18話「勇者サイドの事情……!?」
大陸の中心から聳える、幅が壮大に広く天まで垂直に伸びている大きな山。上ほど雲がかかっていって霞んでいく。
どこまで伸びているのか恐らく人々の誰も知りえない。
そんな塔山に光珠が隠れて、夜一面になっている。青かった空も真っ暗な夜空。
星々は海の地平線付近に無数集まっている形で、海へ近づくほど密度が上がっていって天の川のように光の帯として横切っている。
蛇行している天の川と違って真っ直ぐ横切っているので、地平線が輝いているように見える。
とある宿屋にて、勇者パーティーが泊まっていた。
旋風勇者キラギラン、豪腕戦士ビッグボン、新緑魔道士フォレス、破邪僧侶ブッチギの四人だ。
「フォレス。なんで馬の骨とも知らん冒険者に頭を下げてた?」
「妖精王様が通っていたもので」
フォレスはエルフの青年。たまたまアッセーが通りすがった時に頭を下げていたのを、勇者は気になっていた。
「なんだそれは?」
「普通は滅多にお目にかかれません。が、幼少期はベースとなっている肉体がメインとなっているので現世で活動されています」
「ふむう、そんな偉いのか? 見た限り普通の冒険者のようだったが……」
「ええ、そういえばヤンバイ王国で不埒な『獄炎』を懲らしめた人と一致しますね」
「我々エルフは、精神世界と隣り合わせになっている種族。なので生命体としての気が漏れて見えるのです」
勇者はベッドの上でため息をつく。
「妖精王様だかなんだか知らないが、世界の脅威となるなら魔王と同じだ」
「滅相な事を言わないで欲しい。確かに僕は初めて妖精王様をお目にかかれて光栄ですが、勇者といえどこれ以上の侮蔑は控えていただきたい」
いつもは落ち着いた様子のフォレスが歯向かう感じに、勇者キラギランは不審を抱いた。
「まぁまぁ、私も宗教がら女神さまを信仰しているので……」
「その女神さまも、俺たち勇者に任せきりで魔王魔族をのさばらせて放置してるじゃないか」
「なにかの考えがあっての事でしょう」
僧侶ブッチギにも呆れて、勇者はベッドへ仰向けに倒れた。
「お前らは変なのに信仰しててめんどくさいな」
フォレスは物静かで黙っていたままだが、勇者キラギランを思わしくないようだ。
しょせんは俗世に住まうヒト。争う為に生まれてきた存在。神へ不遜な態度を取るのも致し方がない。
その他大勢のヒトは長い歴史で同じ過ちを繰り返しながら未来へ続いている。
勇者の不遜など氷山の一角でしかない。
「それはともかく、勇者も落ち着け。各々違う考えがあって当然だろう。明日には『塔山』方向の鉱山地帯に出没する不審な人物を討伐もしくは捕縛するって話だろう?」
「……ヤンバイ王様は魔族だ、と言い張ってたな」
「そうでしたね。きっと魔族がいるのかもしれません。被害は聞いていないが、怪しきものはハッキリさせないといけませんね」
勇者キラギランたちは、ヤンバイ王国の王様から直々に依頼されたらしい。
我が国の調査団を送った所、連絡が途絶えて帰らぬ人となった。
元々は貴重な金属マギリスを発掘できる場所がないか調べに派遣していたのだ。
「ヤンバイ王国での鉱山はもう枯渇しているからと、他国の地域にも手を出す事自体が危ないと思いますがね」
「ヤンバイ王様は欲深い事で知られるんだったな」
「知るかよ。ともかく魔族なら放っておけまい」
フォレスは彼らの会話を静かに聴いていた。
彼は戦士ビッグボンや僧侶ブッチギと違って、勇者が何かしでかさないようにと監視の為に入ったのだ。
魔族ならともかく、失礼になってはいけない存在を相手にするなら離反する意向だ。
もちろん妖精王に剣を向けたとしても同じ事だ。
「ふん」
当のキラギランはヤンバイ王国の教会にて、女神の神託で選ばれて担ぎ上げられた勇者だ。
確かに類まれなる才能を開花し、聖剣を授かれた。並大抵の魔族なら難なく討伐できる。
しかし魔王とその直属の幹部は想像以上の強さを持っていて、いつか挑まねばならない運命を考えると気が滅入る。
なんにもしない人々の為に聖剣を振るう。俺は代表とされているものの、要するに押し付けられたって事だろう。
各国が総力でもって叩き潰せばいいだろうがよ。
なんで少数精鋭で挑む事にこだわるんだよ。女神さまも人が悪いな。
「はぁ……、今日はお疲れ様だったな。フォレス、ブッチギ、もう自分の部屋へ戻っていいぞ」
間を取りなす戦士ビッグボンが締めた。
フォレス、ブッチギは会釈すると部屋を出ていった。バタンとドアが閉まり、戦士ビッグボンもベッドへ仰向けに倒れた。
「勇者殿……いや、キラギランの心労も分かる」
「そういうのがしんどいんだよ。どいつもこいつも勇者殿しか言わんからな」
「それだけ期待されている、と考えたいですな」
「勝手にすんなよな」
横に寝転がる勇者。本当は勇者って思ったよりプレッシャーが重い。
ちやほやされてイイ気分って部分はあるが、ハイリスクな冒険に挑まねばならないのは普通の人間としては重い運命。
「ビッグボン、それでも悪くないと思っている。魔王さえ倒せば、貴族以上の地位を約束され、一生は遊んで暮らせる褒美が待っている」
「……それだけが支えになっているのは悲しいですな」
「全くだ」
勇者にとってビッグボンは数少ない理解者だった。
そしてその翌日に、勇者パーティーはオダヤッカ王国を発って、モリンフェン森林地帯へ侵入していった。
目指すは魔族がいるかと疑わしい鉱山地帯へ……。




