3ページ
=3=
「今日はお願いします」
「はいよ」
朝ダンジョンに向かうために時間を伝えた時間通りの少し前に来た
真面目だな
「ぎゃーーーーー」
「うるさいな……」
すごい高音だなどこから出ている……
ここでやるべきは全力で走り逃げるのみだ
「イ、イブキさん! イブキさーーーーーーーん!!!!」
「バッカ! 叫ばないで!」
後ろから灰狼の群れが追ってくる
「た、倒してくださいよ!」
「いや無理ですよ。整理部なんで」
「大見得切ったって聞いています。それに課長さんがそれを許したって!」
「それはそれ、これはこれ」
追ってくる追ってくる……
だがまぁ確実にランク変動は起きているな……しっかりと原因追及をしないとな
「うぅぅぅぅ……」
ん?
覚悟を決めたみたいな顔だな
「逃げときましょうよ」
「逃げても終わりが見えますから! 今月の給料の十分の一! 『緑炎の刃』」
お、あれはなかなか上等なものだな
魔法研究課魔法道具研究部の作ったものの最新商品だな
給料の十分の一……職員割引でもまぁキツい値段だな
冒険者も稼ぎが良いがそれを支える職員もかなりの稼ぎを得れる
それの十分の一……いや、高ッ!
「でもそれ――」
シュッ! と高い音と共に緑色の刃が飛んで行った
けども……それ効かないだろ
「あ……」
灰狼は高い魔力抵抗力なんか持ってないが代わりに変わった特性を持っていて個体全体を包む攻撃しか効かない
緑刃は一部の攻撃……
あ~あ
「そんな……給料……」
「経費で落ちると良いな」
「グス……はい」
「でもね、足止めると追ってくるから逃げようね」
「「「「「「ぐがぁあああああ!!」」」」」」
「ぎゃああああああ!!」
「おい、叫ぶな」
また鬼ごっこ再開だな
まぁこれも大切な任務に違いはない
ダンジョンは無法と取られがちだがそうでもない部分がある
ダンジョンの階層型ではその階層で縄張りがある
ダンジョンの外とは縄張りの範囲や魔物同士の領域が違ってきますけど
「でもでも!」
「マップは頭に入ってますか?」
「え、はい」
「逃げたルートを戻る、君が先行してね。正確に頼むよ?」
「え、いや、でも先行できるだけの走力が無いです」
「『第二古書よ、我が友に走烈の一端を与え願う』」
光が二ノの体に降る
「え?」
「はいじゃ……ここ最初の地点です。よろしくね」
「うわ! あ、脚が軽い! せ、先行します」
前を走り出した
優秀なんだな。正確に道を戻っていく
にしても灰狼の体力が上がっているな
走力はそれほど上がっていない耐久値も後で量らないとだな
お、戻ってきた
範囲はこの階層の三分の二ほどを走っている
さすがに二ノも肩で息をしている
「お疲れさま」
「はい? ま、まだ逃げないと」
「ん? ああ。問題ないよ『第七古書よ、汝、我を守り給え』」
足の止まった俺達に灰狼が飛びかかって来たが本が鮮やかな紫の色の光に輝くと紫の色の火の玉になって灰狼の目の前に行き灰狼がそれに触れると一瞬で灰になった
「「きゅ、キュゥゥ……」」
群れの多くが二陣に構えておりまだ数はいるが今の光景をみて怯んだのか
ゆっくりと去って行く
「ゼェハ、ゼェハ……え?」
「終わりました」
「……え、もしかして最初から討伐できたんですか」
「ん? はい」
そう言うと口をパクパクと動かしている
「ぃしょから……」
「はい?」
「最初からやってくださいよ!!」
二ノの息が整ってから説明をした
「調査が名目なので一瞬で終わらしてはいけないんですよ、それに今みたいに逃げれば自然と魔物同士が共闘してきたり群れの縄張りに入って魔物同士で戦い出したりとかがあるんですよ。そういうこともちゃんと調べて報告。こういうとこまでできないと上に正確な判断を仰がせれないのですよ」
うんうん、と首を振りながらメモをしている
なんか恥ずかしいな
「これ……普通ですか? 調査では」
「わかりまんせんが、私に調査方法を仕込んでくれた方がこうやっていましたから」
「そうですか」
「資料の仮まとめできているか?」
「あ、はい……一度確認お願いしても良いですか?」
「ん、分かりました」
そう言われて渡された資料を見る
とはいえここまでやればそうそう変な所はな――
「ん? この二ノの緑刃の部分」
「はい? ああ、昔魔物辞典で確認したとき物理攻撃は効かないとの記述は無かったんですがあの緑刃は物理も込められているのに無傷でした、しかもあの後に飛び込んできた灰狼だったですけど最初に見た牙が生え替わっていました。推測に近い物になりますがこの後につなぐ必要があると思って物理吸収回復の恐れありと――」
「物理吸収……吸収……」
「はい、あれ? 違いますか? 灰狼の上位種に物理吸収持ちの特異体質の魔物が牙ごと生え替わり吸収の確認が発見されたって」
「二ノさん……キモいくらいに見えていますね」
「キモ……」
「それは良い才能だな。調査に向いていますよ」
そう言うと驚いた顔と嬉しそうな顔が混ざったような顔をしていた
と言っても攻撃が通っても足止めになったかどうかだが……
「特異体質の魔物の記述まだ覚えている部分ありますか?」
「いえ、これ以上に気になる点があったかどうか……」
「そうか、『第一古書よ、我に知恵を』ふむ、その上位個体でも特異個体でも無いですね」
「え? い、今なんかしたんですか?」
「……まぁそれは後話します。あの個体は新種もしくは新しい進化の可能性がある。記述に加えてもらえますか? 要確認事項です」
「はい……戻りますか?」
「いや、進もう。この変化、これ以上続くとなるかの確認も重要になる」
「分かりました」
今は二層目、ここでこの変化か
『狼の魔回廊』
基本ベースの形は円形の回廊そこから魔物達が道を無理矢理作る事で迷路のような形となってしまったダンジョン
全15階層
今回確認すべきは10階層までそこまでに大きな問題が無ければ後日しっかりと編成された部隊でランク調査確定となる
ダンジョン変化は一番下の階層からはじめることが分かっている一層目から大きな変化が起きていればかなり大規模と言えるが
2層目からこれは……
「十層まで行くのはキツくなりそうですね」
「そうなんですか? いや、そうですよね」
「アヤトさんは6階層で事故に遭ったそうなのでそこかその先くらいまで行きます」
「分かりました……でも良いんですか?」
「情報は持ち帰ってこそ、ですよ」
二日後
「着きました……6階層……」
「気を引き締めてくださいね。もう逃げれませんから」
昨日の5階層はキツいものだった
深紅狼という紅い毛を持つ狼が跋扈する階層に様変わりしていた
元々は深紅狼が5階層主として下の階層に行く為の階段の目の前に巣を作り暮らしていたのだが
来てみれば一変、元は階層主なのがいたるところにいる上に群れを作り脅威度は倍以上
群れというのはそれだけで重要視できるポイントのなだが問題はほとんどが特異個体として確認されていた性質を持っていたことだ
ここに来るまでの階層の狼にも同じようになっていたが希望的観測としてそうなっていないで欲しかったが……これだよ……
結果一日かけて5層を調査し5階層主の情報をとれるだけ取って討伐してそのままそこで休息をとった
6層は元々二頭狼という二つの首を持つ狼が回廊を歩き回る階層
これまでの事を考えるとこの魔物も変化していることが考えられる
ちなみに最悪の想定では三頭狼犬になっている可能性があると昨日二ノと同じ意見として合わせている
その場合調査も何も無く即逃げることを打ち合わせている
(いました。最悪と違い二頭狼ですね)
(見た目はそうですね……ただ……)
(はい、毛並みが……しかも大きさも)
通常の二頭狼は黒い毛並みだが目の前の狼は黒に稲妻のように黄色い毛が混ざっている
明らかに今まで確認されたのと違う。しかも大きいし
(どうしますか?)
(……進むしか無い、依頼の達成はしたいですしどこまでの強化になっているかの指標が無いと報告書が書けません)
(俺は……)
(分かっている、前に出て強化付与を行います、逃げの一手です)
(はい)
「『第二古書よ、我と友に御烈の一端を与え願う』」
私の二ノの体に淡い光が降ってきた
体の芯から温かくなってきて力が漲る
「「ぐるぅぅぅぅうううう」」
二頭狼が別々の頭で唸り声を上げる
「『第八古書よ、獄烈の矢を』」
赤黒い炎の矢が目の前に浮かぶ
「『撃ち貫け』」
目に残るのが赤黒い線のみになるほどの速さで目の前の狼を穴あきにしていく
「す、すごい……」
「……いや」
浮かんでいた矢が全て飛んで行き終わると狼から血が流れているが四足で立ったままだ
「「ぐるぅぅぅううう……」」
「自然治癒……」
「しっ、自然治癒ですか!? 狼種では三頭狼犬以上でしか確認されていないと……」
「逃げましょう」
「はい!」
再生中はその場に固定されているように止まっているおかげで逃げることができた
「自然治癒、二頭狼が持っているとかあり得ますか?」
「いや、魔物の進化は底知れないものです。あり得なくは無いかと」
「……自然治癒以外になにか感じましたか?」
「高い炎耐性ですね。もしくはそれに準ずものですね」
「炎耐性……」
「矢が刺さって内側から焼くですが……全然焼かれませんでしたね」
「確かに見た感じではそうでした」
「治り方に違和感を感じましたか?」
「治り方……?」
「どこか一部が先に治っている感じとかです」
「いや? あ、俺自然治癒する魔物を初めて見たので……」
「そう……ですか」
「あ、もしかしたらなんですけど自然治癒の最中だったんですけど黄色い毛並みが減っていました」
「え?」
「なんとなくですが……」
「……報告書をとりあえずまとめておいてください」
「はい」
二ノが報告書をまとめてから移動を再開した
「アヤトさんがいると思われる場所に行きます、もしかしなくても何ですけど悲惨な状態になっている可能性が高いです。このダンジョンはスライムがいません、掃除屋がいないとそのまま残っていることが多いので」
「え……」
「吐かないでくださいね」
見つけた
案の定だった
壁に血がべったりとついていて乾いていた
不均一に付いているため血がとび付いていると分かる
しかもこの場所は部屋に四つの道があるつまり出入りしやすくなっている部屋ということになる
アヤトさんの着ていたと思われる服に装備品、何度も魔物共に踏まれたと思われる形跡が残る肉片
見る人を選ぶ光景
多くの人がこの光景を見て目をそらす目に吐くことになるだろ
「う、おえ゛……」
せめての思いか部屋の外の道で吐いている二ノの姿がある
整理課だし、こんな依頼は何度か受けたことがある
まぁだからといって気持ちの良い光景な訳がない
「二ノ、もうこっちを見なくて良いですが前方を気をつけてください」
「あ゛い」
辛そうだな、自分が普通で無いのは分かっていますが
「『我、汝の最後の存在を見るものなり、力果てし汝の記憶 ここに記せ』『録葬』」
光の粒が目の前に落ちる事無く一度上に浮かび部屋全体に光が降った
目の前に一冊の本が現れ私の足下に落ちると同時に目の前に半透明の人型が現れた
「真実を、あなたの最後の願いをここに叶えると誓います」
『……お願いします』
そう言うとすぅっと消えて行った
足下に落ちた本を拾いパラパラと数ページを見る
「はぁ……面倒なものですね」
ここまでにしておいた方が良いですね、彼が伝えてくれた最後の伝言には従った方が自分の命を守れます
あと、下手をうって真実を闇に落とすのは良くない
「二ノ、帰ります」
「い、良いのですか? この先は?」
「無理ですね、彼が教えてくれました。この先……いや、この階層に出るかも知れません」
「何がですか?」
「三頭狼犬です。もちろん、特殊な個体でしょうね」
「はい。行きましょう、こんなとこ速く出ましょう」
「そうですね」
安全に行きよりも時間がかかり四日かけて地上に戻って来れた