第2話
背後で入口のドアが閉められる。もう逃げられない。
「お嬢さんはそこの椅子座ってて〜」
すれ違って奥の部屋に行こうとする魔女を眺める。本当に全く警戒されていない。まだ私は杖を持ったままなのに。
そっと覗き込んだ奥はキッチンみたいですわね。さっと見た所、変な食材等は置いていなさそう。
「なぁに、見に来たの?別にいいけど」
ハーブを置いてこちらを向いた彼女に身体が強張る。やはり恐らく彼女の方が圧倒的に、強い。
「お茶はハーブティーでいい?緊張してそうだし緊張解す効能あるやつ」
別に何を出されても緊張は取れない気がしますが。一先ず頷く。
パチンと指を鳴らす魔女にビクリとする……あら?
「貴方、本当に危険度Aの魔女なの?火を点けるのを見ていたけれど適正が日常魔法程度じゃない」
「本当に失礼ね!?別に生活に困らないからいいでしょ!!」
ムスッとした顔でそう返される。そこまで怯えなくても良かったのかしら。肩から力を抜く。
「待ってる間に服、綺麗にしたら?ボロボロじゃない」
「え、ああ、そうね。そこまで気が回らなかったわ」
森を単身で抜けるのに服装なんて気にしている暇は無かったから。
手早く隙を見せないようクリーン魔法を掛ける。汚れていた服と髪が綺麗になった。
「最近流行ってるのこういうの?」
「こういうの、とは」
お湯が湧くのを眺めて待っている彼女はことも無さげに言う。
「強い魔法が使える貴族の娘を婚約破棄して追放して魔女狩りに向かわせるの、流行ってる?」
思い掛けない言葉にヒュッと息を呑んだ。
「他にもそのような方が来られましたの?」
ティーポットに洗ったハーブを詰めていく魔女は、何を知っている?そしてその娘達の姿が無くこの魔女が無事ということは?杖を強く握り直す。
「皆ここに着く前に森で亡くなっていたよ。お嬢さんは本当に優秀なんだねぇ、生きてて良かった」
ふわりと微笑んでティーポットにお湯を注ぐ魔女。困った事に、嘘を吐いているようには……見えない。
「良かったら後で彼女達のお墓で祈ってあげてくれない?魔女の私が祈ってあげるのもどうかなって思ってたからさぁ」
そう少しだけ目を伏せて言う。もし、本当だとしたら何て……何て、優しいんだろうか彼女は。
彼女に騙されるのならば、それはそれで構わないのかもしれない。少なくともこうして一度は魔物の群れから匿ってくれているのだから。
少なくとも国に居る顔も思い出したくない方々の為になるよりは彼女に殺される方が良い気がしてくる。
「さ、お茶にしよう。お菓子はお好き?」
ティーポットとカップをお盆に載せて横を通り過ぎていく。
そして机にお盆を置いて虚空から杖を取り出した。油断していた。杖を魔女に向け身構える。防御魔法の練り上げが間に合うかどうか……。
「そぉれ!」
彼女が杖を振る。目を閉じて覚悟を決める。だが、覚悟していた痛みは……無い。
薄く目を開けてみると色とりどりのお菓子が机の上に現れていた。彼女はパッと杖を手元から消した。
まさか、そんなまさか、本当に?
本当に歓迎されているだけ?
「お嬢さんはどれが好き?好きなの食べていいからね」
ハーブティーをカップに注いで空いている席に置いてくれる彼女。警戒するのが馬鹿らしくなってきた。
「では、こちらをいただきますわ」
そうして私は杖を仕舞い、席につき魔女のお菓子を手にしたのだった。




