第3話
まず初めに手に取ったお菓子はクッキーだ。色々な柄が可愛らしい二色のクッキー。恐る恐る一口齧る。
「どーお?美味しいでしょ」
味わって咀嚼し飲み込む。
「ええ、とても美味しいですわ」
そういえば初めてかも知れない。貴族の娘や婚約者といった肩書も無しに用意された、ただの人間である私の為に用意された食べ物は。それがこんなにも美味しい。齧ったクッキーの残りも口に入れ美味しさを噛みしめる。
「本当に美味しい……」
彼女はギョッとした顔をして、それから慌てたように立ち上がって近付いて側にしゃがんだ。そして私にハンカチを差し出した。
「泣かないで。美味しいなら笑ってよお嬢さん」
「泣いてなんて……あら、」
どうして頬が濡れているのかしら。
「み、見ないでくださいまし」
早く泣き止まないとと思う程涙が溢れる。
「えっと……お嬢さんは頑張ったんだね、もう大丈夫だからねぇ」
ハンカチを握らされて立ち上がった魔女に抱き締められる。温かい。優しく背中を擦られる。こんな事は知らない。私は優しくされることなんて知らなかった。
「わ、私は、私は……」
「気にする世間体もなにもここにはないからねぇ」
抱き締められたから、それならば、私も抱きしめ返してもいいのかしら?
ゆっくりと腕を回す。温かい。目の前の彼女に顔を押し付ける。
「お嬢さんは笑ってたほうが可愛いよ」
そう囁かれ抱きつく腕に力を込めた。顔が暑い。恥ずかしい。先程までとの全く別の緊張をしている。まさか、元婚約者と一緒に居た時に感じたことなど無いこの胸の高鳴りは恋のせいだとでもいうのか。
どうしましょう、本当にどうしましょう。
私、この方を殺しに来たのに。
「好き、好きですわ」
貴方が好きなの。そう言おうとした声は少し困ったような顔を見て止まる。ああ、困らせたかった訳ではないのに。
「ありがとう、お嬢さん。あのね、」
「私とお友達になってくださる?」
強引に話を被せる。
「ああ、それは勿論。それでお嬢さんが良ければなんだけど、帰る場所が無いなら暫くうちに居るのはどうかなって」
あら、それって好きな方と一つ屋根の下で暮らす、ということかしら……?素敵な事なのでは?
「嬉しい……!」
「そう、じゃあこれからよろしく。ただし、働かざる者食うべからず。住むからにはちゃんと家事はやってもらうからね」
嬉しくて泣き笑いになってしまい、また彼女を慌てさせてしまいました。ああ、この方の側に居られるのであれば私を捨てた国なんてどうでもいいですわ。
ただ心配してくれる誰かが側に居るだけでこんなにも胸が温かくなるだなんて知らなかったんですもの。
◇◇◆◇◇
泣き疲れて寝てしまったお嬢さんをベッドに横たえる。
キッチンに戻り摘んでいたハーブの下処理をしつつ独りごちる。
「元貴族のお嬢様ねぇ……面倒だなぁ……」
討伐隊組まれるのも羽虫に集られるみたいで面倒だ。凄く面倒だ。
「でもまぁ、人間なんてすぐ死ぬし。暇潰しには丁度いいよねぇ」
一人暮らしもちょっと飽きてきたところだったし。何より、
「温かかったなぁ……」
久し振りに感じた他人の温もりがとても温かかったから。少し位、一緒に居ても良いかなって、そう思ったんだ。
◇◇◆◇◇




