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リーアとゴブリン退治2

「おいっ、そろそろ案内をしてくれ」

「あっ、はい! わかりました」


 話が終わったのを見計らったようにして、レオがぎりぎり聞こえるぐらいの声で呼びかけてきた。自分自身の置かれた状況を話したことで、少し落ち着いたのか、顔を上げたリーアと顔を合わせる。


「行こう!」

「は、はいっ!」


 軽くリーアの手を引き、折れた牙の面々と合流すると、なぜか微笑ましい視線で迎えられた。僕もちょっと恥ずかしかったが、彼女を一人にしてはだめだ。そう心から思ったんだ。そして、ここはアクエスが殺されたと思われる場所、例の薬草を採取していたところだった。


「死体が消えてる」

「ここでゴブリンを倒したんですか?」

「はいっ、無我夢中でなんとか倒したあと、すぐに走って逃げたんです。生きていたとか……?」


 ビョウさんの質問に答えると、少し顔をしかめながら、レオさんが答える。


「生きてたなら、逆上して追い付かなくても追いかけてくるはずだ。死体を回収することまで考えてるとしたら厄介だな」

「とりあえず、食糧庫? だっけか、見たくはないけどとりあえずそこに行ってみようよ」


 レオさん曰く、自分が瀕死でも、ゴブリンはひたすら獲物を追いかけまわす程頭が悪いらしい。逆に怖いわ。パンサの言葉を聞き、リーアがぎゅっと杖の柄を握りしめる姿が目に入る。そこに死体があるかもしれないんだもんなぁ。僕がカード化している以上、死んでいるのは確定なんだろうけど、実際姿を見てはいない親族からしたら、どこかで生きてることを信じたいのは仕方がないことだよな。


「案内します」

「私が少し先を歩くから、方向を言ってくれればいいよ。敵が近づいたらわかるから」

「俺たちの間に挟まるようにして歩け。戦闘になったら下がるんだぞ?」


 歩き出そうとしたところをパンサさんに制され、おおまかな方向を指示しながら歩く。守り切れないとかいいながら、ちゃんとリーアのことも護衛にいれてるあたり、レオさんはいい人なんだよな。


 うーん、うろ覚えだ。必死だったからなぁ。こっそりとホルダーに手を伸ばし、アクエスのカードと同調できないか念じる……っと。できた。うっ、少し光っちゃうんだっけか。


「どうしたの?」


 僕が周囲の視線に注意を向けると、心配そうにパンサさんが声をかけてくれる。ほかの三人も特に怪訝そうな表情はなく、純粋に心配そうな視線だった。この光は特に周囲には見えないらしい。くっそ、モイラめ、あれから全然返事もしない。色々と説明が足りないんだよ。


「あー、大丈夫です。近いと思ったら緊張しちゃって」

「そうですか、大丈夫ですよ。僕たちがいますから安心してください」

「焦らなくていい、確実にいくぞ」


 ビョウさんとレオさんも優しい言葉をかけてくれる。こんな優しい人たちが、獣人ってだけで周囲から変な目でみられるのか? 今は無理だけど、彼らが困ったら絶対力になれるようになろうと固く心に誓った。


「わかりました。……あっちです」

「おっけー」


 パンサさんがにこりと笑うと、ゆっくりと先導する。程なくして、例の食糧庫に到達した。


「えっと確か……うっ」


 記憶を頼りに、岩場の生い茂った草をかき分けると、人一人がやっと通れるほどの空洞が現れた。途端に生臭い匂いが鼻をつく。


「巧妙に隠してやがる……」

「しかもこれ、匂いけしの草を被せるようにしてたんだね。ゴブリンでここまで知恵が回るのって、珍しいんじゃない?」

「ゴブリンの気配はしないですが、油断はしないほうがよさそうですね」


 折れた牙の面々が状況から脅威度を引き上げる。相談の結果、僕とパンサさんが中を確かめることになり、他三人はゴブリンが戻ってきても迎え撃てるように待機することになった。リーアが行きたがったが、レオが首を横に振り、パンサがため息交じりに僕を指名したのだ。


「じゃぁ、いってくるね。どのみちこの狭さじゃレオの剣は振れないし、ビョウの矢も無理だしね。多分貯蔵庫だから行き止まりだろうし。ただ、あんまりみたいものじゃないんだよねぇ」

「リーア、安全が確認でき次第一緒に行こう。今はまだ……ね?」

「……はい」

「ふふふ、さ、いくよ」


 パンサさんが僕の頭に手を乗せると、乱暴に撫で、ついてくるように促す。続くようにして、後ろからゆっくりと追従した。少し歩くだけで、僕が目を覚ました場所に辿り着く。パンサさんの言った通り、行き止まりのあまり広くはない空間だった。ただ、無我夢中で逃げたから目に入らなかったが、そこにはかなりの数の動物や、人間だったと思われるものの手足、骨が散乱している。そして、首の後ろに刺し傷のあるゴブリンが倒れていた。


「このゴブリン……。多分僕が倒したやつです」

「死んだら同族でも食料か、ゴブリンってのは薄情だね」


 鼻をつまみながらパンサさんが顔をしかめる。いやいやながら周囲を見渡すと、水色の髪をした若い男性と思われる欠損だらけの死体が目に入った。同調しているうえに、カードから解放した姿を見ていた僕にはわかる。


「この人が、リーアのお兄さんだと思います……」

「……そっか、確認できたし、もど――」

「――パンサ! 戻れ! 敵襲だ!」


 陰鬱だった気分が、レオさんの叫びで一気に吹き飛んだ。

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