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ヒロインの、はずですが?  作者: おりのめぐむ
王立貴族学院 一年目
14/20

14

 新学期が始まった。終了と思われた礼儀作法もまだ継続中。

 目を離すとサボると見抜かれているようで強制的にセレーヌさんたちと過ごす時間が増えた。

 息抜きだったエセ貴族トリオだけのランチタイムまでもこの時期から一緒なのだ。

 それも食堂の特別室。一部の生徒しか利用できない別室での食事。メニューも特別仕立て。

 食事マナーを維持するためなのだろうけど恐れ多すぎる。だってね、オーラ組全員がいるんだもん。

 これってもう強制力が働いてるとしか思えない。王族関係者とともに食事とかありえない。


「シャルロットさんたちは今までどちらで食事してらしたの?」


 食後の優雅なティータイムに入り、セレーヌさんが突然尋ねてくる。

 カップに神経を研ぎ澄ましているのに不意打ちだ。


「……は、はい。わたしたちは中庭の方で持参したものを」


「へえ、それは興味深いな。何を持参していたのかな?」


 お、王子がわたしに話しかけやがった! 初めて口をきいたぞ。いいのか?


「み、みんなで持ち寄って。わ、わたしは主にサンドイッチなどを」


「そういえばメアリ嬢から耳にしたのだが、アンパンというものがあるらしいね」


 興味深げににっこりと微笑むキラキラ王子。これはご所望ってことなのか?


「よ、宜しければ、ご用意いたしましょうか?」


「いいのかい? よければ是非、頼むよ」


 王子の使命。断れるわけないよね。メアリってば申し訳なさそうに項垂れている。

 餡子の商品化申請を行なってるみたいだし、話の流れで知ったのかもしれないもんね。


 翌日、細心の注意を払って仕上げたミニアンパンを持参し、食後のティータイムに差し出した。

 食べやすいようにミニサイズ。王子だけ用意するわけにもいかないから皆の分もと大量に焼いたよ。

 バスケットいっぱいのアンパンの山から一つ騎士くんが口にする。


「これは変わったものだな。甘味なのか?」


 甘さに驚きながらもパクパクと食べていき、それに釣られてようやくオーラ組の手が伸びる。


「これは令嬢が好みそうなものだね。母上も気に入るかもしれない」


「殿下、こちらを王妃殿下に?」


 宰相くんが半分に割って食べたアンパンの残りを見つめながら王子に問う。


「ああ、お茶会の目玉を探していたようだからね」


 ええっ、そうなのか! ってことは……。


「ラぺーシュ嬢、こちらを持ち帰っても構わないかい?」


「は、ははぁい。宜しければどうぞ」


 王子の突然の申し出に驚きつつも何だかとんでもないことに巻き込まれそうな予感がした。



「ラペーシュ嬢、王妃殿下がご所望するようだ。まずは王城に参るよう受け賜わっている」


 目の前に宰相くんがいる。初めて喋るのに普通に話しかけてきた。

 それに王妃様のお呼び出しで城に行かないといけなくなった?

 週末は夏休みの延長でいつものように宿泊はしないけど日帰りでレッスンは続いている。

 セレーヌさんのタウンハウスに訪問してたけど今週はそうもいかなくなったみたい。

 しかも何故だか食堂ランチ組全員王城ご招待となっている。もう、笑うしかない。


「……なんだかとんでもないことになってしまった」


 馬車で王城に移動中。メアリとマリアが同乗している。緊張で顔がこわばってしょうがない。


「ごめんね、シャル。私、アンパンを初めて食べた時、すごい衝撃を覚えてつい話してしまったの。でもまさか殿下が興味を示すなんて思ってなくて」


「メアリの気持ちもわかるわ。私も初めて食べた時、驚いたもの! 今まで見たことも聞いたこともない甘味だって」


 まあ、普通そうだよね。クリームとかチョコだとか洋菓子の世界観みたいだしさ。

 たまたま小豆だったから餡子が作れるって張り切ったけどそれ以外の進展はない。

 和になる素材が他に見つけられてない。いや、夏休みにいろいろするつもりだった、はず、なんだけどね。


「でも王妃様の目に留まるなんてすごいわ! 餡子の販路があっという間に広がるかもしれないもの」


 メアリの瞳がキラキラと輝く。あの渋くて固かった豆がまさかの大変身だもんね。

 世紀の大発見だとばかりに悪用されないようしっかりと手続きもしてくれた。

 しかも利益すらほとんどわたしに入るように申請中、って良心的過ぎるでしょ!

 まあ、だからこそ爵位頂けるようなお人柄を見出されたんだろうけどね。

 そうこうするうちに王城に着いた。これまた立派な応接室へと案内される。

 王子を除くオーラ組の面々がソファに腰掛けていて居た堪れない。

 固まりながら待っていると王子自らがわたしだけを王妃様の元へと案内しだした。ひいぃ。 

 正直、緊張で何も覚えてはいない。もう存在が神々しすぎた。

 淡いオレンジ色した金髪を結い上げて王子と同じ深い緑の瞳にじっと見つめられ、何をしゃべったのやら。

 とにかくお茶会の目玉として出されることになったのは確か。

 しかも翌日に王城の厨房で試しに作ることになり、再び来城する約束を取り付けてしまったのだった。

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