第1話
息抜きに短編書きました。悪役令嬢追放モノ書いてみたかったんですよね。
暗い暗い森の中。人間が一人で暮らせないような場所に美しい魔女は居た。
反射的に杖を向ける。その瞬間、背中を嫌な汗が流れる。殺意を向けられた訳でも無いのに下手に動くと死ぬ、そんな予感がする。
「あら、魔女狩り?森の奥でお菓子作って暮らしているだけの私を殺しにきたの?」
振り返って語り掛けてくるその少女の髪はミルクティーのよう。そして瞳はパステルカラーのキャンディみたく煌めいている。そして周囲に漂う焼き菓子の甘い香り。
間違いない。彼女が『お菓子の魔女』だ。
「ええ、貴方を殺さないと私が殺されるのです」
話しながらジリジリと距離を詰めていく。彼女に杖を抜かれたら私の生が終わる。
「何で?」
心底不思議そうにこちらを見る彼女。杖を向けられているにも関わらずこちらを警戒する事もなく平然と話し掛けてくる。そこにあるのは驕りや慢心か、それとも余裕か……いいえ、きっと驕りでも慢心でもなく脅威だとすら思われていない。私は相手にすらされていない。
首を傾ける彼女にハッとする。答えなければ。次の瞬間の命の保証などない。魔女は気まぐれなのだから。
「平民の命はとても軽いのよ。ましてや私は……いえ、とにかく私は貴方を殺さないといけないの」
正々堂々真正面から挑む……なんて馬鹿な真似でしょう。でも裏を掻こうとすれば勝率は0。汚く悪どくそして、美しい。それが魔女の魔法で戦い方だ。一つを突き詰め極めた魔法は魅了される程に、美しい。
「大変そうだねぇ人間は。まぁお菓子でも食べてからどうするか考えなよ、迷える子羊さん」
背中を向け歩き出す魔女を見送る。家のドアを開けてこちらを見る彼女。腕に抱えているものはハーブだろうか。ドアを開けたまま待っている。もしかして私が家に入るのを待っている?
「危険度Aの魔女が作ったお菓子なんて、食べるわけがないでしょう?」
警戒しながらそう返す。
「あら、失礼ね」
頬を膨らませる魔女は幼く見える。
「まぁ、そこに突っ立てて貰っても別に構わないけど」
肩を竦めてから、私の後方を指差す。
「外は危ないよ、お嬢さん?」
恐る恐る振り返ると気配なく近寄って来ていたらしい魔物達と目が合った。
「ッ……ライト!!」
反射的に杖を振る。暗い森の生物に目潰しが効く事はここに辿り着くまでに実証済みだ。
「ほら、何にせよ一旦うちにおいでよ。話くらいは聞くからさ」
ドアを開けたまま待ってくれている彼女に駆け寄る。
「そうさせていただきますわ……!」
少なくとも森の魔物の群れよりは言葉が比較的通じそうな魔女の方がマシだ。ああ、どうしてこんな事に……。




