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キング  作者: かめ屋吉兵衛
記憶
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五 隣人

「マリアから指示が有った、他のコロニーとここを繋ぐゲートを一つ設けるので、その場所を決める様にと。」

「他のコロニーか、私達がこの島へ来た時は転送だったから、基本的に条件が違うみたいだな。」

「キング、そのコロニーに関しての情報は?」

「我々と同じ言語を用いる八名が生活しているそうだ。」

「仲間が増えるのね、ここのメンバーだけで不満はないけど将来を考えたら良い事だと思うわ、ゲートという事は人が行き来出来るということなのよね。」

「そう考えると位置って微妙だな、友好的な人達なら城の近くが便利だと思うが…、最初は友好的でも後で変わる可能性は否定出来ないだろ。」

「島は広いから遠くにしても良いけど、問題が無かったら後々面倒なだけよ。」

「キング、ゲートって俺達の知る科学の範疇を超えたものなんだろ、それは鍵を掛けられたりするものなのか?」

「決められた時間だけ通れるそうだ、また状況によって色々な制約を設けるとも言われた。」

「キングはゲートの位置、どう考えてるの?」

「城の近くで構わないと思う、我々にとって害をなす人にしない様、注意を払いたい。」

「こちらの対応に応じて相手の態度も変わるだろうな。」

「ここと同じ様なコロニーなら問題はないとは思うけど…、キングと私達とでは随分違った。

 キングが快く受け入れてくれた様に、私達も新たな隣人を大きな心で受け入れる必要が有りそうな気がするわ。」

「では、城の近くにしよう。」


 マリアに希望の場所を告げる、ちなみに彼女は他の仲間がいる場での対話に応じることは無い。

 翌朝、指定した場所にゲートが出現していた。

 それは奇妙な代物だ。

 車が通れる程の引き戸が一つ。

 横から見ると十センチ程の厚みしかなく、裏はただの壁。

 マリアから告げられていた時間に、その戸が開き八人の男女が現れた。

 見た目は私達より少し年上だと感じられる。

 互いに自己紹介をしてから、島を案内。


「すごい、いったいここはうちの何倍有るんだ、海が見えるけど泳げるのか?」

「ああ、魚も獲れる。」

「森が有って牧場が有ってここは楽園なのか?

 うちの自給自足は野菜ばかり、しかも最近管理者が出してくれる物は量も質も悪くなっているんだ。」


 その後、全員でゲートをくぐり彼らの住居スペースへ。

 体育館程のスペースがすぐに現れ、そこに八軒の家と畑。

 話を聞くと我々と同じ様な道筋をたどった様だ。

 ただ、私と同じ立場になった人物が至って控え目な性格だったのか、余程管理者に気に入られなかったのか、私達の城よりもかなり狭い空間内でグレーの壁に囲まれて生活。

生産量を上げろと言われた理由が分かった気がする。


「うちの管理者からは午前六時から午後六時まで、そちらのコロニーへ行く事を許されている、門限を破った場合は罰が与えられると言われているが、昼の間そちらで働かさせて貰えないだろうか。」

「私は問題はないと思う、皆はどうだ?」

「労働力が増えた方が良いでしょ、キング。」

「報酬は食料で良ろしいですか?」

「ええ、お願いします。」

「罰ってどんな事なんです、俺達はここへ来てから経験していないし聞いたこともないので。」

「今までは、食事が質素になったり欲しい物を貰えなくなったり、門限を破ったら今度はどうなるかなんて考えたくないです。」

「何に対する罰だったの?」

「一つは自給自足への取り組みが甘かった事、もう一つは喧嘩した事。」

「成程、私達はキングのお陰で、そのどちらもクリア出来てた訳か。」

「キングということは絶対王政ですか?」

「まさか、キングは尊敬出来るリーダーよ。」


 こうして我が国の昼間人口は倍に。

 まず彼等に仕事を紹介、それから作業を割り振った。

 隣人達が作業に加わった事で、一日に出来る作業量は増えるには増えた、だが思っていた程ではなく…。

 彼らの作業時間は一日実質三時間ぐらい、しかもだらだらとで我々の一時間分にも満たない作業量、それが食材の代価として適度だと勝手に判断した様だ。


「彼らの事、どう思う?」

「仕事は好きじゃないみたいだね。」

「俺たちに指示されるが面白くないのかもな。」

「自分から動けば指示の回数は減るのにね。」

「あれでは、管理者が罰を与えたくなったのも納得出来るわ。」

「まあ、まだ慣れてないから、しばらくは様子見だな。」

「そうね、でも一組もカップルが成立していないなんて、余程仲が悪いのかしら。」

「いや、すれ違ってるのじゃないか、まあ俺達はキングが真っ先に麗子を指名してくれたお陰で抵抗なく相手を選べたけどな。」

「私達で刺激して上げるのはどう?」

「でも、男性では一条、女性ではナナちゃんに人気が集中してるみたいだったよね。」

「九兵衛と武蔵は仲悪そうだから、離れた所で働いて貰った方が良いかも。」

「そうだな、九兵衛は漁を、武蔵には畑と変更をお願いしてみるか。」

「人の割り振りは、そのままロックに任せたいが、どうだろう。」

「賛成だ、でも、キングはもっとはっきり命令してくれて構わないと思うよ。」

「いや、キングと名乗りリーダー役をやらせて貰ってるが、極力皆と同じ立場でいたいのだ。」

「その姿勢があちらのリーダーとは大きく違うという事なのかもね。

彼らの間では、何となくリーダーが偉そうにしていて、九兵衛と武蔵はそれが面白くないみたいな雰囲気が有るでしょ。」

「その二人が喧嘩して罰を受けたそうだが、今でも微妙、大丈夫かな。」

「彼らがした事で我々が罰を受ける事はないとマリアは話してた、コロニー毎の連帯責任という事の様だ。」

「それでも、彼らが罰を受けないで済む様に気を付けなければね。」

「ああ、ただ、九兵衛と武蔵は我々に対しても…、自分達のコロニーとこことの差が気に食わない様でね。」

「そうなんだよな、うちの美女達の前では大人しいのだが…。」

「難しいかも知れないが、良い人間関係を構築して行く事を今後の目標としよう。」

「そうだな、気を付けるよ。」

「よろしく頼む、我々の事情も変わって行くからね。」

「キング、何か有るのか?」

「ああ…、八重には一花の面倒を見て欲しいのだが…。」

「えっ、一花、どうかしたのか、最近体調が微妙だと話していたが。」

「セブン、私、赤ちゃんが出来たみたいなの。」

「え~! 本当か!」

「作業の合間にデータベースで確認して貰ってね、キングはまだ絶対じゃないと言うけど、私は確信しているわ。」

「やったな一花! 八重、頼むぞ。」

「勿論よ、任せておいて、まず、マリアさまが入れてくれた出産に関係するデータをもう一度確認しておくわ。」

「何か俺達、幸せだよな、記憶は曖昧なままだけど、汗して働いて愛する人に子どもが出来て。」

「それを隣人にも分けて上げないとな。」

「そうよね。」


 記憶に問題は残っているが、気付けば充実した毎日を過ごしていた。

 隣人達の生活を垣間見て更に自分達の充実ぶりを実感、私達はここでの生活に満足しているのだ。

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