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履修E  作者: 馬の頭
3/10

会社法1

2019 川口

〔問1〕は、日本の会社の多くが6月末に株主総会を開催していることについて、その理由を法的な視点で論じさせる問題である。①株式会社は、計算書類の確定などのために、定時株主総会を開催する必要がある、②公開会社では、株式の譲渡が認められ(会社の承諾なく株式の譲渡が可能であり)、会社は、株主総会での議決権行使者を確定する必要がある、③会社は基準日現在に株主名簿に記載された株主を議決権行使者(配当の受領者)とすることが可能である、④3月決算会社は基準日を事業年度末の3月末日に設定する、⑤会社は基準日から3月以内に株主総会を開催する必要がある(さらに、計算書類の作成や監査に時間を要する)。以上のことから、6月末に株主総会の開催が集中する。これらの内容を過不足なく記載する必要がある。

 答案では、「株式譲渡自由の原則」の取扱いに苦慮しているものが多かった。使用した用語にアンダーラインを引いていない答案は、減点対象とした。本問は、講義中、繰り返し説明したものであり、講義出席者にとって、解答は容易であったと思われる。

〔問2〕は、特別利害関係者の議決権行使について、株主総会と取締役会での規律の違いを論じさせる問題である。株主総会では、特別利害関係者は議決権を行使することができるが、著しく不当な決議となった場合、決議の取消事由となる。これは、株主総会での議決権行使という重大な権利は特別利害関係者であっても妨げられることはないものの、それによって、不当な決議になった場合、他の株主の利益を保護するため、決議の取消を認めるものである(株主間の利益調整の問題)。これに対して、取締役会での議決権行使は会社の利益のために行うべきもので(取締役の利益を考慮する必要がない)、特別利害関係を有する取締役の議決権行使を許すと決議がゆがむ可能性が高く、最初から、議決への参加を認めないものとしている。

答案では、決議取消事由となることに気が付かず、単に、特別利害関係人は、株主総会での議決権行使が認められるとするものが少なからずあった。また、株主総会で決議参加が認められ、取締役会でそれが認められないのは、株主は株主総会における影響力が小さく、取締役は取締役会でそれが大きいことを理由とするものもあった。もっとも、株主の中には、大株主も存在し、この理屈は妥当しない。さらに、株主平等の原則を根拠とするものもあった。しかし、この原則は、会社は株式数に応じて株主を平等に扱わなければならないというもので、解答としては不適当である。

〔問3〕は、取締役と監査役の報酬規制について、それぞれ理由とともに述べさせる問題である。両者は、ともに株主総会での決議(もしくは定款の規定)を要する点で同じであるが、その根拠が異なる。前者は、自分の報酬を自分で決めることの弊害(いわゆる「お手盛り」問題)、後者は、監査する側(監査役)の報酬を監査される側(取締役)が決定することの弊害(監査役の独立性の問題)を根拠とする。

 解答では、「お手盛り」、「独立性」という用語は使われているものの、その内容の説明がないものがあった(本当に理解しているのか不明)。なお、総額のみの決定、退職慰労金の支払いなど、取締役の報酬規制に関する論点に言及しているものは加点対象とした。

〔問4〕は、重要な業務執行(取締役会決議が必要な事項)の決定を、代表取締役が独断で行った場合の「取引の効果」について、判例の見解を問う問題である。取引を無効とする必要性(法令違反行為に会社(株主)が拘束される不利益)と取引を有効とする必要性(取締役会決議は内部事情であり、取引の安全を確保する利益)を比較考慮する必要がある。「取引先の保護」の必要性のみを指摘するのでは不十分で、なぜ、保護が必要なのかを明確にする必要がある。判例は、民法の心裡留保に関する規定を類推適用するが、その理由も明らかにすることが求められる。なお、表見代表取締役の規定を利用して問題の解決を図ろうとするものもあった。しかし、この規定は、社長の肩書などを使用した場合の外見保護を目的とするもので、本問の解答として不適である。

今回の試験の成績分布は以下の通りである(4回生など、欠席者が多いものは除外しており、全体の統計とは異なることに留意)。

法学部3回生(A-28%、B-22%、C-18%、D-12%、F-20%)

法学部2回生(A-23%、B-18%、C-15%、D-17%、F-27%)

伊藤

2018

[講評]


出来があまり良くないため、得点調整をして成績評価をしている。また、3年生以上で非受験者が多いことがF率を押し上げている。正答率が80%に達した設問が2つあった(第1問、第5問)一方で、40%に達しない設問が3つあった(第8問、第13問、第20問)。特に第8問と第20問は正答率が10%であった。第8問の記述のうち、ア)とウ)は取消事由があるにとどまる(アは招集手続の法令違反〔会社法831条1項1号〕、ウは株主総会の決議について特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことによって著しく不当な決議がされたとき〔会社法831条1項3号〕)。結局、「株主総会決議が無効または不存在とされるもの」は、決議内容が法令に違反する(会社法830条2項)イ)だけである(イの決議内容は直接には会社法454条3項違反であるが、株主平等原則に関する会社法109条1項違反でもある)。いずれも、株主総会決議が無効になる場合、また、決議に取消事由がある場合の例として授業で掲げた事例のとおりであり、この問題の正答率が低かったことは残念である。特に、今後司法試験を受験する予定の学生等は、株主総会決議が無効・不存在になる場合と決議に取消事由がある場合については、条文の内容をきちんと頭に入れるとともに、それぞれの具体例を記憶する必要があると思ってほしい(そうでなければ問題は解けない)。また、第13問の記述のうち、ア)は正しく、イ)は誤り(各監査役の同意が必要なのは被告側への補助参加である。会社法849条3項)、ウ)も誤り(判例によれば、取締役の会社に対する取引債務についての責任も、株主代表訴訟で追及できる取締役の責任に含まれる。最判平成21年3月10日民集63巻3号361頁)である。したがって正解は1であるが、4と解答した者が相当数おり、その者はイ)を正しいと判断したわけである。上に述べたとおり、会社法のルールでは、取締役の責任を追及する訴訟に単に「参加」をするためには各監査役等の同意を要することになっているのではなく、そのような訴訟で被告の側(取締役の側)に補助参加をするためにはそのような同意を要することになっている。会社法のルールは、その内容を正確に理解するとともに、趣旨を理解する必要がある(ここで問題になっているルールは、被告側への補助参加が濫用されることを防止するためのものであり、原告側への共同訴訟参加についてはそのような濫用の懸念は〔少なくとも被告側への補助参加と同じ程度・意味では〕存在しない)。さらに、第20問の記述のうち、ア)イ)は正しく、ウ)は誤り(最高裁判所の判例によれば、株式会社の行う政治献金は、会社の目的を遂行するうえで間接的に必要な行為といえ、目的の範囲内の行為である。最大判昭和45年6月24日民集24巻6号625頁)である。したがって正解は4であるが、2と解答した者が相当数おり。その者はア)を誤りと判断したわけである。しかし、会社法のルール(会社法105条2項)は、株主に剰余金の配当を受ける権利と残余財産の分配を受ける権利の全部を与えない旨の定款の定めを無効とするだけであり、ア)に記したような、「剰余金の配当を受ける権利を与えないが残余財産の分配を受ける権利を与える」旨の定款の定めは有効である。これも、第13問と同様に、会社法のルールについて正確に理解をしておく必要があることを示している。試験勉強の際には、授業で説明をしたことをきちんと振り返り、一夜漬けでない勉強をすることが望まれる。

2017

【講評】


出来があまり良くないため、得点調整をして成績評価をしている。また、3年生以上で非受験者が多いことがF率を押し上げている。正答率が80%に達した設問が3つあった(第3問、第11問、第17問)一方で、40%に達しない設問が2つあった(第6問、第16問)。第6問の記述のうち、ア)は誤り(差止権は各監査役が行使できる。監査役の独任制)、イ)ウ)は正しい。したがって正解は5であるが、2または4と回答した者が相当数いた。特に、4と回答した者は、ア)を正しいと判断したわけであるが、これは、監査役の独任制という基本的なルールを理解できていなかったということである。また、第16問は5が正解であるが、4または6と回答した者が相当数いた。4と回答した者は、会社法の定める承認を得ずに行われた利益相反取引の効力について復習すること。また、6と回答した者は、空欄イをP会社と考えたということであるが、授業で説明したように、取締役の兼任が行われる会社間の取引が利益相反取引として承認を要するものであるかどうかは、それぞれの会社から見て判断をすればよい。そうすれば、文章に記された取引は、P会社から見れば自社の取締役が相手方Q会社を代表しているわけではないため利益相反取引(直接取引)にあたらない(P会社の側で承認は不要)が、Q会社から見れば自社の取締役Aが相手方P会社を代表しているため利益相反取引(直接取引)にあたる(Q会社の側で承認が必要)ということが分かるはずである(同様の事例については授業でも説明したが、授業で説明した事例とは、承認が必要な側の会社を違えてある)。試験勉強の際には、授業で説明をしたことをきちんと振り返り、一夜漬けでない勉強をすることが望まれる。


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