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25話「目立たないように勝ち抜こう?」

 大勢で賑わう観戦席でアルローとユミは『水龍祭』という闘技場トーナメントにハラハラしていた。


「さすがナッセ勝ち残ってるのです」

「このまま優勝まで行きそうです。ああ……体が熱くなってきます……」


 ユミは恋煩いに酔いしれていく。


「そこ、妖精王様に発情するなのですっ!」

「アッセーに押し倒されてメチャメチャにされたいです……。はふぅ……」

「はぁはぁ言うなのですっ! これだからヒトは、なのですーっ!」


 見惚れているユミをユサユサするアルロー。


 そんな二人になぜかエルフが囲んでいて、目に見えぬ結界を張っていた。

 妖精王の大切な仲間だからとコッソリ守ってくれているようだ。何を隠そうオダヤッカ王国からの「妖精王様を影から支援するのだ」と伝達していたようだった。



 二回戦でアッセーの前に、巨人かと思うほどの全身鎧を着た大男が立ちはだかっていた。


「双璧聖騎士以外では全く歯が立たないという我が国の不沈騎士、不倒の重鎮巨兵ヤマゴトシ! さすがのカンダタも勝てないでしょう! やっちゃってくださーい!」


 闘技アナウンサーもあっち寄りか……。


「ふっふっふ! 小柄な貴様では、この我を倒す事など不可能よ! これまで小手先で勝ってきたようだが、ここまでだな」

「いやぁ……」


 自信満々に言ってくれるけどさ……、とアッセーは後頭部をかく。といってもカブトだから硬い感触しかないけど。


「観念して押し潰されろ!」


 ドスドスと巨体を揺らすヤマゴトシ。

 すかさず後ろへ回り込んで膝カックンしてサッと引く。ヤマゴトシは重量感たっぷり仰向けに倒れてしまう。ズズウン!


「ふふふ……、なんだそれは? 痛くとも痒くもないな」


 上半身を起こそうとするが、全身鎧が重すぎて身震いするだけだ。

 何度も左右に傾けさせようとも起き上がれない。それでも憤怒でもって「ぐぎぎ!」とムリして起き上がろうとする。

 グキッ、腰が逝った。そのまま重力に従って大人しくなる。


「我の腰は死んだ……」


 グッタリして動かなくなっちゃった。


「な、なんと! 不倒の重鎮巨兵ヤマゴトシが立ち上がれず負けました~!」

「いえー!」


 アッセーはガッツポーズする。

 唖然とするタマリン王様は「あ、あのバカ……! 首だ!!」と悔しがっていく。

 汗を垂らす将軍は「首にしなくとも、ギックリ腰で引退ですがね……」と呟く。



 選手控え室でワイルーが腕を組んで憮然としていた。なぜか弓は背負っていない。


「ふん、運良く転ばしたか……」

「普通に殴ってもいいんだけど、それだと驚かれるからなぁ……。今回は目立たないようにしたいんだ」

「それがいいだろうな。よそもんが目立……? ん?」


 アッセーが通り過ぎて、ワイルーは眉をひそめて首を傾げた。


「殴る? なんの話だ??」

「こっちの話。気にしねぇでくれ」

「それはできねぇだろ。ヤマゴトシはどんな攻撃を受けてもビクともしないんだからな。あれだけ重装備してて、魔法耐性も付加されている。殴ったら逆に手を痛めるだけだろ」

「普通はそうだよな……」

「おい、おまえ……なんか食い違ってねぇか??」


 アッセーはぶら下がっている肘当てが気になり、バキッと剥ぎ取る。

 それを、まるでティッシュを丸めるように鋼鉄を縮め丸めていく。それをワイルーは微かに怯む。


「……それ、厚紙で作ったのか?? ふん、見かけの鎧か。道理でよく動けるぜ」

「ちゃんと鋼鉄だぞ」


 アッセーはホイッとワイルーに丸めた鋼鉄を渡す。

 その鋼鉄の玉を両手で触ってワイルーはゾーッと青ざめていく。実はとんでもない怪力なのでは、と内心恐れ始めていく。

 そもそも予選の時に大勢を玉突きさせていたが、普通はできない。ありえない。

 もっと大きな力でなければ不可能だ。


「あいつ……一体なにものだ……?」



 三回戦が始まり、アッセーはカンダタとして闘技場へ向かう。

 すると相手は両手指にリングをはめていて腕を交差して構えている男だった。


「なんとぉー! カンダタの前に立ち塞がるは、Aランク冒険者トップの殺戮魔糸の使い手イトムビ!! いかなるモンスターもサイコロステーキに料理するという恐るべき選手だ!!」


 恐れおののく歓声があがる。


「この俺は優しい。だから戦う前に忠告はするよ。始まる前に降参をすすめる。これから残酷な事になりそうなんでね」

「なんで?」

「フッ! そう言うと思ったよ。なら」


 何を思ったのか、鋼鉄のカブトを真上に放り出し、軽やかに両腕を踊らして細切れに散らしていった。紙吹雪のように破片がパラパラと散っていく。

 そんな凶悪なまでの切れ味に、観戦客から恐怖の悲鳴が湧いた。


「どうだ?」

「いやぁ。遊びはいいから始めようぜ」

「なに!? ふっふっふ! きさまをこのようにサイコロステーキに調理していいんだな?」


 試合開始、と闘技アナウンサーが告げて、歓声が沸く。

 イトムビはシュババババッと両腕を踊らすと、無数の煌く糸がカンダタへ覆い被さらんとする。


「後悔しても遅いぞっ!! 飛軌砕糸(ひきさいと)!!」


 しかしカンダタは逆に左腕を回す事で、糸をぐるぐる巻き付かせていく。さすがにガントレットは細切れになったが、腕そのものは無傷。

 グイッとイトムビを引っ張って、肘打ちで腹を穿った。ドスッ!


「あ……あがが…………、な……なんで……腕の方が斬れないねん…………??」

「さぁ? レベルが違いすぎるから?」

「う……うっそだろ……おま…………」


 腹を抱えて震えるイトムビは蹲る形で沈んだ。

 カンダタは腕に巻きついた糸を掴んでブチブチちぎって丸く纏めて「次の試合に危ないからね」と、糸玉をイトムビのそばに置く。


「「「わああああああああああああああっ!!!」」」


 笑い声にも似た歓声が上がり、カンダタは拳を上げた。

 それを出入り口でワイルーは見ていて「と……とんでもないヤツかもしれない……」と鼻水を垂らす。



 観戦席でユミは「ああああん! 素敵ですっ!」とハートマークの嵐を飛び散らせて手を振る。

 今までに見ないはっちゃけた彼女。


「重症になっちゃわないか心配なのです……」


 アルローはジト目で呆れる。

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