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ゴブリンアヴェンジャー

 びりびりと大気を揺らすような咆哮。先ほどまでの攻防で余裕を持てた心がざわついていく。ニヤついたゴブリンアヴェンジャーが目線をレオさんに向けると、二匹の大柄なゴブリンが飛び出してくる。


「ホブゴブリンだ! 膂力はゴブリンとは比較にならない。短剣なんかでまともに受けるなよ!」

「――はい!」


 あえて声に出して、僕に対して注意を促してくれている? レオさんは見かけや態度は険悪だが、その言動や行動には思いやりを深く感じる。あの人の力になりたいな。こんなところでやらせてなるものか。アヴェンジャーから視線を切らないようにするが、動きはない。レオさんが二対一にならないように、一匹のホブゴブリンに牽制する。近づくとでかい棍棒を振り回してくるが、焦らず回避に専念する。退いたら近づき当たらずとも短剣を振り、ヘイトを切らさない。リーアがいつでも魔法を放てるようにすることで、アヴェンジャーの横やりへの警戒も多少は薄くする事が出来る。


「おぉぉらぁ!」

「はっ、やぁぁ!」

「そこです」


 もう片方では、レオさんが大剣で棍棒を押し返し、よろけたところをパンサさんが短剣で斬りつけ、鬱陶しそうに振り払ったホブゴブリンは防御が開き、ビョウさんの矢が身体に突き刺さる。痛みに動きがとまったところに、大剣が大上段から振り下ろされ両断した。これでアヴェンジャーへの警戒を折れない牙に任せることができる。完ぺきな連携だ。それに触発されるように、僕はリーアに視線を軽く向けると、意を介したようにして頷くのが確認できた。


「ふっ!」

「ギャギャ!」


 今までと同じようなやり取りが続くと思っていただろうが、僕は攻撃に対して下がらず、通り抜けるようにして背後へと回る。予想外の動きにホブゴブリンが目を見開くが、視線でそのままこちらを追うのは悪手だ。


「ウォーターバレット」


 水の弾丸がホブゴブリンの側頭部に直撃する。さすがに上位種のためか頭が弾かれるようにして揺れるだけで倒すには至らない。が、それでいい。無防備となった背中に短剣を突き立てる。バックスタブだ。しかし、ゴブリンが使っていた短剣では致命傷には至らない。振りほどこうと暴れ、短剣はホブゴブリンに刺さったまま、僕は地面にたたきつけられた。


「うわぁ!」

「伏せてろ!」


 レオさんの言葉にそのまま地面に伏せると、ごうっと風が吹き、大剣が頭上を通り過ぎていく。


「ギャヒ! ギャギャギャ!」


 視線だけどうにか向けると、鈍い音とともに大剣がホブゴブリンの身体をくの時に折れ曲げさせた。かろうじて棍棒を挟み込んで威力を殺したようだが、反撃をする前に、容赦なくビョウさんの矢とリーアの魔法が襲い掛かり、力尽きる。


「奴がくるよ!」


 ちょっと危ない場面だっただけに、ほっと気を少し緩めると、パンサさんの声に意識を引き戻される。慌てて短剣を探すが、倒れたホブゴブリンの下敷きになっており、拾った短剣は使えそうにない。仕方がなく古ぼけた短剣を構える。ないよりはましだ。


「ギヒヒヒ」

「ビョウ、パンサ、いつも通りだ」

「はいはい」

「任せて」


 ホブゴブリンを易々と葬り去った連携を、折れない牙はアヴェンジャーに対して仕掛ける。軽い足取りで近づいてきていたアヴェンジャーに、大剣が横なぎに襲い掛かる。後ろに下がって避けたところにパンサさんが追撃しようとするが、棍棒で手から短剣を弾き飛ばされ、舌打ちとともに下がったところで、ビョウさんの矢が……うっとおしそうに手で払われた。矢を手で払ったことに驚きだったが、レオさんは冷静だ。小柄な相手故に、攻撃の速度を求めたのか、コンパクトに腋をしめた状態で、渾身の突きが繰り出される。とった! そう誰もが感じてもおかしくないほどの突きだ。。


「おっらぁぁ!」

「ギヒヒヒ」


 焦りを少しも感じさせない笑いとともに、アヴェンジャーは大剣を払いのけ、横合いを殴りつけ……


「なん、だと! ぐあああああ」

「レオ!」


 大剣は半ばから刀身がぽっきりと折られた。まるで意趣返しのように放たれた棍棒の突きで、冗談かのようにレオさんが吹き飛び木にたたきつけられる。パンサさんが悲鳴のように叫び、追い打ちさせまいと短剣で斬りかかる。レオさんを吹き飛ばし、油断していたのか、短剣が首筋を捉えるが、僕たちは驚きで目を見張ることになった。


「嘘! ひっ!」

「ギヒ」

「ウォーターバレット!」

「ギャギャギャ!」


 短剣が皮膚の上で滑るようにして止まり、アヴェンジャーはにちゃりと笑いながら、パンサさんへと視線を向けた。突然飛び退いたかと思うと、水の弾丸が通り過ぎ、警戒の眼をリーアへと向ける。パンサさんはその隙に離脱し、レオさんのほうへと駆け寄った。


「リーアちゃんありがと。気を付けて、こいつの物理防御とんでもなく高いよ!」

「悔しいですが僕の矢も大して効果ありません。魔法を嫌がるところから、魔法なら効果がありそうです」

「や、やってみます」


 レオさんは起き上がらず、攻撃が効かないとう事実も即座に認め、解決策を探す。その瞳には諦めは見られず、生き残る術を模索する姿に、僕は古ぼけた短剣を持つ手に力を籠め、リーアを守るべくアヴェンジャーの前の立ちはだかった。


【UC】★★ホブゴブリン

――ゴブリンが生き残り、経験を積み進化した姿。子供ような体格だったころと比べ、背は大の大人程あり、膂力に関しては人間を軽く凌駕する。所詮ゴブリンの進化系だと侮ると、足元を掬われるだろう。

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