表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

蔵品大樹のショートショートもあるオムニバス

死刑撤廃

作者: 蔵品大樹

奇妙な世界へ……

 俺は稲森寛二。俺は、死刑囚だ。

 俺は日本史上最悪の殺人事件『稲森ニ十人人質事件』の犯人だ。

 その事件は数十年前、当時の俺が金欲しさに、とある銀行に強盗しに行き、警察を呼んだり、抵抗した者を撃ち殺した。最終的に俺は捕まり、死刑となった。

 そして俺は今、東京都にある拘置所で1019番として、何年も死を待ち続けている。

 ある日の事。俺が飯を食っている時、刑務官からこう告げられた。

 「おい、1019番。移送だ」

 俺は移送された。勿論一人じゃない。二人だ。

 移送車の中で、もう一人の男と出会った。その男の顔は坊主で、顔には何個かの傷があった。そして、その口には笑みがあった。

 俺らは移送先に着いた。移送先の名は『久留椎島拘置所』。どうやら最近ここが出来たようで、俺たち二人が最初の受刑者らしい。

 中に入ると、結構綺麗で、檻の中はなんと家電製品が沢山あった。檻と檻の間の幅はだいたい120cm程度だ。

 俺たちは檻に入れられた。もう一人の男は向こうの檻にいた。そして、その男は話しかけてきた。

 「よう、どうも」

 「…………」

 最初は話しかけるのも面倒くさいと思い、ソイツには反応しなかった。しかし、その男の執念も凄まじかった。

 「おい、話だけでも聞いてくれや。おい、おい、なぁ?」

 「わかったよ…話してくれ」

 俺はついに諦めた。

 「よし!改めてどうも。俺、柿田研次。暴力団組織の津沢組の構成員だったんだ。俺はこの間、同じ暴力団組織の原岡組の組長、原岡忠行とその幹部を殺したんだよ。本当だったらムショに入って若頭になって帰ってくる予定だったんだ。でもよ、俺が幹部を何人も殺したせいで死刑になったんだ。そのお陰で、組から破門食らっちまったよ。んで、そっちは?」

 「俺は、稲森、稲森寛二」

 「お、お前、稲森か?あの、稲森ニ十人人質事件の稲森か?」

 「あぁ、そうだが」

 「あぁ…まさか本人がここに!実は俺、貴方のような悪に憧れてヤクザになったようなもんです!これからよろしく!」

 (はぁ…人生の最後に会う人がコイツか…まったく、嫌だなぁ…)

 俺はそう思いつつ、特別に用意された小型冷蔵庫に入っていたビールを飲んだ。

 次の日の朝、俺達に新聞が配られた。そこにはなんと、『死刑撤廃』の文字があった。俺は呆然としながらも、柿田は喜んでいた。

 「やった!やったやったやったやった!」

 まるで、その姿は、明日遊園地に行くことが決まった、子供のようだ。

 「稲森さん、ここを出たらよ、何がしてぇ?俺は取り敢えず、久々に外の飯にでも、食いに行くなかぁ?」

 「俺は…まだ何も…」

 「そうだなぁ…ステーキとかどうだ?」

 「おっ、いいな、それ!」

 俺はここから出たあと、何をするか考えていた。色んな事を考えながら数日間考えていた。

 しかし、数ヶ月経っても、俺達は拘置所から出ることはなかった。

 そして、しびれを切らしたのか、遂に柿田は刑務官に聞いた。

 「なぁ、刑務官のおっちゃん」

 「なんだ、0002番(柿田の囚人番号)」

 「あのぉ、あとどれぐらい経ったら、こっから出られるんだい?死刑はなくなったんだろ?俺はもう娑婆の空気を吸いたいぜ…」

 「ん?いつ私がここから出られると言った?」

 「えっ?」

 「えっ?」

 俺達は驚いた。ここから出られないのだ。俺は何かを察し、自分を落ち着かせた。しかし、柿田の方はそうでも無かった。

 「………………おい、おい、おい、出せぇ!出せぇ!出せぇ!出せぇ!出せぇ!出せぇ!出せぇ!出せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」

 柿田はもう既に発狂していた。しかし、刑務官はなんにも反応しなかった。

 「ウォォォォォォォォォォォォォ!俺を殺してくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!死刑にしてくれぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 柿田がそう言うと、刑務官は静かに拳銃を出した。

 「縺ェ縺ッ縺セ縺オ縺ェ繧?↑繧?♀繧九&縺九d縺翫〓縺ッ縺サ縺翫?√j」

 柿田は謎の言葉を唱えた後、銃口を口の中に入れ、引き金を引いた。

 その後、柿田の入っていた檻の中には、口から血を流した柿田の死体がいた。

 「うっ」

 それを見た瞬間、俺は吐いた。少し咳をしながらも、俺は怯えた。普通、こういう事では死なないと思っていたからだ。

 数ヶ月間、俺も精神を保っていたが、遂に……壊れてしまった。

 「ウワァァァァァァァァァ!ああああああああああああああああああ!グルグギグギャァァァァァ!アガアガアガアガアガアガァァァァァァァァァ……お、俺を死刑にしてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ…………」

 すると、刑務官が何か察したのか、俺に拳銃を差し出した。

 俺は何も言わずに喉元に何発も撃ち込んだ。



 檻の中には稲森の死体があった。その顔は悦んでいた。

 刑務官が稲森の死体を確認すると、もう一人の刑務官を呼んだ。

 「おーい、死体が出たぞぉ」

 「はいは~い」

 死体をブルーシートに包むと、二人は持ち上げた。

 「にしても、国の人も結構なサディストだよな」

 「ん?どういう事だよ?」

 「死刑囚に死刑撤廃です!だと騙して、軟禁状態にして、最終的にはそいつが狂って刑務官が拳銃を渡す……ほんとに怖いよな。これ、新しい死刑方法なんだぜ」

 「まぁ、こんな言葉もあるよ、『幽霊よりも人間が怖い』ってね」

 「そういう事かね」

 二人は死体を死体安置所に持っていった。

読んでいただきありがとうございました…

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言]  執行猶予死刑というのがあります。日本の制度ではありませんが一定期間模範囚なら死刑をなしにして無期懲役や長期刑にシフトするというものです。この作品はこれに近いものに感じます。  日本なら死…
2021/07/19 20:47 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ