂面のタマリン王様が歩いてきていた。
見た感じ、戦った事のない小太りのチビおっさんって感じの偉そうな人だ。
湧いていた歓声が徐々に収まっていく。
「カンダタとか言ったな。ヤンバイ王国の刺客にしてはやるじゃないか」
「え? ヤンバイ王国?」
「ふっふっふ。とぼけなくてもいい。素性は割れてんだからな……」
「なに言ってんだおめぇ……」
なんか盛大に勘違いしてないか? この王様。
「これからお祝いでもしてくれんのか?」
「なぁに。その前に、ちょっとしたサプライズをしたい。遠慮なく受け取ってくれ」
王様が杖をかざすと、足元に魔法陣が輝き出す。
すると半透明のスライムみたいなのが湧き出して、王様を包んでいく。それは五メートル強の人型になっていった。
形状からして、スライムの全身鎧みたいな感じだ。
「これぞ、我が最新兵器『タマリンアーマー』だ! ふっふっふ!」
見た事もない最新兵器に、観客はザワザワしている。
王様直々のサプライズだと思って、カンダタは光のナイフで構えた。
「カンダタ来い!」
「ああ」
瞬時に駆け寄って一太刀を浴びせる。するとボヨンとタマリンアーマーは跳ね飛ぶ。
王様はニヤリと笑む。
ぶ厚いゼリー装甲のせいで攻撃が吸収されてしまうようだ。
「魔法攻撃も、物理攻撃も、完全に防いでしまう。もはや余に届かん。そしてこれが万が一戦争になった時の為の殺戮兵器だ」
「へぇ~」
今度はタマリンアーマーが王様の意志に従って素早く地を蹴ってくる。
拳をハンマーの形状に変えて振り下ろしてくるのを、光のナイフで受け止める。なかなか重い。
するとハンマーから無数のトゲが生え、アッセーは思わずマッハで後ろへ飛び退いた。無数のトゲは長く伸びて床に突き刺さっていく。
並のやつだったら串刺しにされていただろう。
「ひょえええ。そういうギミックあるんか」
「む、瞬間移動スキルか……? よくかわせた事は褒めてやろう。だが、そうそう何度も使えまい」
「なんか面白いな」
「なんだと!?」
カチンときた王様はタマリンアーマーで襲いかかる。カンダタは瞬間移動のような動きで背後へ回る。
相手が消えて戸惑う王様に構わず、アッセーはナイフを背後に振るってボヨンと弾く。
「く……! 今度は後ろに瞬間移動かっ!?」
今ので分かった。王様自身に戦闘経験は皆無。隙だらけだ。
こっちの動きも全然見えてねぇ。
だから絶対防御とも言えるタマリンアーマーなんてもので安全に戦いたがるんだ。
それに見た目こそゼリーみてぇだが、筋肉の塊がしっくりくる。粘着性があって弾力があり、しかも恐らくミクロレベルで繊維化する事で、衝撃を極限にまで吸収し、なおかつ柔軟な動きと強烈な馬力が出せるんだろう。
「ちょこまかとッ!」
振り下ろしてくるゼリーの腕を片方の手で掴み、光のナイフで胴体に連撃を入れる。しかしヨーヨーみたいにボヨンボヨン跳ねるだけだ。
徐々に連撃を強くしていくが、四方八方にボヨンボヨン跳ねるだけで王様は無傷のまま。
掴んでいたのを離し、ナイフで「スパーク」と強撃を叩きつける。
タマリンアーマーはすごい勢いで吹っ飛びプールへドボーンと突っ込んで飛沫を上げる。
しかし何事もなかったかのようにプールからタマリンアーマーが飛び出してきて、宙返りして闘技場へ舞い戻る。
「場外負けじゃなかったっけ?」
「ルールなどどうでもよいっ! とにかく優勝など絶対認めぬっ! これは試合でもなんでもなく、我が殺戮兵器による貴様への公開処刑だっ!!」
王様は溜め込んだ怒りを解き放つように怒鳴り散らしてくる。
「ちぇ……、サプライズじゃないんかい。まぁいい。じゃあどこまで衝撃に耐えられるかテストに付き合うよ」
「クックック! ムダだムダだ! こっちの一方的な殺戮のみだ!」
光のナイフから星光の剣にバージョンアップ。
更に光魔法を剣に付加。
「シャイニングロード! さぁ行くぞー! スターライト・ライズ──ッ!!」
カンダタは光の尾を引きながら間合いを縮め、斬り上げで吹っ飛ばす。
そして遠距離タイプの斬り下ろしフォール、縦横無尽斜め横薙ぎスラッシュ、斬り上げライズを何度も繰り出して空中でボヨンボヨン手玉のように跳ね飛ばし続ける。
多少本気でやってんのに、大した弾力だなと内心感心。
「じゃあ、今度はこれ!」
剣を正眼に構え、カッと眼光を煌めかす。
「流星進撃!! 三〇連星ッ!!」
タマリン王様の目には、カンダタの背後に天の川が横切る夜空が映る。初めて見る光景なのだろう。見開く。
そして流星群のように無数の太刀筋が襲いかかる。
強烈な一瞬連撃がタマリンアーマーを完膚なきまで穿ち、それぞれ限界まで伸び切らせていく。十一撃目でさすがに耐え切れず、ゼリー爆ぜた。
「うわあああああああああっ!!?」
「ありゃ?」
思わず十二撃目を止めて、技をキャンセルした。
液体のような破片をぶちまけながら王様は仰向けでタイルに落ちた。散乱するゼリーの破片が転がる。
「あ……ああ……っ!」
「なんだよ、まだ十八発残ってたのにー」
「ああ……ぁ…………!」
王様は恐怖で震えて顔面蒼白。
「もうちょっと試したかったな。まだある?」
「な、ないないっ!! 莫大な額を使って長い時間をかけて制作する殺戮兵器が簡単に量産できるわけなかろうっ!!」
王様は必死に首を振る。
「で、どうすんの? これから王様自身が戦うん?」
「やめろっ! やめてくれっ!!」
「じゃあ、これからどうするんだよ?」
カンダタがツカツカ歩み寄ると、王様はその分だけ尻餅をつきながら後しざりする。
「わ、分かった分かった! おまえの優勝でいい!! さっさと帰ってくれ!」
「ん? 優勝でいい? 帰ってくれ? いい加減だな~。確かルール上殺しても勝つんだっけか? こっちはまだ試合を続けたいぞ~」
光の剣で構えるフリをする。
「わー!! わー!! 優勝おめでとうございます!! おめでとうございます!! だから命だけは助けてくれー!!」
土下座して何度も頭を下げて、祝ってくれた。
そしてその後、王様直々にカンダタの優勝を宣言して、観客を歓喜に湧かせた。
今度こそ優勝ということで幕を閉じた。
「へへ! やったぞ──!!」




