表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/20

ある出来事の末路

「おい。起きろ」

「はっ!」


 真っ暗で寒かったはずが、目を瞑っていても眩しいくらいな明るさ、脳に直接響くような大声で強制的に目覚める。


「はぁっ! はっ――はっ――。僕――は……」


 身体中の痛みがない……。あれだけ努力しても吸えなかった空気が肺を満たす。その違和感に混乱を覚えるが、事態を呑み込むために周囲を見渡した。


「はぁっ? ここはどこだよ!?」


 地面がない、妙な浮遊感が間隔を狂わせる。更に周囲は真っ白で、眼を開いているのに、何もみえないという異様な状況だった。


「君は死んだよ」

「はっ? あっ……いや、そうだよな……。じゃぁここは? うおっ!」


 脳内に響く声に、自分が置かれていた状況を思い出し、死んでいてもおかしくなかったと理解すると、周囲が地獄の様相に変化した。まさに地獄といえばこうだと言った想像上の場所が広がる。


「はは、面白い男だ。普通死んだと思ったら天国とか想像するだろ」

「うーん、天国か。っと、うわぁ!?」


 脳内の声から天国を想像すると、まるで楽園のような風景が広がる。そう、まさに寸分たがわず()()()()()()()が。


「針山や溶岩よりはましか。真っ先に地獄を想像するぐらいだから、少し期待したんだがな。人間が想像する天国なんて、みな同じようなものか」

「ひどい言いようだな。想像したとおりの場所になるってことかな? おっ」

「ほぉ」


 周囲の風景が天国から、今度は体育館へと変わっていく。ふわふわとしていた感覚もなくなり、地にしっかりと足をついた感覚が戻ってくる。


「意図して変えた奴も珍しいが、何故に体育館なんだ?」

「いや、咄嗟に思いついたのが体育館だっただけ、というか、いちいちこれ風景変わっちゃうの?」

「そんなことはない。風景が――」

「あっそうか、固定するイメージを持てばいいのか、おっ、大丈夫そう」

「はは、やるじゃないか。それでこそ選んだかいがある」


 脳内に響く声は心底楽しそうだ。確かに風景がイメージ通りに動くのは新鮮だ。しかし、それだけだ。何が楽しいものか、クズみたいな男たちに、ゴミみたいに殺された。間違っているのは、あいつらだろうに。しかし、気になる発言があった。


「なぁ、選んだって?――あ」


 気が緩んだ瞬間、景色がまた一変する。あれは……、僕を殺した奴らだ。


「どれ、あとで否が応でも説明してやる。今は見てみようじゃないか。お前が大嫌いな世界とやらを」


あぁ、そうか、捕まったか。そうだろうな。人を殺したら捕まるなんて当たり前だろう。いやいや、なんで泣いてるんだ。喚き散らしているけど、泣きたいのはこっちだ。


「ここからが、人間の見苦しいところだ」

「えっ?」


 まるで早送りのように事態が急転していく。ニュースでも流れた、未成年だからと伏せられて。裁判の光景も特等席で見物した。反省してますと泣きながらあいつらが謝る。情状酌量の余地……?


「あれの……、どこがだよ」

「はは、まぁ、そんなものだろう」


 人の前では猫被っているが、個人になったら違う。悪態をつき、あれだけのことをしながら、なんで自分が、あいつが死んだせいでとほざいている。


 挙句、数年で出所した。世間もこんな事件など覚えてはいない。悔しいが、そんなものだと諦めもつく、自分が死んでしまっている以上、もう関係がないのだ。


「どうしてこんなことを見せる? みじめだっていいたいのか?」

「なに、それだけでもないぞ」


 見慣れた風景へと周囲が変貌する。あれは――


「母さん……、父さん……、老けたなぁ……」


 多分俺が死んで、あいつらが出所してからなんだろう。大分やつれ、老け込んでみえる。うん? 誰かが来たようだ。


「あの子は……、確か俺が助けた」

「そう、あの暴漢どもから救った少女だ。足繁く通っているようだぞ」

「救った……。か、意味があったのかな」

「すくなくとも、あの時は……な」

「あの時?」


 そう、俺はあの時、あいつらにしつこく言い寄られ、連れていかれそうになっているところを路地裏で見かけた。見なかったふりをすればよかったかもしれない。だが、眼を反らそうとした時、少女と視線が一瞬あってしまった。助けて、とか、どうして、とか、そうゆう瞳なら、見て見ぬ振りをしていたかもしれない。僕はその瞳に、諦めを見てしまった。誰も助けてくれない。こんな世の中だから仕方がないのだ、と。そこからはあの通り、少女を逃がして、俺は殺された。だが、熱心に祈りを捧げる彼女を見たら少し感慨深いものがある。


「無駄ではなかった……のかな?」

「はは、それは()()()()()


 場面は少女を映しだした。帰り道のようだ。その先には、あの時の暴漢どもが隠れている。


「あ、あれは、おいっ、どうにかならないのか!」

「ならない」

「――なっ!」


 路地裏から暴漢たちが飛び出し、少女を連れ去る。用意周到に準備していたのか、ワゴンに連れ込むと運び去り、その先の光景も見せつけられたものの、とてもじゃないが目を向けることができなかった。乱暴される声が耳を塞いでいても聞こえてくる。静かになってどれぐらいたっただろうか。自然と荒くなった自分の息遣いが落ち着いたの確認し、薄っすらと目を開けた。そこにはぐったりとして息をしていない少女の瞳が、僕の方を見ているかのようだった。


「こんなの……、こんなの……」

「理不尽かね?」


 脳内に響く声は、相も変わらず愉快そうな声で、とても不快だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ