11話「やっぱ追放されちゃった!」
なぜか二階層の最終フロアにボスがいない。さっきのドラゴンがそうかな?
そしてセラディスとザレがボソボソ打ち合わせしてる。
「予定は狂ったが、やっぱりナッセは次の階層で始末をつける」
「ええ。ダンジョン脱出用アイテムと、削岩用爆弾はあるわ。ユミを気に入ってるみたいだから庇ってくれるかも」
「分かった。しくじるなよ……?」
「そこ心配だけど、そっちちゃんと誘導してよね」
丸聞こえだけどなぁ。妖精王って地獄耳だし。
テレンスは呆然したままだし回復役ってだけで入れられたくさい。
神妙な様子でセラディスが愛想笑いして手を振ってくる。
「おい、助けてくれたそうだな。感謝するぞ」
「……どうも」
「ユミをちゃんと守ってやってくれ。後方は任せたぞ」
なんかジワる。
急に優しくなったセラディスは違和感しかない。
「ああ。なんか馴染んできたみてぇだ。じゃあ任せてくれ」
「よろしく頼む」
なんか悪辣にニヤッとしてきたけど、それ顔に出さねぇ方がいいかな。
しばらく三階層を探索したが、モンスターが全然出てこねぇ。セラディス先頭なのに。
なんかアンバランスじゃねぇ? ゲームだったら糞ゲー間違いなし?
三階層の最終フロアにもボスいない。
「おい! モンスターが出てこないと作戦が進まんぞ!」
「私に言うな! あのブルードラゴンが最後だったんじゃないの!?」
「チッ」
ボソボソ言ってるけど丸聞こえ。
「進むんか?」
「……ああ。このダンジョンおかしいし、最後まで探索しておこう。油断するなよ」
「ええ。モンスターが出てこないなら好都合ね。もし財宝出たらナッセにも分けるわ」
「それならいいんですが……」
偽っている二人はともかく、テレンスは本当に安心している態度だ。
四階層に降りてもモンスター遭遇なし。
先頭を歩いているセラディスとザレの言い争いが加熱してんなぁ。互いの貶めと愚痴、聞くに堪えねぇな。そういうのプライバシーでやってくんないかな。
するとセラディスがビシッとアッセーの後ろへ指差す。
「ああ!! やべードラゴンが出たー!! 気をつけろー!」
「なにーっ!!」
オレも大げさに驚いて後ろへ振り向いてあげる。
視界に入らなくても察知でザレが削岩用の爆弾を投げてくるのが感知できる。咄嗟にユミを覆いかぶさて庇う。
連鎖する爆破が床を砕き、こちらの足場が崩れ落ちていく。
「はははははっ!! てめぇはもう終わりだ!!」
「おほほほっ!! あんたら追放よっ!」
「ああ……」
嘲るセラディスとザレ。罪悪感で腰を抜かすテレンス。それが遠のいていく。
たぶん最下層まで落ちたと思う。五階層ってたのに、三十階層はあるぞ。
隠し通路か、今のように壊して通るかで、更に先へ進める仕様なのか?
「だ、大丈夫ですか……?」
「あれくれぇ、なんでもねぇ」
ユミはかばって着地したから無傷で済んだ。とはいえ、あからさまに追放してきたなー。
ラノベみたいに無能は要らないからダンジョンで囮にして追放。今回はちょい違うか。
「ユミ、先へ進もう」
「うん……」
荷物を片手でポンポン手玉しながら探索を続ける。
その頃のセラディスは溜飲が下がったのかスッキリしていた。
「ってか荷物……」
「あ? いらねーよ。金はこっちで管理してるし、ミノタウロスとドラゴンの魔石もあるしな」
「さっすがぁ! 帰ろよー」
ダンジョン脱出用のアイテムは魔法陣が書かれた丸い石版。かざすと魔法陣が床に照らし出されて、移転。出入り口に出たぞ。
「いつものの事だけど、ナッセとかいうのおかしな人だったねー。仲間にしたらいいのに」
「ふざけるな! 調子に乗られてでもしてみろ、大きな顔してくるぞ! こっちが乗っ取られかねん!」
「それはそうね。いい子ちゃんみたいで気に入らないし」
「しかし、今回のドラゴンでAランク昇進だ!」
「わー!」
俯くテレンスを尻目に、セラディスとザレは有頂天でヤンバイ王国へ向かっていった……。
最下層のボス部屋には相変わらずボスが不在。
宝箱には聖剣やら高価な防具やら、金貨ざっくざっく。なんか書き置きがある。
「なんか書いてありますね」
「えー、この財宝を差し出しますから我々魔族とは敵対しないでね。お願いします??」
「すごい……。魔族さえも降参してしまった……」
「だからかー」
道理でドラゴンとか出てきたり、急に出てこなくなったりとおかしかったわけだ。
ヤバいやつがきたから全戦力投入したけど全然ダメだったので、降参しまーすって感じか……。
財宝を全部総いただく事に決めた。
聖剣までゲットできてるし、なんか得した気分でうきうき。
「ナッセさん……」
なんか赤面でもじもじしてる。好意の念が見て取れる。
「さー、帰るか」
「はいっ」
ユミと荷物と財宝を念力込みで抱えて、妖精王にボウッと変身して飛び上がった。
天井もガンガンぶち抜いて地上まで突き抜けたぞ。空へ飛び出すと、そのまま猛スピードで王国へ直行。
ヤンバイ王国のギルドで、冒険者たちがざわざわどよめいていた。
なんと『獄炎』パーティーがドラゴンとミノタウロスの魔石を受付嬢に提出していたからだ。
「それはすごい快挙ですね」
「……だが、残念ながらナッセとユミが犠牲になっちまった」
「ええ。助けてくれたわ。だけど胸が張り裂けそうよ……。うっうっ……」
白々しい悲しみで暮れるセラディスとザレ。俯いたまま何も発さないテレンス。
受付嬢は呆れている。
「え? なになに? オレがどうしたって?」
何気なく受付嬢の後ろからアッセーとユミが現れる。そして最後にギルドマスター。
絶句するセラディスとザレ。
憤っているギルドマスターが「どういう事かな?」と凄む。
あとがき
魔族「あいつ……脱出用アイテムないからと、ダンジョンぶち壊して出て行きやがった……!」




