税法1
税法1
(1)本講義の目的は、①税法の基本的な枠組みとその論理を知る(基本的な知識の修得)、②税法に関する争点を具体的に検討する力を身につける、等である。
(2)問題1は、退職所得の概念とその算定の仕組みを理解するとともに、課税退職所得金額に超過累進税率をかける仕組みを理解しているかどうかを問うものである。比較的正確に理解している者が多い。誤りの例として、「13年1か月」を「13年」として計算する、1000万円にいきなり2分の1をかける、超過累進税率の仕組みを理解していない、などの例が目立った。本問には参考条文も添付し、かつ、極めて基本的な問題であることからすれば、できない問題ではない。
(3)問題2は、各税目に関する基本的な問題を説明することを求めている。見解が分かれる問題でも、法的な理由をきちんと書いていればそれなりの評価をしている。各小問のポイントは次のとおり。(1)の納税者は、非永住者である。(2)は、経営方針の決定につき支配的な影響力を持つ者は誰か、がポイントである。(3)は、必要経費から排除することが明文で定められていないことをどのように法的に評価するかである。租税法律主義の観点からは、明文がない以上は、必要経費として取り扱うのが原則である。これと異なる裁判例があるからといって、判例は、法規とは異なり、一般的拘束力を持たない。(4)は、公益法人等は、利益の獲得と分配を予定しない、というのが基本である。(6)の遺産税方式の下では、被相続人が遺産税の納税義務者であり、贈与者が贈与税の納税義務者である。(7)は、法的には、益税は存在しない。
(4)問題3は、少なくとも、権利確定主義と管理支配基準とをきちんと定義することから始める必要がある。その上で、原則は何か、例外は何か、などを論じる必要がある。権利確定主義、管理支配基準に関して、正確な定義ができていない解答例が散見される。論述する際の、論理の一貫性に欠ける例もある。特に、権利確定主義と管理支配基準との「使い分け」の具体例については、正確に論述している者は極めて少ない。
(5)出題は、所得税法を中心に、法人税、相続税、消費税の各税目に及んでいる。学ぶべき重点は変わらないが、出題の内容は毎年変えている。本年の問題はずいぶんと簡単なものにしたつもりであるが、一般に、解答の水準はそれほど高いとはいえない。
2018
(1)本講義の目的は、①税法の基本的な枠組みとその論理を知る(基本的な知識の修得)、②税法に関する争点を具体的に検討する力を身につける、等である。
(2)問題1は、ある開業医の事業所得および一時所得に関する問いである。問1は、Aの事業所得の金額についての問いである。患者の紹介先等に贈った中元等の贈答費用は必要経費か、医師会の会長への立候補費用は必要経費かが争点となる。考え方は分かれうるが、事業にとって「必要」という概念を広く理解するならば、これらは基本的に必要経費に当たると解釈することが可能である。また、ある弁護士に関する紛争を取り扱った控訴審は、基本的に弁護士会の立候補費用、懇親会費等につき、事業に関連して生じたものとして、必要経費控除を認めている。解答の中には、このような考えと違うものもあるが、それなりの理由を示していればある程度の評価を与えている。問2のホールインワン保険金の収受は、一時所得というべきである。添付の条文を正確に読んでいない例もある。また、「課税所得計算」をどうするかについては、一時所得は、総合課税をする際に、2分の1課税であることを明示していない解答例が多かった。
(3)問題2は、各税目に関する基本的な問題を説明することを求めている。見解が分かれる問題でも、法的な理由をきちんと書いていればそれなりの評価をしている。各小問のポイントは次のとおり。憲法14条の下での垂直的公平の問題である。退職所得については、分離課税、2分の1課税等が特徴である。法人税に関して、比例税率、受取配当益金不算入、配当税額控除等がその例である。外国子会社合算税制の意味である。遺産税は、理念として、被相続人および贈与者に対する課税である。消費税法上、消費者の権利義務はなく、価格交渉をするのは何ら違法ではない。
(4)問題3は、少なくとも、権利確定主義と管理支配基準とをきちんと定義することから始める必要がある。その上で、原則は何か、例外は何か、本事例にはいずれが当てはまるか、その理由は何か、などを論じる必要がある。権利確定主義、管理支配基準に関して、正確な定義ができていない解答例が散見される。論述する際の、論理の一貫性に欠ける例もある。
(5)出題は、所得税法を中心に、法人税、相続税、消費税の各税目に及んでいる。学ぶべき重点は変わらないが、出題の内容は毎年変えている。問題はずいぶんと簡単なものにしたつもりであるが、解答の水準はそれほど高いとはいえない。
2017
(1)本講義の目的は、①税法の基本的な枠組みとその論理を知る(基本的な知識の修得)、②税法に関する争点を具体的に検討する力を身につける、等である。
(2)問題1は、ある弁護士の給与所得および事業所得に関する問いである。問1は、①Aの給与所得の金額についての問いである。給与所得の収入金額である100万円から引くべき給与所得控除の金額は、40万円ではなく、65万円である。相当多くの者が、参考条文を正確に読んでいない。65万円の給与所得控除の金額を控除した結果、給与所得の金額は35万円となる。②について、この事件を取り扱った控訴審は、基本的に弁護士会の立候補費用、懇親会費等につき、事業に関連して生じたものとして、必要経費控除を認めている。解答の中には、違うものもあるが、それなりの理由を示していればある程度の評価を与えている。③の解答の中には、超過累進税率の意味を理解していないものも若干ある。この問題は、所得税の仕組みに関わる基本的な問題ではあるが、正確で十分な解答は多くはない。
(3)問題2は、各税目に関する基本的な問題を説明することを求めている。見解が分かれる問題でも、法的な理由をきちんと書いていればそれなりの評価をしている。各小問のポイントは次のとおり。Pは非永住者である。親子で農業をする場合は、誰が、事業の経営方針の決定に支配的影響力を持つか、が鍵になる。違法な経費は明文の根拠なくして必要経費性を否定することはできない。法人擬制説を示す仕組みは、法人税における比例税率、受取配当の益金不算入、所得税における配当税額控除などである。小問の5および6は省略。遺産税方式と遺産取得税方式の違いを正確に理解する必要がある。俗論はともかく、法的な見地からみて、消費税法上、益税が存在するのか、が問われている。
(4)問題3は、少なくとも、権利確定主義と管理支配基準とをきちんと定義することから始める必要がある。その上で、両者の使い分けの例を示す必要がある。権利確定主義、管理支配基準に関して、正確な定義ができていない解答が散見される。また、使い分けについては具体例を挙げなければならないが、適切な例を挙げていない解答が多い。税法の基準や概念について、できるだけ具体的な例や紛争との関係で考えることが重要である。
(5)出題は、所得税法を中心に、法人税、相続税、消費税の各税目に及んでいる。