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キング  作者: かめ屋吉兵衛
記憶
7/50

七 音楽村

 三丁目の連中は、始めこそ厄介者だったが馴染むのは早かった。

 一日二名という制約は一週間もしない内に必要無くなり、今は八名全員が楽しそうに働いている。

 彼等には自力で自給自足をするだけの能力が無く、管理者の意にそぐわなかったのだろうが、決して役立たずではなく、ロックやセブンが仕事をきちんと説明し指示を出しさえすれば、二丁目住人の何倍も働いてくれる。

 運動能力が高く肉体労働を厭わない。

 麗子の料理に感謝し不平不満を口にする者はいない。

 明るく開放的な環境が彼等を変えたのかもしれないが、元々的確な指示を出し導いてくれる存在を必要としていたのだと思う。

 私達への態度が尊敬を伴うものになるまでに時間は掛からなかった。


 彼らのお蔭で目に見えて生産性が向上したと感じ始めた頃、マリアから三つ目のゲートを開くと宣告された。

 三丁目メンバーは転校生を迎える気分だと笑うが、二十四名が緊張の面持ちで待ってる所へ開いたゲートからは、やはり八名の男女が現れた。

 ただ、彼等は今までの隣人と違い、その手に楽器を持っての登場。

 にっこり微笑むと演奏を始める。


「あっ…。」


 曲を聴きながら二十四人の観客達は瞳を濡らし始める。

 忘れていた感覚。

 ここでは鼻歌すらなかった事に気付く。

 音楽というものの存在が記憶の中に埋もれていた。

 曲が終わるとバイオリニストが話し始める。


「はじめまして、音楽村から来ました、よろしくお願いします。」

「美しい演奏、有難う御座います、ここのリーダー、キングです。」

「八代です宜しくお願いします。」

「こちらこそ、普段も楽器演奏をされているのですか?」

「はい。」

「自給自足は?」

「私達は、この島の食料を分けて頂いていると聞かされています。

 たまにこの島の映像を見せて貰っていましたので、お邪魔させて頂く事が出来、とても嬉しいです。」

「私達とはかなり条件が違うみたいね。」

「音楽をお届けする事が私達の役目だと聞かされていまして、立派なお城、さしずめ宮廷音楽家といった所でしょうか。」


 話を聞いてみると二丁目三丁目とは随分違う生活をして来たそうだ、自給自足より美しい演奏。

 すでに四組のカップルが出来上がり、穏やかな笑みを浮かべている所を見ると、私達と同様幸せに生きていると感じられる。

 ゲートの条件も他とは違う。

 扱いの差が他のコロニーとのトラブルに繋がる可能性は否定出来ないが、彼等とならうまくやって行けそうだ。


 それから一週間、厚遇されていた音楽村の住人に対して反発が出ないか心配していたが、トラブルが起きなかっただけでなく二三丁目の住人達の表情が柔らかくなった気がする。

 音楽の効果なのだろうか。

 音楽村の人達は、演奏だけでなく簡単な作業を手伝ってくれているが、歌を教えてくれるメンバーも。

 曲はオリジナルなのか記憶の底に残っていたものなのかは微妙とのこと。


「キング、良くこんなホールまで作って貰いましたね。」

「はは、一人だけの王国には必要なかったのだが、立派な城を建てる事が目的だったのでね。

 ただ音響とかは考えてないから、八代の様なプロには不満かもしれない。」

「そんな事ないですよ、演奏しやすいホールです。」

「マリアの配慮なのか、それともこうなる予定が有ったのか…。

 管理者からは曲について注文とか有りましたか?」

「いいえ、曲に関しては何も。

 こちらが楽器を要求したら出してくれましたが、始めは思う様に弾けなくて。

 苦労しましたが何とか演奏が様になって来た所で八人が音楽村に集められたと言う感じです。

 嬉しかったですね、演奏を聞いてくれたり一緒に演奏出来る仲間が出来たのですから。」

「成程、一丁目のメンバーと音楽村のメンバーは早い段階からここでの生活に満足してる、だから他のコロニーとは違いゲートフリーなのかもしれません。」

「我々は演奏を聴いてくれる人がいた方が嬉しいので、ここに来られる日を心待ちにしていました。」

「二丁目や三丁目の事は御存じだったのですか?」

「彼等がここへ来てからです、三丁目の人達が登場した時はハラハラドキドキしながら映像を見ていましたよ。」

「はは、隠しカメラは未だに見つかっていませんが、我々の夜の娯楽もご覧に?」

「えっ、夜の風景は見せて貰ってませんが、どんな娯楽が有るのです?」

「海水浴ですよ、水着は有りませんが。」

「わっ、皆さん御一緒にですか?」

「カップルだけの時も有れば全員でという事も。」

「皆さんの仲が良い訳が分かった気がします。」

「運命共同体ですからね。」

「はい、我々もその運命共同体の仲間に加えて頂けませんか。」

「勿論です、正直言って他の隣人達はまだ微妙なのですが、音楽村の皆さんには私どもの感性と近い物を感じています。」

「よろしくお願いします。」


 音楽村が仲間に加わった事で私達の生活は豊かになった。

 マリアにグランドピアノをおねだりしたら、あっさり聞き入れてくれ、城のホールに転送。

 城の住人たちは、交代で鍵盤に触れてみる。

 皆、初めの内はぎこちなかったが、音楽村のメンバーからアドバイスを貰う内、レベルの差は有るものの全員が弾ける様に、特に八重と一花の演奏は良くて、音楽村の連中と合奏することも。

 おそらく、忘れてしまった過去に、弾いた経験が有ったのだと思う。

 八重が何となく弾いてくれる曲の中には、何故か懐かしさを感じるものも有る。

 本人は指が勝手に動くと言うが、皆の目に涙が浮かぶのは、かすかな記憶に何かが残されているからだろう。

 

 二丁目三丁目の連中も音楽に癒されているのか、武蔵達ですら特別な音楽村のメンバーを妬んだりする事はない。

 音楽村は四丁目とはせず、そのまま音楽村として定着させた。

 その出会いからしばらくして四つ目のゲートが開き、更に八人の隣人が増え、彼らは五丁目の住人となる。

 コロニー毎に個性が有る様で、彼らは大人しくて真面目、特に問題もなく三丁目同様馴染むのも早かった。

 そして、身重になった一花の手助けも積極的にしてくれている。

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