先輩冒険者と同行者
食堂で朝食を食べ、部屋に戻ると体調の確認を行う。脇腹の痛みが大分よくなっていたので確認しておいたが、内出血もほとんどよくなっていた。この身体が特別回復力が高いのか、これがここの普通なのかいまいち判断がつかない。モイラに聞いてみようと話しかけてみるが、返事がない。寝ているのかな? まぁ、悪化しているよりはましだと考え、あくびをしながらギルドへと向かった。
「おはようございます。言いつけ通り来ましたけど、どうしたらいいですか?」
「おはようございます。お早いですね。結構冒険者の方って時間にルーズな方が多いんですけど」
「いやいや、成り立てでいきなり遅刻するのはまずいしょう」
「それもそうですね。でも、意外と多いんですよ。信用に関わるからって言っても、直してくれない人も多くて、そうゆう方は大成しないって私たち受付でも共通の認識になるぐらいなんです。あっ、無駄話をすみません。もう少ししたら昨日依頼を受注してくれたパーティーがきてくれるので、もう少々お待ちください。」
「いえいえ、参考になるので助かります。座って待ってますね」
クエストボードという、依頼が張り出される掲示板があるのだが、まだ依頼が張り出されない時間らしい。受付のミリヤさんは、美人なうえで人当たりがよく、、仕事とはいえ、この笑顔が待っていると思うと頑張れるものだろう。張り切りすぎて早く来すぎたらしい。時間という概念があいまいで、早朝とかお昼ごろとか、その辺が不便だよなぁ。
「アニムスさん。お待たせしました」
「あっはい」
ミリヤさんの声で受付に向かうと、三人の冒険者と視線が合う。この人たちが討伐する人達かな?
「お前がゴブリンの巣への案内役か?」
「運がよかったね。怪我らしい怪我もしてなかったんでしょ?」
「運も実力の内っていいますからねぇ」
「俺がレオ、剣士だ。こっちの女がパンサで斥候。こいつが弓士のビョウだ。パーティー名は折れない牙だ。案内よろしく頼むぜ」
「はい、アニムスといいます。昨日冒険者になったばかりです」
大剣を担いでいるのがレオ。革鎧の軽装を着た女性がパンサ。腰に短剣をつけている。ビョウと呼ばれた細身の男性は弓と矢筒を担いでいる。そして全員赤毛だ。そして、思わず視線が追ってしまったのは、頭の上に獣の耳と、お尻には尻尾が揺れている。獣人というやつなんだろう。
「……なんか文句あるか?」
「えっ? いや、すみません。初めてみたもので」
レオが怪訝そうな顔で睨んできたので、思わず身体がびくついてしまった。怖いなぁ。気分を害してしまったようだ。
「こらこら、レオっち、新人をいじめないの」
「そうだよ。ごめんねぇ。僕ら獣人はあまりいい目でみられないから、過敏になってるんだ。君は、何か獣人に思うところがあるほうかい?」
「えっ? ふさふさでかわいいなぁとか、触ってみたいなとは思いますけど。そういう視線が嫌ってことですか? だったらごめんなさい……」
ある意味よこしまな感情でみられたらいやだよな。反省反省。ここは素直に白状しておいたほうが後々の関係がこじれることはないだろう。一緒に行動するんだしな。
「え? ……あ、あぁ……、そうゆうことならいいんだよ」
「……杞憂でしたね」
「ふふ、だねー」
剣吞な雰囲気だったが、それが一気になくなったのを感じる。ふぅ、やはり人間素直が一番だな。あっ、みんなしっぽと耳がぴくぴくしてて可愛い。っと、言ってる側から目が……。気を付けよう。
「ぷぷ、そんなあからさまに目を逸らさなくても大丈夫だよ。触るのはちょっとだめだけど、動いているんだから目で追っちゃうぐらいはしょうがないってー」
パンサさんがニヤニヤしながら視線を逸らしたほうへと顔をもってきた。天真爛漫って感じで可愛らしい人だなぁ。ちょっとびびったけど、悪い人たちじゃないみたいで良かった。
「それじゃ、さっそくで悪いが案内してくれ。あんまり時間をかけて被害が増えても困るしな」
「新人君は……、丸腰?」
っと、危ない。ホルダーから取り出すような仕草をしてっと。
「この短剣ぐらいですね。準備する時間もありませんでしたし……」
「まぁ、案内ぐらいですから大丈夫でしょう。上位種がいるとのことですが、これでも僕たちは☆3ランクですからね。ゴブリンなんてたくさん狩ってきましたから」
「案内さえしてくれれば逃げてくれたっていいぜ。その武器じゃ護身用にしかなんねぇだろうし」
なんと、☆2どころか☆3ランクの冒険者パーティーだった。ギルドマスターが頑張ってくれたんだろう。被害が増えたら目もあてられないし、もとよりまだまともに戦おうとも思ってはいなかった。案内という役割だけでもこなせるように頑張ろう。
「逃げ足だけは自信があるので大丈夫です!」
「あはは、それは自慢になるのかなー」
「生き残るには大切な要素ではあるでしょうね」
「ちがいねぇな」
三人に、ほほえましいものを見るような目で笑われてしまった。自信満々で逃げ足を自慢するもんでもなかったか。でも、少し打ち解けることができたら良しとしよう。
ギルドを出て、街の入り口へと向かう。いよいよ森へと向かおうとしたその時、後ろから懇願するような声で呼び止められた。
「あ、あの! 私も連れて行ってください!」
それは、どこかアクエスの面影のある、水色の髪をした少女だった。