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冒険者登録

「それで、お前はそこから命からがら逃げて来たと?」


 僕は今、冒険者ギルドの一室にいる。あのあと、すぐに冒険者ギルドへ連れてこられた。同調もとっくに切れている。カードが手に戻るのかと思ったが、腰に装備しているホルダーの中に戻っているそうだ。


『人物のカードなんて見られたら大変だろう。閉じ込めたりしていると思われてもおかしくない』


 と、モイラが言っていた。実感のこもった感じから怪しんでいると、下手糞な口笛を吹いていた。……あまりモイラの設定や能力などは信頼しすぎないほうがよさそうだ。


 最初は自らの足で、期待に胸を膨らませながら足を踏み入れたかった。現実はままならないものだ。ざわつく冒険者ギルド内で、受付には可愛い女性がいたが、今目の前にいるのはむきむきのたくましいおっさんだ。


「はい、気が付いたら洞窟の中にいて、この短剣のおかげで逃げることが出来ました」


 記憶があるといっても、いつアクエスが亡くなったかわからない。助けられたと思わず言ってしまったが、気が付いたときに無我夢中で近くの死体から短剣とタグを掴んで逃げ出したことにした。その方が無理がない。


『大分無理があると思うがな』

『うるさい! ろくな説明もなく放り出すからだろうが!』


 頭の中でため息をつくモイラに、脳内で悪態をつく。神様だとか言っているけど、こんな即ゲームオーバーになりかねない状況に放り出した元凶だ。とてもじゃないが敬う気にならない。


「貯蔵庫を作るような巣が近くにあるのは頂けねぇな。頭が回る奴がいる証拠だ。上位種がいるかもしれねぇ。たまたま下っ端がぼろを出したからいい物を、明らかに見つからないように立ち回ってた」


 うんうんと唸りながら結論を出すおっさん。いや、ギルドマスターらしい。名をグーラ。どうやらゴブリンは普通、手当たり次第に襲ってくるから、すぐに駆逐されるようだ。初心者用の依頼である薬草採取の穴場は、定期的に駆除されているらしく。滅多なことでゴブリンは出ない。出てもはぐれなど単体が多い。それが、死体を食糧として貯蔵していた。つまり、穴場で狩りはせず、どこかへ遠征して狩りをしていたということになる。しかも見つかりづらいように隠してまで。


「有益な情報ありがとうよ。こんな言い方もないだろうが、アクエスって冒険者も浮かばれるだろう……。アニムスって言ったか? 情報量はちゃんと払う。それと……冒険者証だったか?」

「はい、冒険者に憧れてたんです。今回のことも何かの縁かと」


 僕は、ギルドもない遠い田舎の村から、冒険者登録をするために街へ向かっていた……しかしゴブリンに襲われ……という設定だ。身分証がないため苦肉の策だ。正直お金もないし、稼ぐ手段なんて冒険者ぐらいしかないだろう。死亡した冒険者証を持ち込むことで、多少のお金が出るらしい。ゴブリンの巣発見の情報料ももらえたので渡りに船だ。一石二鳥だが、一石三鳥まで狙うつもりだ。


「ま、いいだろう。別に冒険者は誰がなってもいいんだしな。お前の言った通り、これも縁かもしれないしな」


 がしがしと頭をかきながらグーラが豪快に笑う。なんだろう、男らしさを随所から感じる。線の細い僕には無理だろうが、これぐらい逞しくなりたいものだ。


「あと、無理なら無理でいいんだが、ベテランの冒険者を派遣するから、案内も兼ねて同行して欲しいんだが……できるか? 無理にとはいわん」

「えっと、大丈夫です。死んだ人達を弔ってあげたいですし、ゴブリンがいたら安心して依頼もこなせません」

「ははは、そうか、悪いな。有望な若い冒険者を失っちまったのはこっちの落ち度だ。優秀な冒険者を派遣するから安心してくれ」


 肩をぱんぱんと叩くと、グーラは受付に登録の旨を伝えてに行ったようだ。軽くたたいたんだろうがすごく痛い。ってか改めて見ると華奢な体だなぁ。おっと、呼ばれたし行くか。サムズアップしたグーラに見送られ、受付で登録をすることになった。


「こんにちは、今回は大変でしたね。私は当ギルド受付を担当しているミリヤといいます。こちらが登録書類になります。字は書けますか? 代筆もできますが?」


 ギルドに入った際に見た美人な受付さんだった。サイドダウンにした髪が、いかにも仕事ができそうな感じだ。思わず胸に目がいきそうになるほど大きいです。だめだ、女性は男の視線に気が付いていると聞いたことがある。しかし、ここで書けないっていうのも美人を前に恥ずかしいんだけど。そもそも書けるのか?


『……問題ないよ』

『おっけ』

「書けます」

「それでは、書ける範囲でいいのでお願いします」


 モイラが若干低い声で答える。何か気に入らないことでもあったか? まぁここは信じて書いてみるか。さすがにモイラも、そんないたずらやいじわるはしないだろう。


 名前と、出身……出身? 飛ばそう。特技、ねぇな。魔法? 年齢…知らない。18ぐらいでいいか? ほとんど白紙じゃねぇか! とりあえず書いたこともない文字がなんとなく理解できるし読み書きは問題なさそうだ。


「すみません。こんなんでもいいですか?」

「うふふ、問題ないですよ。書けるほうが珍しいぐらいですし、自己申告だけでこの欄が埋まる訳じゃないですから。ほとんどの人がこうなるんです。出身っていっても名前もない村や集落も多いですしね。各冒険者ギルドで更新していくので大丈夫ですよ」


 大丈夫だったらしい。とりあえずほっとしていると、ミリヤさんが金属のタグを用紙の上に置いた。


「ちょっと血をこの冒険者証に垂らしたいので、いいですか?」

「あっ、はい。……っ」

「ふふっ」


 ナイフの先でチョンっと指先をつつかれ、痛みに顔をゆがめると、ミリヤさんが可愛らしくクスリと微笑んだ。痛みにあまり縁がない世界からきたもんで、ちょっと恥ずかしいね。すると、ぼんやりと光ったかと思うと、用紙が消え、冒険者証にはアニムスという名前とその横に☆が一つ表示された。


「はい、これで完了です。ギルドがある街などでは、入る時に提示すれば税金が免除されます。ギルドがある程度のお金を収め、困りごとなど依頼をこなすことで、治安維持などにも協力しているからです。ランクについても説明しておきますか?」

「あー、かいつまんでお願いします。ちょっと疲れが……」


 いきなり色々とあったせいか頭がぼーっとしてきた。身体中も痛い。というかゴブリンに殴られたところがズキズキしてきた。後から聞くのも面倒なので、聞くだけ聞いて必要な時にまた訪ねようと思う。簡単に説明を聞くと、疲れが顔に出てきていたのか、近くのおすすめの宿を教えてくれ、明日の朝にギルドに来るように言われる。少し重くなった瞼をこすりながら、僕はギルドを後にした。

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