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24話「画策が蠢くトーナメント!」

 観戦席の中でも特等席となる広い席でタマリン王様は「なんだっ!? あのコテコテな騎士はっ!?」と憤慨していた。

 王妃も扇で口元を隠して例の選手を睨んでいる。


 将軍らしき控えの騎士が会釈。


「はい。あの選手はカンダタという冒険者のようで、なぜか我が国の全身鎧を着ています」

「カンダタだとぉ!?」

「……宿屋にそんな人はいなかったので、今日に入国したばかりのようですね。なぜ我が国の全身鎧を着ているかは分かりかねますが」

「さては欲深いヤンバイ王国の刺客だな!? 最近大人しいと思ったら……!」


 ぐぬぬ、と顔を赤くする。


「確かによそ者の選手もいなくなって久しいが、心配には及ぶべきありません。なぜか暗殺組織が足元を見るようになってきて暗殺の依頼が困難ですが、我が軍にアーチャー狙撃手がいますので試合中に始末をつけましょう」

「ふん! 確かだろうな?」

「はい。我が軍が開発した高性能ボウガンは五〇〇メートル先の鳥も正確に射抜けます。それに鋼鉄をも貫通するほどの攻撃性能。カンダタは間違いなく死ぬでしょうな」

「念の為、カモフラージュで選手たちに弓を持たせろ」

「もう通達しております」

「そうか。ならいい。わっはっは」


 それを聞いて上機嫌になって落ち着いていく。




 アッセーは控え室で座っていると、全員の選手が弓を持つようになって違和感を感じた。

 ワイルーってやつも弓を装備していた。


「なぁ、弓装備した方がいいんかな? ルール?」

「ふん……、装備は自由だ。俺は念の為に弓を装備しているだけだ。安心しろ」

「そっかー。剣一本でもいいんなら安心したー」

「そういう事だ」


 親切なワイルーは、なぜかニヤリと悪辣に笑んでいく。よく顔に出したがるなぁ。いつも思うが悪巧みを破ってくれって事でいいんかな?

 ともかく、これは何か裏があるな。


「本戦はトーナメントだ。三番目の試合がお前の出番のようだな。さっさと行け」

「ああ」


 ワイルーはほくそ笑んで「あの世にな……」と呟く。

 カンダタとして再び闘技場へ入場すると、盗賊風の相手選手と対峙する。


「よろしくお願いします」

「ふん」


 こちらが挨拶したってのに、感じ悪いな。

 コイツはアナウンサーが「疾風の刃ビオッテンナ」ってたな。優男で黒髪、帽子をかぶっている。腰のナイフを引き抜いてくる。毒が塗られていると反射光の僅かな色で察する。

 そして背中の弓で、なにか仕掛けがあるかと勘ぐる。


「貴様の運もこれまでだ! 行くぞっ!」

「おう!」

「この俺を前に全身鎧など意味を成さない事を教えてやろうッ! 喰らえ! 鎧貫突ッ!!」


 素早い動きで間合いを詰めてきてナイフを突き出す。

 狙い違わず鎧の隙間をくぐり抜けて肌に刺したにも関わらず、なぜかへし折れた。


「なっ!? さては裏側にも鎧を重ねたなっ!?」

「ん? 鎧は重ねてねぇけど……?」


 慌てて折れたナイフを捨てて、間合いを離れ弓に切り替えていく。

 一本の矢が放たれるが、本命の矢は遠くの高台からボウガンで狙撃してきたアーチャーのやつ。見切って射線を離れると、それぞれ別方向の二本の矢が通り過ぎてタイルに突き刺さった。


「か……影矢を見抜くとは……! 一本放ったかに見せかけて、別角度から二本目の矢を放つ技だ! 見切るとはさすがよ!」


 なんかビオッテンナは焦りながら、取り繕ったようなセリフを言い出す。

 アッセーは刺さっている矢を引き抜き、あさっての方向へ投げる。


「ははっ! 矢を失わせるつもりか!? まだまだ何本もあるぞ!」


 もう一つの矢も、別の方向へ投げる。

 その隙にビオッテンナは再び矢を撃つが、見向きしないアッセーにパシッと掴まれる。二本目を撃つが同じく掴まれる。


「なっ!? ……お、おい、おいおい!!」


 しばらくしても別の矢が飛んでこない事を不審に思い、キョロキョロよそ見しだした。


「影矢……だったっけ? しなくていいの?」

「うっ!」


 実は何気なく投げた矢は、猛スピードで高台にいるアーチャーのボウガンを破壊したのだ。

 もう一人いたみたいなので、二本目の矢で同じくボウガンを破壊した。だからコッソリ狙撃はできねぇぞ。

 全く卑怯な大会だよ。


「この!!」


 焦りまくりのビオッテンナは矢を放つ。アッセーは二本の矢を掴んでる手で再びパシッと掴む。

 それをまたあちこち投げて、新しく出してきたボウガンも正確に射抜いた。

 たぶん、これでアーチャーは恐れて出てこなくなるはず。


「く……! な、なに……!? なぜ簡単に矢が掴めるんだっ!?」

「さぁ? ルール的に場外へ落とすか、気絶させるか、で勝つんだっけ?」


 隙だらけにスタスタとビオッテンナへ歩む。

 その間もアーチャーの支援が全くない。もはや打つ手がないビオッテンナは徐々に恐れを募らしていく。チラッと王様の方へ視線が向く。そして意を決したのか「だあああああーっ!!」と掴みかかろうとする。


「えいっ!」


 カブトで頭突きかまして、ビオッテンナを床に沈めた。ピクリとも動かない。


「か……カンダタ選手の勝ちですっ!!」


 歓声が沸く。




「な、なんたる失態を……! あの疾風の刃ビオッテンナが、あのザマとは! おい! アーチャー仕事しろ!」

「す、すみません……、アーチャーたちが及び腰で引き受けてくれないのです……」

「なんだとっ!?」

「なんか、狙撃用の高性能ボウガンを破壊してくる刺客が他にいたようで……。恐らくヤツが矢を投げる合図で我らの狙撃を邪魔しているようです!」

「ぐぬぬ……! ヤンバイ王国め~~! そちらも狙撃手を用意してきたか~~!」


 タマリン王様は歯軋りする。


「向こうの狙撃手を探してはいるのですが、隠れるのが上手いようで見つかっていません……」

「何としてでも狙撃手を捕まえろっ! 捕虜としてヤンバイ王国を脅す材料にしてやる!!」

「ははっ! 仰せのままに!」


 将軍は引き下がる。


 まさかカンダタを名乗るアッセーが普通に矢を投げて、遠くの高台のアーチャーの高性能ボウガンを武器破壊しただなんて夢にも思っていないようだった。

 普通できない事だから、たぶん知っても信じないだろう。

 ますますタマリン王様陣営は勘違いを加速させていく。

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