13話「ざまぁ展開終わったら、ヒロインできたし!?」
完全敗北を喫して正座するセラディスとザレ。
尋問したら、ユミは二ヶ月前に入れた新米。
それ以降の運び屋は無能だと見下して、何人も使い潰していたらしい。あわよくば囮に捨てて見殺しにした事もある。
新しく剣士や魔道士入れても、セラディスとザレ二人だけの贔屓パーティーなので使い捨てしていた。
テレンスもそんな感じだ。回復役だったので運良く長く生き延びたっぽい。
「はい。ドラゴンとミノタウロス、それ以外のモンスター討伐の報酬だよ」
「ありがとう」
アッセーは受付嬢から金貨沢山の袋を受け取った。
日本円に換算すると二五〇万円ほどだぞ。数年くらい贅沢で遊んでいけっぞ。
セラディスとザレはこちらを恨みがましく睨んでくる。
「こいつら投獄?」
「カードで罪状を読み取って、酌量あるかどうか調査。かなり悪質だから一〇〇年以上の懲役刑かもね。お疲れ様」
「ざまぁ」
前は気絶してて聞いてなかったから、改めて一言。
ブチギレたセラディスが「てめぇ!!」と飛びかかろうとする。やっぱ懲りねぇな。
なのでアッセーはギンと威圧を乗せて睨み返す。
「う……ああっ…………!」
ドラゴンに睨まれた以上の重々しく圧迫感のある恐怖に、セラディスは身が竦んでガチガチ歯を鳴らして、失禁して床を濡らす。
ザレも茫然自失で失禁だ。
惨敗も加えて、二度と冒険者がやれないくらいトラウマが染み込んだだろう。
「気持ちは分かるがやりすぎだ。処分は任せておけ」
「もう大丈夫。これで不審死も減るでしょうし」
あの贔屓二人の処分はギルドマスターたちに任すとして、テレンスとユミと一緒にギルドを出た。
昼飯という事でレストランで雑談を交えた。
テレンスは開放されたのか安堵していたようだった。
話を聞いていて分かったが、これまで贔屓二人の策略によって見殺ししてきたので罪悪感で苦しんでいたそう。
「私は冒険者やめようと思います」
「そか」
レストランから出ると、テレンスは何度も頭を下げて去っていった。
これから神父とかになって国に在住するとか言ってたし。
ちなみに贔屓二人は独房でなんか廃人っぽくなってた。
「ユミはどうする? どっか暮らすんなら金貨全部あげるぞ。家も買えるだろうし」
「ううん。ついていきたいです……」
「親とかいねぇんか?」
「……もういないです。だから冒険者としてやっていくしかなくて」
「しゃあねぇな。一緒にやってみっか」
ユミはパッと明るい笑顔を見せる。
町を歩いてて、貧富差が大きい事を改めて認識する。
ヤンバイ王国で暮らすには難易度高いだろうなぁ。浮浪者になるか冒険者になるかしかない。
冒険者は安全が保証されないから、浮浪者で我慢するしかない人は多いかもな。
別に夢のある職業ってワケじゃなさそう。
「まず『獄炎』の荷物売りさばこう」
「いいんですか?」
「ああ。見てみたがオレには不要なものばかりだし、ユミにも使えねぇ。まだ売らずに溜め込んでるコレクションっぽいのもあるから荷物軽くしていこう」
夜になる頃には、財宝も込みの冷蔵庫二台分抱えるほどの荷物がすっからかん。
聖剣は腰に差した。普通の剣と聖剣の二本差しなので侍になった気分。
「ねぇ、通りすがりのエルフがこちらに頭下げてきてたけど……? 偉い方?」
「ん」
通り過ぎる際にエルフはみな、こちらに頭を下げている。
まるで王族に敬礼するかのように……。
やっぱ妖精王特有のオーラが、ここのエルフも見えてるな。異世界ロープスレイでもそうだったし。
「まぁ、貴族だしなぁ」
自分でも白々しいなとアッセーは自嘲する。
宿屋へ泊まる際に、ユミが一緒の部屋がいいと言い出してきたのはビックリ。
まだ年としては十五の女の子だしなぁ。オレもアッセーとしては同い年なんだけど、転生前は成人してるし保護者って事で。
「ああ……ベッドフカフカです……」
初めてなのか、もう一つのベッドに仰向けで心地よくスヤァ……。
散々な扱いだったし、マトモな寝床で寝かせてもらってなかったんだろうな。服も綺麗なのに変えたし、これからは大丈夫かな。
あとは自立できるように育てた方がいいか。
起こしてから晩飯一緒に食って、再び部屋で寝る事にした。
消灯して寝入っているとユミがごそごそ一緒に添い寝しにきてきた。気づかないフリでそのまま寝た。
寂しいんだろうし、まぁいいか。
ヤンバイ王国を出る前に、ユミはおかっぱに髪を切り揃えて、シーフみたいな身軽な冒険服に整えた。
体のラインが浮き出るので、意外と胸がある。
抱きしめたくなるくらい愛らしいぞ。
「なんだかすっきりする」
「ああ。それじゃ行こうか」
「うん」
アッセーの腕に抱きついた。何がとは言わないが柔らかい……。至福……。
また馬車の護衛依頼を受けて、交易路へ出発。
馬車に揺られながらアッセーとユミは流れていく景色を眺めていた。青空で白い雲がたゆたう。広がる草原に風が撫でる。点在する木々が流れていく。
恋人のようにユミがアッセーの腕に抱きついたまま揺られる。
しかし、まさかユミがだんだん変になっていくとは、この時のアッセーも夢に思わなかった。




