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キング  作者: かめ屋吉兵衛
記憶
9/50

九 ルール

 五丁目のゲートが開いてから八丁目の隣人を迎えるまでは早かった。

 それは新たな隣人たちが、仕事に対して得手不得手は有るものの、皆、真面目で働き者だったからだ。

マリアは新たな隣人が有る程度慣れると、次の隣人とのゲートを開いて来たのだが、現時点で問題が有るのは二丁目の住人ぐらい、当初問題の有った三丁目の住人達は、私達のサポート役として後から合流した仲間の面倒を積極的に見てくれている。

 城での夕食時…。


「三丁目の住人が、ここまで頼れる存在になるとは思ってもみなかったな。」

「元々、トップではなくセカンドで活躍出来る資質が有ったのでしょうね。

 一人では自給自足に取り組めなく、有能なリーダーのいない状況では落ち着いて自身の力を発揮出来なかったのだと思うわ。」

「おかげで八丁目の隣人達が落ち着くのも早かったが、キング、次のゲートが開く話はまだないのか?」

「ああ、マリアは沈黙したままだ。」

「ならば余裕の有る内に、子ども達の為にもルールを明確にしておくというのはどうだ?」

「三郎、それは法律を作るということなの?」

「これから子どもは増えて行く、我々の記憶の中には社会のルールが存在しているが、子ども達には多くの事を教えて行かなくてはならない、その為にはここでのルールを見直し確認しておいた方が良いと思うんだ。」

「そうね、幸い管理者による罰が存在しているお陰で島は平和だけど、子ども達は何も知らない。

 二丁目の環境が著しく悪化したのは九兵衛と武蔵の対立による所、そんな事をどう子ども達に伝えて行くのかは難しいわ。」

「相手に怪我をさせる程の大喧嘩、罰はコロニーの連帯責任。

 俺達に直接的な影響はなかったけど、二丁目の人達はいい迷惑だっただろう。」

「この先、子ども達が悪い事をした時も同じ様に罰を受けるのかしら。」

「う~ん、罰に関係なく社会の構成員として好ましい人物に育って欲しくは有るな。」

「ルールとして、まずは殺すな、だね。」

「他人を傷つける行為はだめ…。」

「なあ、細かいルール設定より、皆が平和で心安らかに暮らして行ける為に取る行動を推奨し、反する行為を禁ずるというのはどうだ、行動規範というか、そこに照らし合わせて自分の行動を考えるという形だ。

 もちろん幼少期は判断を間違える事も有るだろうから、そこは我々が教えて行くことになるのだが。」

「成程、キングの考えは、基本的且つ包括的な法ということなのかな、そのルールなら子どもの主体性を育む事にも繋がるね。」

「大人はどうだろう、九兵衛達が大きな罰を受ける前に、こちらで何とか出来なかったのかな。」

「そこまでの管理は難しかったわ、試した所で彼らが私達に大きく反発し、その結果大きな罰を受けたと思うもの。」

「しばらくは九兵衛と武蔵の一件が戒めになるけど、時が立てば忘れてしまうのでしょうね。」

「マリアが設定した法には触れないが、我々が反社会的行為だと感じる行動に関して、最後の判断はキングにお願いするってどうかな。」

「はは、私が法律か? それこそ反感を持たれそうだが。」

「民主主義を口にする人は居るけど彼等は出稼ぎ労働者でしかない、それよりこれからここに住むであろう次世代の子ども達の事を考えたら、権威有る国家のシンボルが必要になると思うんだ。」

「そうね、二丁目にはキングに対してなめた発言をする人もいるけど、それが次世代へ伝わる事は秩序維持の為にも阻止すべきだと思うわ。」

「なあ、客観的に見て二丁目の連中は九兵衛と武蔵だけでなく、全員が大した労働力になってないよな、この島の恩恵を受けてることが理解出来ないのなら、自分達のコロニーで一日中生活していて欲しいぐらいだね、我々の楽園がより快適になるように。」


 それでも私達は二丁目住人に対して静観していた、まだ急ぐ必要は無いと思えたからだ。

 それから暫くして、各コロニーの管理者がキングに従えとの言葉を残し、各リーダー達の呼びかけに応じなくなった。

 管理者は大した事をしてくれてた訳でもなく、消えても影響は無かったのだが…。


「キングに従え、つまりはマリアがここの最高権力者という事か。」

「管理者は、大人一人に対して一人いたのだから、六十四人から一人に減った訳だな、彼らはマリアとのゲームに負けて去ったのかな。」

「可能性は有る、だが音楽村は?」

「ゲーム中の賞品だとか。」

「ゲームに決着が付いたのか、まだまだ続くのか、それを知りたいわね。」

「どうだかな…、武蔵は早速、自分達の管理者がいないのならと門限破りを試みて痛い目を見たそうだ。」

「ああ、瞬時にコロニーへ戻された後はゲートを通れなくなり、著しく老化が進んだと聞いている。」

「武蔵と九兵衛の二人は老けたよな、初めて会った頃は俺らより少し年上という感じだったのに、今じゃどう見てもお爺さんだ。」

「罰なのね、総じてキングに反抗的な二丁目の連中は老化が進んでいるわ。」

「だね、本人達は気付いているのかな。」

「出会った時に俺達を困らせてくれた三丁目の連中は、仕事に熱心でキングを敬う様になったからか、かえって若返った気がしないか。」

「という事を考えると、今からでも遅くないのよね。」

「悩ましい所では有るな、俺達が特権階級の如く振る舞ってでも反抗的な連中を抑え込んで行動を制限していたら彼らの老化は進まなかったかも知れないのだろ。」

「仕方ないさ、集団に於ける自己責任の範疇、記憶の狭間に残されている法と照らし合わせても違法行為とまでは行かなかった、ただ真面目に働いてる連中を不快な気分にさせているのは事実、その報いを受けているのさ。」

「マリアは楽園を暮らし易くしたいと考えている節が有り…、チャンスを与えながら最終的には排除の方向かもな。」

「この先は分からないね。」

「この先か…、何時かは分からないけど次のゲートが開く可能性は否定出来ない、というか否定したくないよな。」

「今後考えられる試練は?」

「ゲートからどんな人が…、否、人じゃなかったりして。」

「そのパターンは余り考えたくないわね、でも我等がマリアさまは今まで無理な要求をして来なかったでしょ。」

「それを信じるしかないね。」

「だな。」


 マリアと話す機会はめっきり減っている、その必要がなくなって来ているからだ。

 他の管理者が抜けた時もマリアは何のコンタクトもとって来なかった。

 ただ、老化の進んだ二丁目住人の姿によって、私達は管理されているという事実を実感していた。

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