それ、無理なんです
昔の作品に感想を頂けたので、勢いで投稿
ここは由緒あるバトルシップ王国の中枢、王城にある大広間。そこで行われている王太子披露パーティーにて騒ぎは起きた。
察しの良い読者諸兄には「ああ、またか」と思われるであろう何万番煎じのイベント、婚約破棄である。
「オオヨド、クルーザー公爵家のオオヨド!」
「お呼びで御座いましょうか、ヤマシロ王太子殿下」
本日のイベントの主役であり、第一王子という身分から王太子となったヤマシロ王太子が叫ぶ。それを見る諸侯の目は冷たい。
本来ならば婚約者であるオオヨド嬢はヤマシロ王太子がエスコートしている筈の人物である。しかしヤマシロ王太子の横に並ぶ筈のオオヨド嬢は少し離れた位置より父親であるナガラ・クルーザーを伴い王太子の御前に進み出た。
「オオヨド、今をもってそなたとの婚約を破棄するものとする。新たなる婚約者は、純真無垢で愛らしいデストロイヤー男爵家のユキカゼ嬢とする!」
得意げに語る王太子に対して、それを見守る諸侯は半ば混乱していた。弱小男爵家のデストロイヤー家を知らない者も多かったのに加え、その長女であるユキカゼ嬢を見た者はこれまで居なかったのだ。
「オオヨドよ、そなたの卑劣な所業は目に余る。我が寵愛を得んがため、可憐なユキカゼ嬢への嫌がらせの数々、知らぬとでも思ったか!」
腕の中に抱いた女の子を愛おしそうに見つめる王太子。それに反論すべきオオヨド嬢や諸侯は驚きと呆れのあまり声も出せなかった。
「王太子殿下、我が娘ユキカゼとの婚約とは、何かの間違いでは・・・」
「間違いでなどではない。私とユキカゼ嬢は真実の愛で結ばれている。それを妨げる事は天下の大罪と心得よ」
気力を振り絞りヤマシロ王太子に問うたのは、ユキカゼ嬢の父親であるシグレ・デストロイヤー男爵であった。王太子殿下の気の迷いであってくれとの一縷の望みを掛けた問は、狂気としか思えぬ返答により打ち砕かれた。
「殿下、婚約破棄の件は私も同意致します。お父様も異議はありませんでしょう。しかし、私はそのユキカゼ嬢とは今が初対面です。クルーザー家の名誉を貶める冤罪だけは許容致しかねます」
「白を切るというのか、恥知らずな!先日お前がユキカゼ嬢を階段から突き落とし殺害しようとしたのは明白。王太子妃殺害未遂で入牢を申し付ける。衛兵、その罪人を牢へ連れて行け!」
泣きそうな女の子を抱きしめた王太子が命令するも、近衛兵は誰一人として動かなかった。そんな近衛兵を怒鳴ろうと王太子が口を開きかけたその時、その場を圧する怒声が響いた。
「ヤマシロよ、何をしておる!近衛が慌てて駆け込むから何事かと思えば信じられぬ報告の数々。もしやと思って来てみれば!」
「父上、オオヨドはこの純粋で愛らしいユキカゼを殺害せんと階段から突き落としたのです。そんな女は将来の国母に相応しくありません。なので婚約を破棄し、このユキカゼを新たなる婚約者として発表したのです」
誇らしげに語る王太子に対し、最高権力者たるヤマト・バトルシップ国王は王太子の前まで進み出ると我が子の愚かさに落胆を隠さずに諭す。
「確かにそのユキカゼ嬢は純粋で愛らしい。それは認めよう。しかし、そなたの婚約者と認める訳にはいかぬ」
「何故なのです?実家であるデストロイヤー家が男爵家だからですか?ならばオオヨドを追放して、代わりにユキカゼを養女とすれば万事解決します」
名案だと胸を張るヤマシロ王太子。その場にいる全員は「それもそうだけど、違うだろっ!」と心のなかで突っ込みを入れていた。
「オオヨド嬢がその娘に嫌がらせをしていたり、況してや階段から突き落とすなどあり得ん。大体、その娘が階段から突き落とされたのなら何故生きているのだ?」
「父上、そんなユキカゼが死んでいた方が都合が良いような言い方は許せません。撤回してユキカゼに謝罪して下さい!それに何故、オオヨド嬢が犯行に及んでいないと言い切れるのですか!」
証拠も証言も無しにオオヨド嬢の犯行を否定するヤマト国王。その場にいる諸侯も国王陛下の意見に賛成であった。もしもユキカゼ嬢が階段から突き落とされていたならば、致命傷を負うだろうと全員が認めていたのだ。
「オオヨド嬢がその娘に危害を加えたなどと妄想を抱き、剰え婚約者にしようとは・・・ヤマシロは気が違えたようだ。今この時を以てヤマシロとオオヨド嬢との婚約は王家の疵瑕により白紙撤回とする。同時に王太子の地位と王族としての身分を剥奪。ヤマシロは生涯幽閉するものとする」
ヤマト国王のあまりにも早い決断に驚く諸侯だったが、それに異論を唱える者は本人以外は皆無であった。それ程にヤマシロの所行は常軌を逸していた。
「放せ、俺とユキカゼは真実の愛で結ばれているんだ!どうして信じてくれないんだ!」
近衛兵に拘束され、抱いていたユキカゼは父親であるシグレの手に渡った。
「信じろも何も、この子が階段から突き落とされて無事な筈がなかろうに」
呆れ果てた口調で呟くヤマト国王は、シグレ男爵の手の中で眠るユキカゼ嬢を優しい眼差しで見つめる。
「こんな可愛らしい赤子に嫌がらせなど、誰がしましょうか。ねえ、お父様」
「全くだ。しかし、ヤマシロ殿下は何故あんな事を言い出したのか・・・」
関係者が見守る中、スヤスヤと眠るユキカゼ嬢(満一歳)は国を揺るがす大事に巻き込まれた事など知らず可愛い寝顔を披露するのであった。
後日、王太子には第二王子であったヒユウガ王子が指名され、特に騒ぎもなく式典も終了した。
オオヨド嬢はエアキャリア侯爵家のリュウジョウ氏と結婚を果たし、ソウリュウ、ヒリュウと二人の子を育てた。
収監されたヤマシロは「俺はヒロインと結ばれる運命なんだ!」「幼女とのラブラブ生活を返せ!」と意味不明な叫びを連呼しており、狂人としてその生涯を終えたそうな。
・王太子は転生者です。
・乙女ゲーと違いヒロインの生年がずれましたが、ロリコンな王太子は喜んでゲームのシナリオを再現しようとしました。