会社法3
2019
出題意図
講義では、株式、新株予約権および社債の発行・管理等に関する会社法上の基本的なルール(重要判例も含む)について、内容・目的・機能を正確に理解してもらうことを第一の目標とした。試験の出題形式・内容・レベルも、以上のような目標の達成度を測ることができるよう設定したつもりである。出題は試験範囲内から万遍なく行い、「ヤマ」を当てることによって高得点を得られる可能性をできるだけ排除した。
講評
第1問は、株式譲渡自由の原則について、株主有限責任の原則との関係に触れつつ説明を求めるものである。株式譲渡自由の原則の趣旨として、投下資本の回収という点を挙げることができた答案は少なくなかったが、なぜ株式譲渡という形で投下資本の回収を図らなければならないのか(逆に言えば、なぜ出資の払戻しは認められないのか)について言及できている答案は多くはなかった。株主有限責任の原則を採用している株式会社では、会社債権者の利益保護の観点から一定の会社財産の確保が必要となり、そのため、株主には出資の払いしを求める権利が原則として与えられていないのである。
第2問の正解は4、第3問の正解は①低い方、②長い方、③高い方、④大きい方である。この第2問と第3問の正答率は高く、多くの答案で全て正解であった(逆に言えば、ここで正解できなかった答案は他の答案と大きく差がついた)。
第4問は、社債管理者制度の趣旨について問う問題である。単に会社の事務処理の便宜のためとか、社債権者保護のためとか、ほとんど単語のレベルでしか答えていない答案が散見されたが、当然のことながら不十分である。民法上の一般的な債権と異なる社債の特徴を示し、そこから趣旨を議論する必要がある。
第5問は、新株発行の場面における主要目的ルールについて説明を求めるものである。定義については、9割方の答案できちんと示すことができていたので、差がついたのは、①従来の主要目的ルールの運用について裁判例を丁寧に参照しつつ説明できたかどうか、②近年の主要目的ルールの運用の変化について裁判例を丁寧に参照しつつ論じることができたかどうかにある。逆に言えば、9割方の答案で主要目的ルールについての基本的な説明はできていたので、不公正発行該当性の判断基準になるという点やその条文の所在、差止めの場面で用いられる基準であることなどを指摘できなかった答案は、他の答案と大きく差がついた。
受講生は62名。Aは17名、Bは15名、Cは9名、Dは12名、Fは9名。
2018
【設問1】は、違法な新株発行に対して、不利益を被る株主がとりえる法的措置を問う問題である。
「問1」は、有利発行に関する問題である。まず、有利発行により、既存株主がどのような経済的不利益を被るかを答える必要がある。その上で、本件が有利発行であるかが問題となる。有利発行であるならば、株主総会の特別決議が必要であるが、本問ではそれを欠いている。この場合、「法令違反」により、新株発行の差止めが可能になる(会社法210条1号参照)。
「問2」は、既存の株主の持株比率を引き下げる目的でなされた新株発行に関する問題である。判例は、資金調達目的と支配権の維持目的を比較して、後者がより認定できる場合、「著しく不公正な発行」として、新株発行の差止めを認めている(会社法210条2号参照)(主要目的ルール)。この判例の立場によれば、本問では、資金調達目的がないとされているので、新株発行の差止めが許容されるものと考えられる。
「問3」は、定款で定められた発行可能株式総数を超える(授権枠を超える)株式発行に関する問題である。本問では、すでに新株発行が実施されている。したがって、事前の差止め請求は問題とならない。解答では、定款違反を理由に、新株発行の差止めを請求すべきというものが多かった。判例は、新株発行の無効は法的安定性を阻害するため、容易に認めない傾向にある。しかし、学説は、授権枠を超える新株発行は、新株発行の無効原因になり得るとしている。
【設問2】は、株主総会の議決権の3分の2以上を確保した親会社が、当該子会社を完全子会社化(100%子会社化)するための方法を論じるものである。これには、2つの方法が考えられる。
第一は、定款変更により、既存の株式を全部取得条項付株式にするという方法である。全部取得条項付株式に変換した後、それを会社が取得する対価として別の種類の株式を割り当てることになるが、その際、親会社には、1株以上の株式を割当て、少数株主には1株未満の端数のみを割り当てることが重要である。この端数については、金銭が交付される。これによって、親会社株主のみの株主構成とすることができる。解答では、全部取得条項付株式の利用を指摘するものの、上記の締め出しの方法に触れていないものが大半であった。
第二は、株主総会の特別決議で、株式併合を行うという方法である。ここでも少数株主が有する株式を1株に満たない株式とした上で、端数株主に金銭を交付することで、少数株主を締め出すことができる。
上記の方法のいずれかを解答すれば良いものとした(2つの方法を記載した場合、加点することとした)。なお、単元株制度を利用するという答案も少なからず見られた。もっとも、1単元の株数の上限には制限があり、これを使って、少数株主の議決権を排除することには限界がある。さらに、設問は、「完全子会社化」の方法を問うものであり、単元株制度では、単元未満株主が残存するため、完全子会社化を実現することはできない。
4回生は就活の影響か、成績はあまり良くなかった。これに対して、3回生の成績は概ね良好で(A58%、B18%、C6%、D6%、F12%)、講義内容を理解していれば、高得点を得ることができたと思われる。
2017
出題は範囲全体から行った。Iは語句の意味を問うものである。定義は全てレジュメに記載してあるので、もう一度確認してもらいたい。採点のポイントは、次の言葉が書けているかどうかである。(1)は「株主総会の決議によって」。(2)は振替口座簿を使うこと。(3)は株券の譲渡人が無権利者であったとしても、悪意重過失のない譲受人は権利取得すること。(4)は現在の株主を把握・管理するために。(5)制度全体の仕組みの概略。各10点。IIは、募集株式の発行形態を株主割当て(10点)、公募(10点)、第三者割当(10点)の3つに分類し、それぞれに「会社側」または「株主側」から見てどのような目的やメリット、デメリットがあるかを正確に書いてあるかどうかで採点した。これは比較的よく書けた答案が多かった。IIIは講義の中で取り扱った事例である。最高裁の立場を書いてあるかどうか(5点)、これに対し学説の中には譲渡人を株主として扱うことはできるがその義務まではないと説く見解(5点)。しかし譲渡人を株主として扱うかどうかの裁量権を会社代表者に与えることは濫用の危険が大きい(5点)。判例を支持すべきであろう。この立場からはYの措置は違法(2点)。論理の流れや全体の記述(3点)。
いずれの設問でも、一部分だけ書いてある答案には部分点をつけた。