メリーの心
某小説に投稿したいなー、と書いていたんですが、あと1分でしめきられました。あと少しで出来たのに!
残念極まりない!
しばらくやってらんなくなりました。
■―――――
東京 某所
私たちが付き合い始めて、1年が過ぎた頃。
いつもと変わらずリビングでくつろいでいた彼、皆藤 和馬さんは、唐突に言った。
「光。俺と、結婚してくれないか?」
私は、驚いて彼を見ようとしたが、彼の表情は私の居るキッチンからは死角になっていた。
でも、とても緊張しているのが、よくわかった。
笑ってしまった私を、彼は恥ずかしそうに困った笑い声をあげていた。
「わかりました・・・」
「え?」
彼には聞こえなかったのだろうか?
私は、頬が今までにないほど熱くなるのを感じながらそっと、リビングに入った。
そこには、彼が正座をして座っていた。
その反対に私も座り、真っ赤になってうつむいている彼に向かってはっきりと聞こえるように言う。
「私、天理 光は、和馬さんのプロポーズをお受けします」
そう微笑んだ私を、安心したように明るい笑顔をした彼が私を強く抱きしめた。
それから一ヵ月後。
私と彼は挙式を上げた。
今でも鮮明に覚えている。
そんな大切な記憶。
でも、目の前の現実を否定できるわけではないのに・・・。
結婚をして一年が過ぎた。
彼はいつも優しかった。
私のことをいつも気にかけて、幸せだった。
そう、幸せだったのだ。
そんな頃だった。
彼が急に不思議なことを言い始めたのは。
「どこかに出かけた時、時々連絡をくれないか?」
私は、疑問に思い尋ねたが、彼の話によると私がどうしているのか不安なのだそうだ。
「・・・わかった。気が向いたときに連絡すればいいんだね」
と、了承した。
その日から、私は出かける先々で彼に電話をした。
初めのころは、いつも出たのだがしばらくすると、私のかける電話をとらなくなっていた。
それからだった。彼がだんだんとよそよそしくなっていったのは。
「ねぇ。最近、連絡しても電話にでないよね?」
「え?そうか?」
彼は、そう尋ねるといつもこんなふうに答える。
彼はスーツから着替えながら気まずそうにしている。
昔から嘘が下手な人だがこれほどわかりやすい時は無かった。
私は、彼を後ろから抱きしめて耳元でつぶやいた。
「私に、なにか隠しているの?」
彼の体が、いっきに硬くなった。
「な、何言っているんだ。そんなわけ・・・」
「和馬さん。昔から嘘が下手だよね」
彼の鼓動がどんどん早くなっていくのが分かった。
(これ以上、言うのは、ちょっとかわいそうかな・・・)
そう思い、私は彼の体から手を離したその手を彼の頭において、ゆっくりなでると、彼は今にも泣きそうな声で、
「ごめん・・・」
「何で・・・あやまるの?」
私は、私の仕事をするためにキッチンに向かった。
「大丈夫・・・信じているからね」
「・・・ごめん」
そういった彼の表情は、私の場所からは死角になっていた。
次の日の朝
「ねえ、和馬さん。今日お仕事休みでしょ?」
「ん?ああ」
朝食を食べている彼に、出来るだけ明るく尋ねた。昨日のこともあったのでその気分を紛らわすためにも。
「だからね。今日どこかに出かけない?」
私は、ただ彼と楽しく過ごしたかった。
「わかった。何処に行くんだ?」
「えっとね・・・」
私たちは、まず買い物を楽しむことにした。
「そういえば、最近二人で出かけることなかったね」
「そうだな」
やっぱり、最近の彼はどこかよそよそしい。
私と距離をとっているというか・・・。
と、考えがよぎったが今日はそんな事を忘れて楽しむと決めたことを思い起こしその考えを追いやる。
「なにか、ほしいものある?」
「え?」
珍しく彼が、そんな事を言い始めた。
「どうしたの?珍しいね」
「いや、久々だしさ」
そういって微笑んだ彼の横顔は本当に久しぶりに見たような気がした。
「うん!」
そのあと、しばらくの間私たちは店を見てまわった。
「いらっしゃい」
私たちは、露天を開いている通りに来た。そのうちの一つに興味をもった。
「きれい・・・」
「どうですか?だんな様とおそろいの物でも」
「え・・・」
私は、その言葉を聞いて無性に恥ずかしくなった。
顔が熱くなるのを感じる。
そっと、和馬さんの様子を見た。
「どうする?」
「あ、えっと・・・」
和馬さんの表情は全く変わらなかった。どちらかと言うと少し悲しそうな・・・。
「こちらなど、どうですか?」
露天商が、手にしているのは青いガラス球のついたネックレスだった。
首にかけるところは簡単な紐になっていた。
「キレイですね」
和馬さんがそう言ってそのネックレスを手に取った。
「どうかな?光。これを買おうか」
「あ、うん・・・」
彼はすぐに二つ買って一つを私の首にかけて、微笑んだ。
「似合っているよ」
「ありがとう」
さっき感じた違和感は、気のせいだったのだろうか・・・。
「おそろいなんて、付き合っていた頃に戻ったみたいだね」
「そう・・・だね」
そういった彼の表情はとても暗かった。不自然だとは思ったが私は首にかけてもらったネックレスを見た。
ガラス玉は、光をうけて青くゆらゆらと輝いていた。
「よくお似合いですよ。お二人とも」
露天商は、気を利かせたのだろう。そんな事を言ったような気がする。
「ありがとうございます」
私は顔をあげてお礼を言った。
そんな、私の耳に彼の自分の手の中にある青い光を見ながら、
「本当に戻ればいいのに・・・」
と、つぶやくのが聞こえた。
その後、私たちは一度家に戻ることにした。
彼とまた気まずい雰囲気が流れ始めたので、私は、
「今日の晩御飯なにがいい?」
この空気を消し去りたかった。
「そうだな・・・」
彼も、だいぶ雰囲気が戻ってきた。
いつもの彼だ。
そのはずだ。
私の心にはいつのまにかぽっかりとした穴があった。
「和馬さんの好きな物でいいかな?」
「あ、うん」
私はすぐに荷物を置いて出かける準備をおえた。
「じゃあ、いってきます」
「いってらっしゃい・・・」
出かけようとしたその時、インターホンが鳴り響いた。
「はい」
私が出ると、そこには見慣れない女性が居た。
「どなたですか?」
「和馬さんは、いらっしゃいますか?」
和馬さんのお客さんらしい。
私は中に入って和馬さんに声をかけた。
出てきた和馬さんはその女性を見ると、出て行った雰囲気がまた戻ってきた。
「なんで・・・」
「お久しぶりです」
何か話があるのだろう。
私は静かに扉に手をかけて外にでる。
「じゃあ、私は行って来るから」
そういい残して、扉を閉めた。
扉はいつもより重い音をたててしまったように感じた。
私は近くのショッピングセンターについた。
(何がいいだろう。肉じゃがかな)
和馬さんは、好き嫌いはあまりない。
何でもおいしそうに食べてくれるから、私も色々と作ってきた。
「あら、こんにちは」
声をかけられて振り返ると、そこにはお隣に住んでいる五木さんが立っていた。
「こんにちは」
「晩御飯の買い物?」
五木さんは、とても親切に私たちに色々と教えてくれた。
周りの地域でも親切で有名らしく、五木さんが言うには、
「自分はお人よしだから」
といっていた。
そのために余計なことを言って人を傷つけることもあったそうだ。
「そうです。久しぶりに彼が休みなので」
私は少し羞恥心を覚えながら言った。
頭に残る出かけるときの彼の表情。
あれも、私の中の穴も全てきのせいだと言い聞かせながら。
「そうなの?いいわねぇ。旦那さんと一緒に来ればよかったのに」
「いえ、お客さんが来てましたから」
「お客さん?」
五木さんが不信そうに眉をよせた。
「お客さんって、どんな人?」
「え?」
なぜ、そこに食いつくのだろう。
私は見たとおりの特徴を話した。
すると、彼女は落胆したように大きくため息をついた。
嫌な予感がした。たずねたくはなかったが、尋ねてしまった。
「・・・どうしたんですか?」
「余計かもしれないけど。その人、前にも来てたよ」
「え・・・・」
言葉が無かった。私の心の穴が大きく開かれたように感じた。
「うそ・・・」
「ついこの間だけどね。そのまま、うちの中に上がってたみたいだけど」
信じたくなかったが、今までの雰囲気が、出来事が私の頭から離れなかった。
そんな時、思い出した。
彼がいつも連絡をしてきてくれと言っていたのを、私は急いで店の外に出ると鞄から携帯を探り出し、彼の番号を表示すると、意を決して通話ボタンを押した。
しばらくの間、流れるコール音。
(お願い。出て・・・)
私は、祈るように心の中で繰り返した。
鳴ること数回、ぶつっと音が消えた。
(よかった・・・!)
希望の光が見えたような気がした。
「和馬さ・・・」
「だれぇ?」
しかし、受話器から聞こえたのは女の声だった。
「おいっ・・・」
「もしもし?」
何か、口論をしているようだ。がちゃがちゃと何かにぶつかる音が聞こえる。
「もしもし?光?」
その後に聞こえてきたのは彼の声。
「いや・・・」
私の耳には何も聞こえていない。
彼の声も、周りの音も・・・。
「皆藤さん?」
いつの間にか、五木さんが後ろに居たような気がする。
背中を誰かに押されたような気が・・・。
強い衝撃と耳を裂くような大きな音が私の体にぶつかった。
(あれ?体が、動かない)
私の目の前には人だかりが。
(何も聞こえない)
何か、皆騒いでいる。その中に一人、うっすらと笑っているように見える人が・・・。
(うそつき)
彼女の唇がそう動いたように見えた。
「嘘だろ・・・」
目の前に居るのは、いつも見慣れた彼女の顔。
その顔は青白くとても冷たかった。
自動車に轢かれたそうで、ほぼ即死だったそうだ。
「光・・・」
彼女は、夢遊病患者のようにフラフラと自動車の前に出てきたといっていた。
「ご遺体はどうしますか?」
冷たい言葉をかけてくる医者に、苛立ちを覚えながら俺は、
「後日引取りに来ます」
とだけ答えて、その場を後にした。
不思議なことに、涙はまったくこぼれなかった。
その日の夜。
静かな部屋の中一人、静かにしていると携帯の着信音がなった。
(こんな時に、誰だ?)
そう思い発信者を見るとそれは光の携帯からだった。
俺はあわてて電話に出た。
「もしもし!」
その声に驚いたのだろうか。しばらく返事は無かったが、ぼそりとつぶやくような声が聞こえた。
「私・・・・、今スーパーの前に居るの」
彼女の声は、とても冷めていた。
いつもの連絡。
何処にいるのか気になるというのはただの口実だった。
ただ、彼女に浮気がばれないために・・・。
電話はそれで切れてしまった。
その数分後、また電話がなった。
「もしもし」
「私・・・いま、アパートの前にいるの・・・」
いくらなんでも早すぎると感じた。
最低でも20分はかかる道のりなのに。
「光。光なのか?」
「・・・・」
ブツッ
電話はまた切れてしまった。
それからすぐにまたかかってきた。
俺はだんだんと怖くなってきた。
光は死んだはずだ。
初めはとてもうれしかったが、今は・・・。
すると、また呼び出し音が鳴り響く。
「はい?」
「今、あなたの部屋のまえ」
俺はあわてて、ドアに駆け寄って覗き窓を覗くそこにはたしかに人影があった。
「だれだ!!」
いきおいよく開けたがそこには誰もいなかった。
(おかしい・・・)
そう思った直後、また電話がなった。俺は携帯に駆け寄り、電話に出る。
「もしもし・・・・」
「私・・、今」
その声はとても近くで聞こえた。
「あなたの後ろに居るの・・・」
その瞬間後ろを見るとそこには・・・。
「うわあああああ」
ピンポーン
「はい」
そこに居たのは警察の格好をした男の人だった。
警察手帳をみせ、少し早口に話す。
「先日、お隣で殺人事件が起きたのですが。何かご存知ではありませんか?」
「いえ・・・」
「それでは、お隣の夫婦関係について。お聞かせ願えますか?」
私は少し考え、ゆっくりと話した。
「仲が悪いようには見えませんでしたが・・・」
「そうですか・・・」
少し残念そうに警察は敬礼をして、きびすを返して立ち去ろうとする。
「あ、そういえば」
「どうしました?」
「旦那さんは、他の女性を家に上げていた時がありましたね」
その男は、手帳にそのことを書くと足早に立ち去る。
「また・・・、余計なことを言っちゃったかしら」
私は、こみ上げる笑みを殺しながら。玄関のドアを閉めた。