12話「『獄炎』コンビと対決! ざまぁへ一歩!」
やや怪しい新米冒険者ナッセと使えない荷物持ちユミをダンジョンの中で追放したら、なぜかギルドへ先回りされてた件。
しかもギルドマスターまで出てきて、もう事情暴露されてる件。
「ちょっと!! あんた生きてたのっ!?」
「てめぇ……、どうやって帰って来れたんだよっ!? あの深さなら死ぬだろっ!?」
美女魔道士ザレは怯み、セラディスは戸惑いをあらわにアッセーへ指さす。それに呆れるアッセー。
それはともかく、とユミの方へ見やる。
「事情はユミの方からも話してくれたぞ。ずいぶんひどい事やってたんだな」
セラディスが「てめぇっ! 話したのかっ!!」と怒鳴り、ユミは萎縮。
するとギルドマスターがセラディスを殴り、壁に叩きつけた。「がはっ」と床へずり落ちる。
拳を鳴らして顔を真っ赤にしている。
「そんな事されてたら、ギルドの信用も落ちる。全部話してもらうぞ!」
ギルドマスターはセラディスの胸ぐらを掴んで、ぐいと持ち上げる。
あいつも大柄なんだが、それ以上の体格だから迫力が違う。ザレもおっかなくて何も言えない。
セラディスも「うぐ……」と吊るされるまま。
「ちょっと待ってくれ」
アッセーが待ったをかけて、ギルドマスターも受付嬢もユミも振り向く。
「追放されたのオレだし、腹の虫おさまんねぇから条件つけていいか?」
「……ナッセ?」
「セラディスさぁ……。対決しようぜ?」
観念しつつあったセラディスは見開く。
ギルドマスターは次第に吊るし上げていたセラディスを下ろす。
「オレに勝てたら罪は不問で今まで通り冒険者やれる。負けたら手心なく重い罪を償ってもらうで」
「ああ?」
セラディスはアッセーを睨む。
「ギルドマスターさん。ここはオレに任せてくれねぇかな?」
「ったく、遊びじゃねぇんだぞ」
「重い罪で投獄されたって懲りねぇと思うしさ。出所したら、またやるぞ」
ギルドマスターも「……!」と息を呑む。
アッセーは「ちっと懲らしめねぇとな」と片目ウィンク。
受付嬢は呆れた顔で「しょうがないですわね」とため息。すまねぇ。
「おい! テレンス!!」
「……すみません。降ります」
「てめぇっ!?」
観念したテレンスは降参。もはやセラディスの味方はザレ一人。
苛立ってチッと「使えねぇと思ったが、やっぱ使えねぇクソ僧侶だったぜ」と見限ってしまう。
ギルド前の開けた道で、アッセーとセラディス&ザレが対峙している。
周囲を野次馬と冒険者たちで囲んでいた。ワイワイガヤガヤ。
「何様だ! テメーはよぉ!」
「セラディスさん。今まで仲間にしてくれてありがとう。これは言っておく」
「舐めやがって!」
相変わらず口が悪いセラディス。そして美しかった顔も歪んだザレ。
「あれで生きてたとはねぇ……。運が良かったのかしら?」
アッセーは「さてね」と不敵に笑む。
だってわざと突き落とされてやったし、そうされる前に止める事もできてたしな。ここまで悪事をやらせておいてギルドマスターへ報告したかったからこそだ。
「うるせぇっ! とにかく、てめぇはブチ殺す!!」
「ええ! 偉そうにしてられるのも今の内ねっ!」
セラディスは剣を両手に構え、爆発するような炎のオーラを噴き出す。
ザレは杖を掲げて詠唱へ入る。
「くたばれや!! このゴミ野郎っ!!」
爆発の推進力を利用してセラディスは素早く斬りかかる。対してアッセーは突っ立ったまま普通の剣で交差させて受け止める。
「このっ! 獄炎乱舞斬っ!!」
セラディスは火炎をまとう連続斬りを繰り出すが、アッセーは余裕と剣で捌ききっていく。
横薙ぎ、斜め下ろし、斬り上げ、突き、フェイントを加えて左右交互に斬る。
「いい腕だけに惜しいな」
セラディスは焦りを滲ませつつも、バックステップ。ザレは杖を振り下ろす。
「焼き尽くされな!! 獄炎烈火球!!!」
轟々燃え盛る巨大な火炎球に、アッセーは剣の軌跡を幾重にえがいて散り散りと霧散させてしまう。
剣をゆっくり弧を描くように振ると、炎の尾が円を描く。
ザレは「あ……ああっ……」と絶句。
「チッ! 次の魔法やれよ!」
「くっ……! 水の精霊よ我が手に汝の偉大なる……」
セラディスは「うおおおおお!!!」と血眼でバカ一つ覚えの火炎斬りを繰り出し続ける。
子どもに稽古をつけるように軽く捌くアッセー。
今度はセラディスの左拳が飛ぶ。しかしアッセーは剣の柄尻で軽く弾く。
「手癖悪いな」
「うおおおおおおおおおおおッ!!」
ぶっきらぼうな蹴りが脇を狙ってくるが、同じく剣を握ってる拳で捌く。
「まとめて死ね!! 氷河巨塊弾!!」
なんと上からでっかい氷塊が落ちてくる。セラディス焦る。
ザレは冷徹に笑む。
もはやセラディスも切り捨てるつもりの冷酷な行為。しかも周囲の人々の被害も考えていない。
「あははははははっ!! あばよ!」
ザレは空を飛び去っていった。
しかしアッセーは隙間を埋めるかのような幾重もの剣戟の軌跡を繰り出す。
まるでタマネギの微塵切りのように氷塊は細分化された。更に粉々に切り散らされていってキラキラ光飛礫を撒き散らすだけになってしまった。
絶句するセラディス。
アッセーはザレを見上げると、瞬間移動のようにフッと消えて、また現れた。
「ってか、逃げたらダメだぞー」
なんとアッセーはセラディスと向き合ったまま左手で捕まえてて、ザレ当人は「逃げおおせた」と笑ったまま硬直。
一瞬の内に、飛んで逃げたザレに追いついて戻ってきたのだ。
まるで瞬間移動したかのように錯覚するだろう。
「え? ええっ??」
驚いて振り向くザレの頭上に剣の腹を下ろしてガツン。セラディスに「もういいや飽きた」とデコピンで額を打って、仰向けに張っ倒す。
二人とも「きゅう……」と気絶。
今日まで割と名を馳せていた『獄炎』コンビのセラディスとザレがあっけなく撃沈されてしまった。
「ざまぁ」
アッセーは剣を鞘に納めて一言。
彼らは負けたので、約束通り重い罪を問われる事になったのだ。




