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キング  作者: かめ屋吉兵衛
開拓者
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十 王国

 箱舟船団から大地に降り立った開拓者達は、その人数には全く相応しくない広大な土地を前にして、王国という国家形態を選択した。

 人々は思っていた以上に統合の象徴という存在を必要としていたのかも知れない。

 私達は特権階級の存在に対して、もう少し反発が有るだろうと思っていたが、考えてみれば城の子はそう言うレベルではなく、人々が自分達と同列に置く事の出来ない存在。

 城の大人は少々インチキでは有るが、隠しカメラを活用しながら要所要所でリーダーシップを発揮して来た。

 我々をここまで導いてくれた管理者の内、唯一残ったマリアとコンタクトが取れると言う事も私を王にと考えた理由だろう。


「キング、国王の権限はどうして行く?」

「そうだな、王国のスタート時は絶対王政、その後、城のメンバーが指導しつつ議会や政府を作り、国王から権限を委譲して行くというのはどうだ。」

「民の事を第一に考える絶対王政というのは是非試してみたいね。

 国王がこの惑星でずっと暮らすことにはならないのだから、政治は町の人達に任せて行くという事だな。」

「まずは国連を解散して、それに代わる議会の設立ね。

 試しに、国王が指名した人による議会と、選挙によって選ばれた人による議会の二院制ってどうかしら?」

「面白いかも、選挙に当選した人達が、無意味な議論を展開する様なら国王が却下して良いのだからな。

 これから人口が増えて行く事を考えたら、立法府は必要になるのだろうが、国連での議論を通して代表達の資質は把握出来ている。

 政府の代表は国王が指名しても良い。」

「地球での政治形態を踏襲して行くの?」

「絶対王政の期間中に色々試しながら、第二世代と相談して行くのが理想ではないかな。

 第二世代は国家という概念がまだ分かっていないと思う、組織を構築して行くことも教えて行かなくてはならないだろう、社会と個人の関係からじっくりと、人口が増えた時に備えてね。」

「そうだな、今の原始共産制は個々の人が社会の中での役割を真面目に考えている事で成り立っている。

 第一世代はこの社会の安定を考えている人が殆どだからな。

 それを、良い形で第二世代に踏襲して貰わないと、共産制の王国という、我々の記憶に無い国家形態は崩壊しかねない。」

「昔の共産主義って、強引な指導者が絶対王政下の国王が如く振る舞っていた様な気がするのよね。

 自由主義経済を経験して来た人達を強引に共産制へ…、強引に思想を変えさせる様な手法を取らないと成立させられなかったのが共産主義、社会主義だった気がするわ。

 でも、この王国はお金の存在しない原始共産制からスタートしていて貧富の差はない。

 問題は自由に競争しない社会、競争相手のいない社会が上手く発展して行くかどうかね。」

「頑張ってくれた人に、ご褒美は必要かもな。

 今までは、みんなで有難うと言うぐらいだったか…。」

「もう少し目に見える形で、社会貢献をした人が優遇される…、ささやかでも頑張ってる人が社会から認められるシステムが有った方が良いのかな?」

「誰しもが、この国に於ける普通の、健康で文化的な生活を送れる様にしつつ、ご褒美の形で少し贅沢な物を優先的に手に入れられる、その為の報奨金とかはどうだろう?」

「ご褒美用の通貨を発行するの?」

「否、ご褒美の意味と金額を公開し、それを何に使ったかも含めて明示するというのはどうだ。

 ある意味キャッシュレス決済、すべての情報が開示される形で多少の手間は掛かるだろうが今の人数なら可能だろう、その形を試しながら人口が増えた時をイメージしても良いのではないかな。」

「そうね、オーダーメイドの洋服とか、特別な料理とかの贅沢品をその対象にすれば、皆さんの励みになるかも。」

「そういう事なら、惑星一周空の旅とかを用意しましょうか?」

「尊、可能なのか?」

「ええ、その映像を皆さんに見て頂いて、惑星の今を知って貰いましょう。

 先回見て頂いた時よりは緑の大地が広がっていますからね。」

「城の子が案内してくれるそんな旅がご褒美なら…、例えば学力勝負のゲームとか、緑化事業コンテストとか、そんな企画の賞品にしても良いな。」

「ストレートに競い合って貰うのね。

 名誉と言うご褒美を考えても良いと思うけど、やはり目に見える形の賞品が有った方が嬉しいでしょう。」

「積極的に大地を切り開き緑地を広げて行くような開拓者魂を、子ども達にも持って欲しいと思うから、緑化事業コンテストの様なのは是非実現させたいね。」

「大地の開拓事業案と、実際の開拓実績で競って貰おうか?」

「そうだな、企画を検討してみよう…。」


 国の子ども達は、闘争心を持つ人が罰によって淘汰された事や、親たちが協調性を重視して育てた為か、競争心が弱いと感じられる。

 人種を越えて仲が良いので安心では有るが、上を見る気持ちが弱過ぎては心許ない。

 私達は王国のスタートに合わせ、様々な企画を用意する事にした。


「王国の方針と様々な企画、国民に告知して行く事は山ほどあるね。」

「毎日少しずつ発表して行けば、国民は毎日新鮮なニュースに接する事が出来て楽しめるのではないかしら。

 まずは、王国の建国記念イベントからね。」

「ここの大地を踏みしめてから一年となる記念の日から始まる王国建国記念祭、今までも適当にお祭り騒ぎをしてきたけど、国としては初めての正式なお祭りになるわね、でも、マリアさまのテクノロジーはこの日から少しずつ減らして行くと宣言済だから、心から楽しめないかも。」

「それはどうかな、この一年で町の形が出来上がり、食料の備蓄を増やせた。

 夏は冷房なしで過ごせたし、冬も薪を利用した暖房で問題無かっただろ。

 冷凍庫や冷蔵庫はこの先も今のまま使って良いとマリアさまが許してくれたのだから、そんなに不便にはならないと思うね。」

「そうだな、町に関しては問題の無い様に、尊がマリアさまと交渉してくれた。

 荒野を貫く道路も山に向かう道路も、現時点では充分過ぎる距離を完成させている。

 マリアさまのテクノロジーによる機械が減る事に対して具体的な話をしていても、素直に受け入れて行くという感じだった。

 尊もそう感じただろ?」

「はい、特に技術屋さん達は、自分達の手に負えないテクノロジーに頼りたくは無いそうで、本当は冷凍庫だって自力で作りたいと話していました。」

「それなら安心かな、何処までもマリアさまに依存する様な社会では、自立して行けないものね。

 マリアさまに対する感謝の気持ち、マリアさまが見守っていて下さるという気持ちが有っての事なのだから、今のまま優しい社会が続きそうだわ。」


 この惑星の春分の日、一月一日に始まった王国建国記念祭では馬や馬車が活躍しマリアのテクノロジーを使った物はほとんど使われなかった。

 祭りは家畜の世話など休めない作業を交代で行いながら十日ほど続けられ、その間に少しずつ城からの発表を行った。

 王国の名称は緑の王国、この惑星が豊かな植物で覆われん事を願って付けられた。

 緑の王国、初代国王で有る私には城の連中が『全ての始まりの王』という別名を付けてくれたが人々に浸透しそうになく、ニックネームレベルのキングという呼び名が、その持つ意味のままとなっただけの様な気がする。

 企画の発表はその賞品の豪華さに国民を奮い立たせる事になった。

 特に城の子主催のパーティーや惑星一周旅行には十代の子ども達が色めき立つ。

 能力の高い者が勝てるゲームだけでなく、ルールを工夫して能力的に劣っていても勝利出来る企画も用意した。

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