10話「このダンジョン、なんかおかしい!」
先頭を歩くセラディスはますます不機嫌そうだった。
ザレもテレンスも不審そうに、こちらをチラチラ見ている。
「あ、ありがとうございます。でもいいんですか……?」
「なーに軽い軽い」
アッセーは片手でユミの荷物をポンポン手玉してる。
転生前の世界基準だと冷蔵庫くらいの大きさと重量らしいけどな。こっちの感覚としてはテニスボールくらいかな?
これをユミが重そうに持ってたから手伝ったんだが……。
「軽々と持ってんじゃねぇよ!」
しびれを切らしたのかセラディスが怒鳴り散らす。
「実際軽いぞー。持ってみるか?」
「チッ! もういい……」
驚く程の怪力を目の当たりにしているからか、これ以上は何も言えないようだ。
ザレが「どうりで、あのボスを斬り落とせるわけじゃん」とボソ呟き。
すると天井から緑の大きなスライムが落ちてくる。セラディスの頭上まで後一センチ。しまった反応が遅れた。
アッセーは空気弾を指で弾いてパンと跡形もなく消し飛ばした。
ふう、間に合った。
「な、何をした?」
「スライム落ちてきたんで、弾いた」
魔道士ザレはおののいた。
「ちょっと! それ地下七階層に出てくる『溶解スライム』じゃん!?」
「本当ですか? なんか破裂して分からなかったんですが、落下してきて獲物を丸のみして徐々に融解していくモンスターと言えば、それしかいませんし」
「よかったなー。セラディス助かってさ」
満面の笑顔のアッセーにセラディスはチッと顔を逸らす。
少しは感謝して欲しいなぁ。
しばし二階層の迷宮を歩いていて、陰鬱していたのかザレが口を開く。
「でもさ……ここ、おかしくない?」
「うるせぇな」
突然壁を伝ってきた影が騎士の形をとって飛び出してきた。が、アッセーの空気弾で破裂。
次々と同じのが壁や床を這って急襲してくるので、空気弾連発でパパパパンッと全滅させた。無数の魔石が転がる。
遅れて身構えたセラディスたちは何もできず唖然とする。
「影の騎士っぽいの、ざっと十六体……多いな」
セラディス、ザレ、テレンスが疑惑の目で注視してくる。
しかし、そのまま放っておけば不意打ちでセラディスは倒れてたし、下手すれば死ぬ。ザレもきっと動転して上手く魔法放てずにバッサリ。テレンスも逃げ出すが追いつかれてバッサリ。
……そんな想像が容易につく。
「ちょっと待ってよ……! さっきのって七階層の『シャドウナイト』じゃない!?」
「ふざけんな! まだ地下二階だろが!」
「いえ……、確かにそう見えました。でもなぜ、ここで?」
あれがずいぶん地下に出てくる強敵モンスターなんかな?
ダンジョンもせっかちだなぁ。セラディスたち困ってんじゃん。ちっと手加減してやれよ。
「っていうか、それをことごとく一撃で倒してません?」
テレンスの言葉で、セラディスとザレがこっちを忌々しく見る。
「シャドウナイトって初めて聞くけどさ、強いの?」
「え、ええ……。本物なら、我々は苦戦するでしょうね。耐久力が高く剣技も豊富な上に潜伏したり素早いから、前もって警戒しなければなりません……」
「ひょええ」
しかしセラディスは「似たような動きするだけの雑魚だろが」と先頭を進む。
しばし数十分歩いていると、ドスンドスン足を踏み鳴らしてきたと思ったら広いフロアでミノタウロスが三匹徘徊。
まだこっちには気づいていない。
「なっ!? なんで十階層クラスのミノタウロスがここにいんだよ!? しかも三匹だとぉ!?」
「うそっ!? このダンジョン、さすがにおかしいわよ!!」
「いつもの初心者用の低レベルダンジョンだろうがっ!!」
テレンスに「ここ、低レベルのダンジョンなん?」と聞く。
「え、ええ……。ここは五階層までの小さなダンジョンで、出るモンスターもスライムとかコウモリとかで、手強いやつでもオーガくらいです……」
「ミノタウロスとオーガどっちが強いんかな?」
「さすがにミノタウロスでしょう。なんでここに出てきたのかは分かりませんが……」
「なぜだろうなー?」
ザレと言い争っていたセラディスがこちら側へ向いてきた。
「まぁいい。あのミノタウロスやるぞ。倒せばAランクになれるかもしれん」
「基本不意打ちね」
ザレが高位呪文の詠唱を始めたぞ。
セラディスは「クソがあああッ!!」と激しく燃え上がるオーラを全身から噴き上げた。
まさに『獄炎』通りのオーラで、武力三〇〇〇に達したぞ。
「グガアアアアアッ!!」
割って入ってきた青いドラゴンがミノタウロス三匹を噛みちぎった。あっという間だ。ミノタウロスの四肢が床に転がる。
恐怖で竦み呆然とするセラディスたち。ザレの詠唱も途絶えた。
「なっ!? なんでっ!? 三十階層クラスのブルードラゴンがここにっ!?」
広場で巨体が蠢く。青いウロコが特徴でまさにドラゴンといった風貌。
ギロリとこっちを見定めてくるブルードラゴンに、セラディスとザレは口をパクパクする。
「あれ無理?」
「無理ですってばあああああ!!!」
テレンスは腰を抜かして首をブンブン振っている。
武力三〇〇〇〇以上ってトコか。確かに平均二〇〇〇そこらのセラディスたちじゃ歯が立たねぇな。
「わ、わたしが囮に……」
「でぇじょうぶだ。なんとかなる」
震えたままのユミが前へ出ようとするが、アッセーは頭を優しく撫でる。
「悪い、倒させてもらうぞ」
アッセーは居合い抜きのように横薙ぎ一閃、光の軌跡が弧を描く。
それはブルードラゴンを上下両断し、のちに爆散させた。
「な?」
アッセーは振り向いて微笑む。ユミは憧れの眼差しをしてくる。




