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キング  作者: かめ屋吉兵衛
開拓者
44/50

四 国境

 人々は惑星への移住に戸惑いながらも、新たな大地での生活を想定しながら議論を始めた。

 食料に関しては城の子が導いてくれるから問題ないと考えられている様だが、社会的な変化については、その対応に意見が分かれ、私達は諍いが起きぬ様、監視を強化することに。


「ゲートという国境がなくなる事の意味をどう捉えるか、人々の考え方は様々なのよね。」

「まあ、大きく分けると、同じ町にこの世界の全員が住む事になり、一つの国家としてまとまる事を歓迎する人と、独自の文化が廃れて行きそうで面白くないという人かな。」

「さすがに、新たな町に国境を儲ける話こそ出てはいないが、和の国でも日本人として伝統を守って行きたいと話す人がいる、だが、民族を隔てていた物がなくなり多民族国家となって行くのは間違いない。」

「今までも人数的には国家というより村の集まり、でも、言語や文化の違いははっきり有って、子どもが共通語を話す事を快く思っていない人もいるわ。」

「多様な文化を残して行く事は悪くないと思う、ただ、異文化を尊重する心が求められるのかな。

 各国のお祭りを楽しむぐらいの感覚になってくれたら良いのだけど。」

「日本の様に異文化のイベントでもお気楽に受け入れて来た人ばかりでは無いのよね。

 特に言語の問題は難しそうだわ。

 単独居住コロニー保護から、共通語を話す人が増えて、英語が世界共通語だと思っていたスコットランドやサンフランシスコの人達は苦々しく思っているみたいでしょ。」

「城の子にとっては英語も沢山ある言語の一つに過ぎないからな。」

「城の子が、共通語に漢字を元とした表意文字を組み込もうとして、その案を人々から広く集めてるでしょ。

それを切っ掛けに、日本語学習ブームがまた起き始めているみたいよ。」

「母国語が尊重されるのは普通に嬉しいけど、そう考えるとスコットランドの人達の気持ちは無視出来ないわね。」

「それでも、マイナーな言語は世界でも数人しか話せない訳で、この先、方言として残って行くのかでさえ怪しいレベルだろ。

 自分達の言語を残して行きたければ必死に使い続けるしかないが、それを第二世代が受け継ぐ事にどれだけの意味が有るのか分からないね。

 すでに公の場では母国語を使えなくなってる人が多いからな。」

「この環境下で、言語を残して行く意味は…、でも城の子は日本語を大切にしているのよね。」

「私達との会話が日本語だというだけでなく、古典にも触れ言語学を研究して来た結果だろうな。

 望は共通語の欠点として、文学的な味わいに欠けることを上げていたよ。」

「共通語は単語の羅列だけでも通じ易い言語形態だからな。

 言語研究から文化の違いとかも意識している様で、尊から英語と日本語の疑問文の違いは文化の違いなのかなって聞かれた事が有る。

 英語は話し始めて直ぐに質問だと分かるが、日本語ではそれが最後だったりするだろ。」

「それぞれの特徴か。

 まあ、この人数の多民族が多言語を使いながらでも、同じ町で暮らしてたらいずれ融合して行かざるを得ない、共通語では、新語が一般市民の間からも出始めたでしょ。」

「ああ、子ども達は喜んでいた、言葉は使う人によって変わって行くものだからな。

 そう考えたら多くの言語が淘汰されるのも自然な事だ、我々は傍観していれば良いだろう。」

「言語に関しては強制出来ないものね。

 ただ、第二世代の国際結婚に否定的なのはコロニーDの作家達だけではなくて少し心配だわ、まだ先の事とは言え。」

「民族主義的な意識や人種差別的感情は、表面上抑え込まれているだけかもな。

 だが、出会える異性には限りが在るし遺伝的な問題も有る、将来的にハーフやクオーターが増えて行くのは必然だろう。」

「過去を引きずらないで、この世界の未来を考えて欲しいわね、でないと親子関係とかに悪影響を及ぼしかねないわ。」

「今までも試行錯誤の繰り返しだったが、これからも地球では経験していない社会形態の国を創り出して行く訳だから、揉めながら形を作って行くしかないだろう。」

「なのよね、今有る国毎に土地を確保したいという人や、アメリカの開拓時代の様に早い者勝ちで私有地を確保とか、広い土地への移住と知って、変な欲が出て来たみたいでしょ。

 当分は原始共産主義的な生産活動が、最も効率的だと思うのだけどね。」

「その辺りの方向性を城の子から示して貰うべきなのかな?」

「そうね、でも、もうしばらくは様子見で良いと思う、まだ時間は有るのだから。」

「ええ、でも森の伐採作業は急がせているのよね。」

「木材はじっくり時間を掛けて乾燥させるのがベストだからな。

 ここと違って、四季が有り、地震や台風が起きるのだから頑丈な家が必要だ、建築チームは気合を入れていて、伐採チームに必要量を指示しながら、城の子と材料の交渉をしていた。

 石材やセメントの確保とかについてね。」

「まだ、詳しいデータは無いのでしょ?」

「ああ、城の子達もマリアさまの魔法を使わない建築を、データベースを参考にしながら学んでいる段階、でも、高速船が惑星に到着したら直ぐに作業を始められる様に準備を進めている。」

「すべき事が多過ぎたりしてないよね。」

「睡眠時間は変わって無いだろ、今は知的好奇心が満たされて充実した時間を送っているみたいだ。

 マリアがデータベースを拡充してくれたからな。」

「でも、我々が使ってる日本語データベースだけなのだろ、拡充されたのは。」

「ああ、マリアは日本語を特別な言語にする案を子ども達に提示していた。」

「何の為に?」

「城の権威を高めていった方が、惑星に誕生する新たな統一国家が安定し易いという考えだ。」

「そうね、知識を含め多くの力を城が握っている状態の方が、多民族国家をまとめ易いのかもね。

 高い知識を得たかったら日本語を学べ…、ラテン語の様な位置づけにするとか。」

「共通語への翻訳は考えてないのかな?」

「専門用語を新に作り出すのは手間が掛かり過ぎるでしょ。

 共通語に漢字のまま組み込んで行くか日本語で、そうね、医者は何が書いてあるのか患者に分からない様、ドイツ語を利用していた時代が有ったのでしょ。」

「専門家だけが理解出来れば良いのなら、それを日本語でという事か。

 確かに漢字は便利だからな、だが、反発が有りそうだ。」

「拡充された日本語データベースはプリントアウトして公開して行くのだから大丈夫じゃないか。

 翻訳したければ、翻訳したい人がすれば良い。

 それは城の子の役目では無いからね。」

「量が多いし、使い始めた頃は精度の高さに驚いた翻訳機だが、専門用語には弱い。

 翻訳して行くには日本語の知識が必要になるが、英訳したい人に限って日本語を学ぼうとはして来なかったよな。」

「能力的にサンフランシスコの人達には難しそうだ。」

「日本語メインに対して反発したくても、どうしようも無いという事か。」

「私達は日本語データベースで何の問題も無いのだから、この件に関してはスルーしましょう。

 でも教育の過程で、高度な教育を受ける人は日本語必修みたいにして行く事になるのかな?」

「私達が英語を学習して来たみたいにすれば良いと思うけど、最終的に決めて行くのは国連の教育部会になるのでしょ?」

「ああ、だがその国連自体、これからの形をどうして行くかで揉めそうだろ。」

「そうね、第一世代は程度の差こそ有れ、全員が過去の価値観を引きずっているものね。

 そういったマイナス要素を第二世代に伝えないでくれたらと思うのだけど。」

「そうだな、下らない価値観の相違が対立の元として残って行く事だけは何とか避けたいよな。」

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