会社法2
会社法2
2019
[講評]
出来があまり良くないため、得点調整をして成績評価をしている。また、3年生以上で非受験者が多いことがF率を押し上げている。正答率が80%に達した設問は1つだけ(第8問)であり、他方で、30%に達しない設問が3つあった(第3問、第17問、第20問)。第3問の記述のうち、ア)とウ)は正しく、イ)は誤り(監査等委員会設置会社において業務の執行の権限を有するのは代表取締役など)である。したがって正解は6であるが、1と解答した者が相当数おり、その者はウ)を誤りと判断したわけである。しかし、指名委員会等設置会社において、取締役の選任に関する権限を有するのは指名委員会であり、監査委員会が選定する監査委員に監査委員である取締役以外の取締役の選任について監査委員会の意見を述べる権限は与えられていない。また、第17問の記述のうち、ア)は正しく、イ)は誤り(資本金として計上しないこととした額は、資本準備金として計上しなければならない)、ウ)も誤り(資本金の額の減少については株主総会の特別決議によらなければならず、また、債権者の異議の手続を踏まなければならないが、資本金の減少額について分配可能額の規制は課されない)である。したがって正解は1であるが、6と解答した者が相当数おり、その者はウ)を正しいと判断したわけである。しかし、ウ)が誤っている理由は上に述べたとおりであり、6と解答した者は、分配可能額の規制がなぜ存在するか、また、分配可能額の規制が適用されるのはどのような場合かについて正確に理解していなかったということである。さらに、第20問の記述のうち、ウ)は正しく、ア)は誤り(分配可能額を超える剰余金の配当を受けた株主には、過失の有無に関わりなく462条1項の義務が課される。無過失を証明すれば義務を免れるのは、業務執行者と、462条1項各号に掲げる者だけである。462条2項参照)、イ)も誤り(会社債権者が直接請求できる相手方は、業務執行者ではなく、462条1項により義務を負う株主である。463条2項)である。特に第20問はかなり細かなルールの詳細に立ち入った問題であり、難しかったのであろうが、試験勉強の際には、授業で説明をしたことをきちんと振り返り、一夜漬けでない勉強をすることが望まれる。
2018
講評
第1問~第8問にかけては、会社法Ⅱの授業で説明した諸制度に関する理解を確認する問題である。正解は、第1問は2、第2問は2、第3問は4、第4問は3、第5問は1、第6問は7、第7問は5、第8問は5である。出来については、答案ごとに差が非常に大きかった(全問正解の学生が受験者283名中29名いた一方で、8問中0~2問しか正解していない学生も25名程度存在した)。いずれも授業で説明した基本的な知識を問う問題であり、日々きちんと会社法Ⅱの授業の範囲について予習・復習をすれば、試験当日は六法を手掛かりに、全問正解または8問中7問程度正解することは難しいことではないように思われる。正答率が特に低かったのが会計帳簿閲覧謄写請求について問う第4問で、アは誤りなので注意(会計帳簿の作成に当たって直接の資料となった書類をもって「これに関する資料」に該当すると解する見解に立つ場合、損益計算書を作成した後に作成される法人税の確定申告書は「これに関する資料」には含まれない)。
第9問は空欄補充問題である。正解は、ア「株式買取請求」、イ「取消」である。イについて、「無効」と記述する答案が多かったが、ここで問題となっているのは会社法831条1項3号が規定する株主総会決議の「取消」事由であり、決議内容の法令違反の場合を意味する株主総会決議の「無効」事由ではない。以上の学説の述べる理論構成については、授業(第10回)で詳しく説明したところである。
第10問は、「公正な価格」の算定をめぐる裁判例・学説の見解を問う問題である。授業で説明したインテリジェンス事件の東京高裁決定(東京高決平成22年10月19日判タ1341号186頁)を参照しつつ、企業価値毀損型の組織再編の場面における「公正な価格」の算定方法を説明すればよい。詳細については第9回目のレジュメを参照。採点に当たって重視したのは、次の①~⑤の点である。具体的には、①本件では企業価値を毀損する吸収合併が行われているので、「公正な価格」とは吸収合併がなかったとした場合の株式の価値を意味するナカリセバ価格である(シナジー適正分配価格ではない)点、②本件の株主による株式買取請求の根拠となる条文は、存続会社の株主であるので会社法797条・798条である点、③価格算定の基準日について言及する必要がある点(なお、判例によれば価格算定の基準日は株式買取請求権の行使日)、④価格算定の基準日における「公正な価格」(ナカリセバ価格)を算定する必要があるが、合併の公表「後」の存続会社の株価は(問題文で記述されているように)合併による企業価値の毀損を見越して下落しているので、合併がなかったとした場合の株式の価値を意味するナカリセバ価格の算定に当たって利用することができない点、⑤そのため合併の公表「前」の時点における存続会社の株価を用いざるを得ないが、合併の公表前の時点と価格算定の基準日との間には時間的なズレが生じてしまうため、合併の公表前の存続会社の一定期間の平均株価を基礎とした上で、その後の市場全体・業界全体の動向その他を踏まえた「補正」を加えることが望ましい点(∵公表後の時点における市場全体・業界全体の動向は、本件の吸収合併がなかったとしても生じうるから)の5つの点である。①~⑤の点をすべて適切に踏まえて記述された答案も全体の2割ほど存在するなど少なくなかったが、その一方で、単に企業価値毀損の場面だから「ナカリセバ価格」を算定するとだけ答える答案も散見された。設問では「どのようにして算定するか」を問うているのであり、それでは答えとして不十分である。なお、②設問において要求した根拠条文の引用に関して、吸収合併の存続株式会社の株主に関する会社法797条・798条を引用できていない答案が多かった。組織再編の場面で用意されている条文のどれが本問の場合に適用されるかは、組織再編が吸収型か新設型か、さらには権利行使をする者が売り手の会社の株主か買い手の会社の株主かで異なるということについて、授業で時間をとりながら実際に条文を引きつつ確認しているので、②の点はサービス問題のつもりで出題したものの、思っていたよりも誤りの答案が多く、残念な結果であった。
第1問および第2問は、本講義の基本的内容の理解を問う客観式の問題である。概ね出来は良かったが、第2問の①の正答率は悪かった。会社法828条の「株主等」には取締役を含むものであることは授業でも注意している。
第3問は、a.監査役設置会社以外のガバナンス形態、b.会社の組織再編時の株主保護およびc.会社分割時の債権者保護についての基本的な理解を問う論述式の選択問題である。ガチガチの法律論に苦手意識のある学生はaが書きやすかったのではないかと思われる(その当否を批評するものではない)。
配点の大きさに鑑みて、以下の論点についてそれなりの分量を割いて論ずる答案に高評価がつけられている。aについては制度間競争が、優れたガバナンス形態を選別するために意図的に仕組まれた競争であること、および、その競争のメインプレイヤーである指名委員会等設置会社について監査役設置会社と比較しながら論ずるとともに、もう一つの選択肢である監査等委員会設置会社が制度間競争の文脈ではどのように位置付けられるのかを論ずる必要がある。b.については、「公正な価格」にはいわゆる「ナカリセバ価格」と「シナジー分配価格」があり、それぞれがどのような概念であり、どのような場合に用いられるのかを論ずる必要がある。c.については、少なくとも平成26年改正前において会社分割時の債権者保護として手薄だと認識されていた、潜在的債権者と残存債権者について、どのような点で保護が手薄であり、それが平成26年改正においてどのように手当てされ、その手当てが十分なものと言えるかについて論ずる必要がある。
2017
出題意図
講義では、委員会型の会社組織、会社の計算、組織再編、敵対的買収と買収防衛、会社の設立などに関する会社法上の基本的なルール(重要判例も含む)について、内容・目的・機能を正確に理解してもらうことを第一の目標とした。試験の出題形式・内容・レベルも、以上のような目標の達成度を測ることができるよう設定したつもりである。出題は試験範囲内から万遍なく行い、「ヤマ」を当てることによって高得点を得られる可能性をできるだけ排除した。
講評
第1問~第7問にかけては、会社法Ⅱの授業で説明した諸制度に関する基礎知識を問う問題である。正解は、第1問は1、第2問は4、第3問は1、第4問は2、第5問は5、第6問は6、第7問は5である。出来については、答案ごとに非常に差が大きかった(全問正解の学生も20名程度おり、7問中6問正解の学生まで含めれば50人程度いた一方で、1-2問しか正解していない学生もそれなりの数存在した)。いずれも授業で説明した基本的な知識を問う問題であり、六法も持込み可であるわけなので、きちんと会社法Ⅱの授業の範囲について学習すれば、試験当日は六法を手掛かりに、全問正解または7問中6問程度正解することは難しいことではないように思われる。正答率が特に低かったのが合併・会社分割について問う第5問で、アは誤りなので注意(判例は新設分割について詐害行為取消権を行使してこれを取り消したとしても、新設分割自体の効力には影響はないとする)。
第8問および第9問は正誤を問う問題である。正解は、第8問(1)×(2)×(3)○、第9問(1)×(2)×である。○か×かの2択ということもあり比較的正答率は高かったが、敵対的買収と買収防衛について問う第8問と比べ、会社の設立について問う第9問の方が出来は悪かった。第9問(1)については、判例は定款所定の金額の範囲内でのみ成立後の会社に効果帰属するという立場を採用しており、(2)については、会社法の下では発起設立の場合には払込金の保管証明制度は採用されていないので、注意が必要である。いずれも授業で詳しく説明したところであり、授業に出席しきちんと復習した者にとっては容易な問題であったように思われるが、出来が良くなかったのは大変残念である。
第10問は、「公正な価格」の算定をめぐる判例の考え方を問う問題である。授業で説明をしたテクモ事件の最高裁決定(百選87事件)を参照しつつ、企業価値増加型の独立当事者間の組織再編の場面における「公正な価格」の算定方法に関する判例の考え方を説明すればよい。詳細については第9回目のレジュメを参照。約半数の答案で、テクモ事件決定の考え方に従って独立当事者間の組織再編とそうでない場合とを区別し、設問は独立当事者間の場面であるので原則として当事者間で合意した買収対価を尊重する旨のポイントを押さえた記述がされていた。その一方で、単に企業価値増加の場面だから「シナジー適正分配価格」を算定するとだけ答える答案も少なくなかったが、設問では「どのようにして算定するか」を問うているのであり、それでは答えとして不十分である。なお、設問において要求した根拠条文の引用に関して、吸収合併の消滅会社の株主に関する会社法785条・786条を引用できていない答案が多かった(797条・798条や806条・807条を引用する答案、さらには116条を引用する答案もあった)。組織再編の場面で用意されている条文のどれが適用されるかは、組織再編が吸収型か新設型か、さらには権利行使をする者が売り手の会社の株主か買い手の会社の株主かで異なるということについて、授業で結構な時間をとりながら実際に条文を引きつつ確認しているので(レジュメにも記述を用意)、サービス問題のつもりで出題したものの、思っていたよりもはるかに誤りの答案が多く、非常に残念な結果であった。
問題1は、株式会社の「決算」に関する問題である。決算の目的(必要性)と会社法が定める手続きが明確に述べられている必要がある。所定の用語で使用していないものがあれば減点対象とした。会計監査人の「無限定適正意見」について、会計監査人の監査報告に記載され、さらに、監査役が認めた場合に、計算書類は株主総会における報告事項となる(原則は決議事項)ことが書かれていない答案が多かった。
問題2は、略式合併と簡易合併の説明を求める問題である。それぞれについて、会社法が定める「内容」をその「趣旨」が記述されているかが採点のポイントとなる。なお、略式合併と簡易合併を取り違えて説明する答案も見られた。
問題3は、新株予約権を使った買収防衛策について、自由に記述させる問題である。買収防衛策として使用される場合、株式発行との違い、特定の者について対価として金銭を交付すること(差別的行使条件)の是非などについて、判例の見解を交えて、論述することが求められる。
今回の講義は少人数だあり、成績評価時には、4回生の欠席が多かった。受験者に限った正式分布は以下の通りである。
A(47%)、B(17%)、C(14%)、D(14%)、F(8%)