復讐鬼の意地
血走った眼をしたアヴェンジャーは、黒い靄を足に纏わせると、地面が爆ぜるほどの脚力を持ってリーアのほうへ向かった。ほとんどの力を推進力に使われ、一気に僕たちと距離が離れる。間に合わない!
「リーア! 逃げろ!」
「うぅん、逃げるのは無理! エンチャントアクアブレード!」
「無茶だ!」
「あああああああああああ!」
まるでロケットのように飛び出したアヴェンジャーに対して、リーアは杖にエンチャントをして迎え撃つつもりだ。索敵の効果で相手の位置を的確に把握できるゆえに、回避は無理と判断し、反撃にうつったようだ。祈るようにして視線だけは外さないように必死で走り寄る。悲鳴のようなリーアの雄たけびが響く中、ついに一人と一匹が肉薄した。
「ギィィィアアアアア! ……ア……ァ」
水の刃が背中から飛び出し、だらりとアヴェンジャーが絶命したのを感じる。ほとんど突撃に近かったため、突き出した杖の刃が突き刺さったのだろう。ほっと安堵するが、リーアが動かず……膝をついた。
「リーア?」
安堵して止めかけた足を必死に動かし、走り寄る。
『「リーア?」』
アクエスも心配してるだろ? 疲れたのかもしれないけど、返事してくれよ。
『「リーア!」』
僕たちの眼にはいったのは、防御を捨てて靄を集中させたアヴェンジャーの拳が、リーアの胸に届き、口から血を吐き出すリーアの姿だった。絶命したはずのアヴェンジャーは、ニヤリとした笑みを浮かべると、満足そうにその体ごと地面へと崩れ落ちる。
「ごヴぇ……な……さ……がふっ……」
「リーア! しゃべらなくていい! お前はよくやった! パ、パンサさん! あの液体ってポーションですよね? お金はいくらでも払いますから! お願いします!」
リーアの身体を抱きしめるように支え、近づいてきたパンサさんにお願いする。かなりのダメージを負ったはずのレオさんが向かってくることから、あれはポーションに違いない。どれぐらいの傷が治るかわからないが、ないよりはましだ。しかし、気まずそうな顔をした折れない牙の面々からは返事はない。
「なんでもします……何でもしますから!」
「ち、違うの!」
「レオがあの一撃でかなりの重症だったみたいでさ。もう、ないんだ……」
「……すまん」
「そんな……」
あれだけのゴブリンを殺したあとだ、その攻撃力は想像を絶していたんだろう。もしかしたらレオさんも程度は違えどリーアと近い状態だったのかもしれない。だけど……このままじゃ。空気が漏れるような呼吸が静まり返った森に響く。肋骨が折れて肺に刺さっているのかもしれない。応急処置でどうこうなるレベルでは……ない。
『本来なら……』
リーアの苦し気な呼吸が響く中、脳内にモイラの声が妙にはっきりと響く。
『この兄弟が一緒にここまで生きる運命はなかった』
何を言ってる?
『観測した未来の中で、ここまで一緒にいれただけでも奇跡だ』
モイラ? またお前は無駄じゃなかったっていいたいのか? この結末で?
『二人の魂は共鳴し、ここまで輝くことができたのだ』
彼女と同じように、死に方が違うからよかっただろうっていうのか? そんなの……そんなの……。
「僕は認めない」
僕はカードホルダーから二枚のカードを取り出す。ゲームみたい? だったらこれだってできても問題ないだろう。
『そんな機能は持たせていない』
そうか、だったら僕は、こんな結末は望んでいない。様式美ぐらいは合わせてやるけどな。取り出したカードに手をかざす。出来るはず、出来なきゃしょうがない。出来なきゃだめだ。出来るはずだ。これは……僕の能力なんだから!
「作成!」
『馬鹿な……』
モイラの声に、思わずニヤリと僕は笑う。その手に残ったのは一枚のカード。
【R】☆☆☆ハイポーション
――熟した新鮮なキアの実と、薬草を特別な調合法を用いることで、回復効果を飛躍的に高めたポーション。欠損などは治すことはできない、回復効果は高いが、日持ちがしないため取り扱いが難しい。
「解放」
すぐに実体化し、飲ませようとするが、むせてしまい飲むことができない。どちらかというと内部の傷だから、かけるのではなく飲ませたい。僕は意を決してハイポーションを口に含むと、リーアの口をふさぐようにして、流し込んだ。
「ん……んく……あぅ……ん……」
『なっ! ちょっ……あああああ!』
アクエスの絶叫に近い声が聞こえるが僕は聞こえないふりをする。これは治療行為だから勘弁して欲しい。
「ぷはっ」
リーアの呼吸が安定したのを確認すると、身体から何かが抜けていくのを感じ、僕は意識を手放した。




