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12ー1話 World・End

※主人公視点ではありません。




 外はずっと雨。

 少しずつ暖かくなったから外に出てみようかとも思うが、こうずっとずっと雨が降っていては外に出ようにもその気は失せてしまう。


 乾いた部屋には明かりが一つ。

 空腹からお腹はなっているけれど、お菓子の類は部屋に無い。家を出ていって、近くのコンビニに行ってもいいのだが、わざわざ傘をさしてまで行きたくはない。最近お腹が出てきた感じもするし、我慢すべきなのだろう。


 真っ暗は部屋に映し出される画面には、「コノエ」という可愛いアバターが映っている。友達からは不評だけど、少なくとも私にとっては可愛い。


 どこぞの忍者の様に頭巾で顔を覆い、目元だけが切り抜かれたようにさらされている。

 どういう理屈か分からないけど、頭巾から長い髪が飛びだしていて、女性キャラであることはすぐに分かる。短剣扱いの「忍刀」を背中辺りに携えており、いかにも忍者らしい様にキャラデザを頑張った。


 この装備はとあるイベントのランキング上位者にだけ配布される装備であり、この装備を身につけているだけで周りから尊敬のまなざしを向けられる、はずである。



 私、九重瑞絵(ここのえみずえ)はとある小都市に住む高校1年生。


 鼻辺りにいくつかのそばかすがあるものの、顔の造り自体はそこそこ整っている、と思う。目だって二重でぱっちりとしているし、鼻筋だって通っている。身長が低いのはコンプレックスだけど。


 指で画面をスワイプしながらランキングを眺める。


 上位に行けば行くほど特殊な装備で身を飾り、獲得ポイントの桁が1つ、2つ違う。これは、獲得ポイントが高いクエストを周回しているガチ勢のみが無しえる桁数であり、私のような生半可な覚悟ではこのランキングには食い込めない。私が本気を出したのはこの装備を得るための一度だけであり、それ以外は好きなクエストを好きなようにこなしているに過ぎなかった。


 私は上位陣を眺めていて、一つの疑問を抱く。


「……あれ、『レオ』がいない」


 私は何度も指を動かして画面の隅々まで確認する。ランキングは100位まで表示されるのだが、最後の100位まで下っても「レオ」の文字はなかった。


「常にランキング20位内に入ってたのに、どうしたのかな……」


 「レオ」は《W・E》の中では有名人だった。その所以は彼の獲得ポイントにあった。


 『百獣のレオ』。それが彼の称号だった。


 彼は、何か主要イベントが無い時は常に「110万ポイント」きっかりを取り続けているのだ。その獲得ポイントと彼の特徴でもある金髪をかけて『百獣のレオ』と呼ばれているのだ。ランキング上位を狙う時、彼を基準にしているというプレイヤーは多かった。かくいう私も、この装備を入手するときには彼を目標にプレイしていた。


 だから、彼の名前がない事に驚いていた。


 まぁ、体調崩したとかスマホの不具合とかそんなところかな。


 その時の私はそう考えてスマホの電源を切った。しかしこの後、レオがログインすることは一度もなかった。






 レオの名前がランキングから消えて、約2週間が経過した。


 ネットの掲示板でもレオの話題はちょこちょこ目にするけど、みんな意外とサバサバしていて「他のゲームに移ったのだろう」とか「辞めてしまったのだろう」と結論付けていた。基準となるプレイヤーが消えたことで、ランキング内の獲得ポイント争いは激化を極め、日夜ランキングの変動が起き始めたのはその頃だった。


 彼が居なくなっても何も変わらない。いや、変わらないはずだった。


 私はいつもの様にスマホ画面をスクロールする。どのクエストを始めようかと画面を眺めていると、特殊イベント欄の変化に気が付く。


「……そういえば、『蒼竜祭』ってこの時期じゃなかったっけ?」


 春先には《W・E》名物の「蒼竜祭」が配信される。去年は3月頭には始まって、3月末まで開催されていたはずなのに、暦を見るともう3月の中旬に差し掛かっている。私は一旦アプリを閉じて、「蒼竜祭 配信予定」と打ち込む。すると、コアプレイヤーたちによる疑問があふれていた。


 こればかりは運営側の表明が出ないと何とも言えないところではあるが、「蒼竜祭」についての運営コメントは一切無い。どうしてかな、と首を傾けつつ再度アプリを起動させる。すると、新着運営メッセージが書き込まれていた。


 指でそのメッセージをタップする。すると……。



 ◇◇◇◇◇



 いつもゲームをご利用頂き、ありがとうございます。


 この度《World・End》では、新たな特殊クエストを実装予定です。

 本クエストは完全抽選によるβ版であり、

 「システム」の「新規クエスト申し込みフォーム」より

 ゲームIDを登録することで申し込みが可能です。

 そこから運営が抽選を行い、

 βテスターとして5名に新マップによるクエストを配信いたします。


 ※注意※


 1ユーザーにつき、1アカウントまで登録可能です。

 本クエストでは装備品のみ持ち込み可であり、

 その他所持品は完全リセットされます。

 

 以下に該当する方は申し込みをお断り致します。

 ①15歳未満の方

 ②一度もランキング上位特典を受け取られていない方

 

 以上の点を踏まえ、申し込みをお願い致します。


 World・End 運営サポート



◇◇◇◇◇



 私はこのメッセージを見て一種の違和感を感じ取る。


 これまで、新クエストの配信を予告する文章が送られてくることは多々あったが、今回の新クエストはβ版だという。つまり、新クエストの配信前にテスターを募って新クエストをプレイしてもらおうと言うのだ。


 そして、それだけではなくしっかりと年齢制限までされている。私は16歳になっているので何ら問題は無いのだが。


 注意欄に書かれている「所持品の完全リセット」というのは気になるが、それよりも「新マップ」という文字に心惹かれる。正直、私にとっては今装備しているこの忍者装備だけが重要であり、他の所持品にそこまで深い思い入れはない。これが常にランキング上位をにぎわせているような人ならしり込みしてしまうだろうが、私にとっては特に痛くはないのだ。


 私はシステムを開いて、新たに設置されている「新規クエスト申し込みフォーム」をタップする。すると、「ユーザーID」と「装備欄」と書かれた項目が設置されている。


 私は自身のユーザーIDと「忍者装備」「忍刀・鬼斬」を選択する。どちらも期間限定クエストのランキング上位者特典だ。


 2つの項目を選択し終え、一番下にある「申し込む」というボタンをタップする。メッセが届いてすぐに読んでおり、迷いなくここまで来たため、申し込み順位は相当早い方なのではないだろうか。


 私がクルクルと回るローディング画面を眺めていると、1件のメッセージがスマホ画面に表示される。ゲームではない、私のスマホのメッセージ機能に送られている。



◇◇◇◇◇



 「コノエ」様



 おめでとうございます。

 新規クエスト申し込みにて、見事当選いたしました。


 メッセージ受け取り1分後に「新マップ」へお連れ致します。



◇◇◇◇◇



 運営からの意味不明なメッセージを睨みつける。ぱっと壁掛け時計を見ると、秒針が11を超える。


 5、4、3……。


 心の中でカウントダウンをする。思っていたよりも一瞬で当選が決まって、私は浮かれていた。ちょっと考えればこの異常事態に気が付けるはずなのに。


 秒針が12を指す。すると、スマホ画面からまばゆい光が溢れ出す。私はその異常な眩しさに目を閉ざす。そして、その光は私を包み込んで、この世界から「九重瑞絵」を攫ってしまった。



今回も最後まで読んでいただきありがとうございます!


新しい展開です。楽しんでいただけたら幸いです。

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