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11話 蒼竜祭 (4)




 朝を告げる鳥のさえずりに小窓から指す仄かな日の光。鼻腔をくすぐる甘い香りが心地よい。出発前に購入した新しい毛布がもたらす安心感は群を抜いており、ふさふさかつ柔らかな感触が俺を包んでいる。春一番の風が吹き、冬の寒さを北へ北へと運んでいく。暖かく柔らかい、春の感触だ。


 それにしても暖かいな。そして、俺が購入した毛布ってもっと薄くはなかったか?


 昨夜、これからの旅の経路を確認したり、食料や生活必需品が足りるのかという算段をしていたがために思っていたよりも遅く就寝したことによって、未だに覚醒しない頭でそう考える。リドの町で購入した毛布は安価なものであり、そこまで機能には注文を付けなかった。というよりも、既製品で手に入れられるものが安価なものでしかないというのが理由なのだが。


 俺は体を起こそうとする。しかし、俺の体を包んでいた、いや、俺の体を抱きしめていた()()によって、俺の行動は抑制される。俺は油を差していないブリキ人形の様にカクカクとした動きで視線を下に動かす。


 黒く綺麗な髪の毛、真っ白な肌。大きな瞳は閉じられていて、未だ半覚醒状態の寝息が俺の耳を刺激する。気持ちよく寝ている女の子は、俺の腕を抱きしめるようにぴったりと肌を密着させている。


「――って、何でここにウォルが!?」


 俺はぱっと口を塞ぐ。動揺からか大きな声を出してしまった。


 俺は勢い良く首を左右に振って部屋の状態を確認する。ダミー鞄が床に転がっており、荒い机の上には昨夜見ていた地図が乱雑に置かれている。夜中お腹が空いて食べたパンのクズもそのままだ。つまり、ここは俺の借りた部屋で間違いない。


 という事は、ウォルが俺の部屋に来たという事になる。


 ショートしそうな思考回路を何とか保ちつつも、擦り切れそうな意識を遮るようにベッドの上で対象が動くのを感じる。


「……あれ、レオ様? ん、何で僕はここにいるのニャ……」

「おぉ、ウォル。おはよう!」


 俺は普通を装って朝の挨拶をする。しかし、内心はひやひやしている。ないとは思うが、もしウォルが悲鳴を上げたら、俺は社会的に死ぬことになるからだ。


「ふぁぁ……、おはようなのニャー」


 ウォルは小さな掌をこれまた小さな唇に当てながら大きな欠伸をする。小さいのに思ったよりも大きな口を開けているもんだから、巣で餌を食べている燕を連想してしまう。


 そんな事よりも、だ。ウォルは何事もなかったようにベッドを降りて、此方を見ている。本当に、何事もなかったかのように。


 俺はそんなウォルに内心ほっと胸をなでおろしつつ、素直な疑問を彼女に投げかける。


「……何で俺の部屋に?」

「えーっと、多分夜中に温もりを求めてかニャ?」

「俺はカイロか!」


 俺が突っ込むと「カイロ?」とコテンっと首を傾ける。保護欲を掻き立てるあどけなさに、俺はもうどうでもよくなる。


「……はぁ、もういいや。とりあえず朝飯食べに行こう。ついでに食料も補充するぞ!」

「了解ニャ! そうだ、出来ればお魚も買ってほしいのニャ!」


 そう言ってウォルは笑う。


「あのアニメのヤツ、本当だったんだ」

「……ニャ?」

「ううん、何でもない。てか、一回部屋に帰って服を着替えて来い」

「了解ニャ!」


 ウォルはびしっと敬礼を決めてから、元気よく部屋を出ていく。そんな彼女の後姿を眺めつつ、俺は何度目かのため息をつくのだった。



 







 食料を補充して、馬車の点検を済ませると、俺たちはすぐに村を出た。

 急ぐ旅というわけでは無いのだが、下竜がいつ村に降りてくるかもわからないし、村人たちがいつ生贄を差し出すかも分からないのだ。出来るだけ早く着くことに越したことはない。


 昨夜決めたルートに沿ってゆっくり進めば、ミツルギ村に到着するのは昼を少し過ぎるだろう。その次のヤト村はそこから更に4,5時間進んだところにある。馬車の速度を少し上げ、休憩時間を削れば今日中にヤト村まで行けるかもしれない。


 ウォルにもその事を伝えると、満面の笑みで「レオ様にまかせるニャ!」という声が返ってきた。そのため、今日はヤト村まで進んでみようかと思っている。……まぁ、最悪の場合は馬車の中で寝ればいいしね。



 ミツルギ村についたのは丁度お昼くらい。その間、昨日の道中と同じく荷物をパンパンに詰めた荷馬車を引く集団と数組すれ違った。数は数えていないが、昨日よりも多かった気がする。


 しかし、俺たちはミツルギ村は素通りした。


 一旦は村の中に入って昼食を取ろうかとも思ったが、村の異様な空気に足を踏み入れるのを躊躇したのだ。古民家は沢山建ち並んでいたが、如何せん人気が少ない。そして、村に入ろうとする俺たちを見る目は疑い深く、とても歓迎されているようには思えなかった。


 これが、下竜の影響によるものなのか否かは分からないが、昨晩泊ったデルタの村がウェルカムムードだったため、その雰囲気の差に戸惑いを隠せなかった。




 村にはとても入れそうになかったのでそのまま素通りし、村から少し離れたところに陣を取って食事休憩を取る。昨日の食事休憩時にウォルが大量の薪を拾ってきてくれたので、2、3日は拾いに行かなくても良さそうだ。


 まずは火を起こし、ウォルに頼まれた魚に串を刺していく。思っていたよりもすんなりと刺さり、割と安定している。漫画やアニメを見ている時は「こんなに上手く刺さるのか~」なんて疑い深く見ていたが、案外刺さるものなのだなと、先人の知恵に感服した。


 4匹に串を刺し、それを火の回りに地面に突き刺しておく。あんまり火の近くに置くと焦げてしまいそうだったので、かすかに当たるか当たらないかという距離感を保つ。すると、皮の表面がこんがりと焼き目を付け始め、いい香りが立ち始める。


「さかな~、さかなぁ~、こんがりの皮~。さかな~、さかなぁ~、美味しい香りぃ~♪」


 隣で座っていたウォルが体を左右に揺らしながらそう口ずさむ。どこかで聞いたような、それでいて分からないリズムに乗って、今の魚の状態を謳っている。俺は魚に塩を振りながらウォルの歌に耳を傾ける。


「魚のうた?」

「そうニャ!」


 ウォルは笑顔でそういう。別に歌を聞かれて恥ずかしいわけでも無いようで、答えた後にまた歌の方に戻る。パチパチという火の音とウォルの歌が旋律を奏で、俺たちの食卓を彩った。



 魚の塩焼きは意外とおいしかった。グリルで焼いたものに比べるとぱさっとした印象だが、塩焼きにするなら水分が飛んだこっちの方が塩の味が利いていて美味しい。さほど大きな魚ではなかったこともあってか骨も比較的小さく、飽きの来ない触感だった。ウォルも絶賛しており、また夜も食べたいと鼻息を荒くしていた。ただ、毎日食べると流石に飽きてしまうので、たまにはな、と一言返しておいた。


 ここまで比較的順調に進んでいる。このままスルスル進めるだろうと予想していた俺だったのだが……。


「……吊り橋が落ちてる」


 眼前に広がる渓谷を繋ぐ吊り橋がこちら側から切られている。吊り橋をかけていた木の柱を見てみると、人為的に切られたのだろう、斧で切りつけたような跡が2、3残っている。


「これじゃあ、進めないよなー。《W・E》には飛行魔法もないし、風魔法を上手く使ってもあの橋を持ち上げるのは不可能そうだしなぁ……」


 俺は何とか向こう側に勧めないかと試行錯誤を繰り返す。土魔法を使えば繋げられるか、いや、距離が長すぎて難しそう。ならばいっそ自分が降りて力ずくで橋をかけに行く? いやいや、そんな度胸俺にはない。


「……うん、迂回路を探すか」


 俺はそう言って地図を開く。幸い、ここからもう少し西に行けば他にも吊り橋があるらしい。東へ進むと滝になっているようで、西に行けば行くほど山の傾斜は高くなる。二つの山の境を流れるこの川は想像以上に流れがきつく、俺やウォルだけなら渡れなくもないのだが、馬や馬車は厳しい。


「とりあえず、西に進もうかなー」


 俺は進行方向を決めて馬車に帰る。すると、ウトウトと頭を上下させているウォルの姿がある。確か、大層な名前のある現象だと思うが、しっかりとは覚えていない。中学の時の先生が熱弁していた時に良くなっていたあれだ。


 俺はウォルが起きないようにゆっくりと馬車を進ませる。比較的上り気味だから前に倒れるという事もないだろうし、大丈夫なはずだ。


 俺は眠るウォルを隣に西へ西へと手綱を握りしめるのだった。



今回も最後まで読んでいただきありがとうございます!


中々進まない(笑)

他の連載作品よりはテンポよくいけてると思いますが、如何せん作者の癖が見え隠れしてしまいますね。


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